いまだに、これって夢やったかな、と自分の頬を叩いてみたくなるときがある。
「ヴァン、目閉じて」
かわいいかわいい恋人とキスしているとき。特にこうして彼の方から唇を寄せて求めてくるときは、長い夢でも見ているみたいだと思う。
二人きりになった寮の共有スペースのソファで、隣に腰掛けたナギがほんのり桜色をした唇を寄せてくる。すごくかわいくて、この世のものではないみたいにきれいなのに、そんな彼が口づけを求めてくるなんて奇跡だ。付き合い始めてから二年経った今でも、キスのときに目を閉じられない。このかわいい顔をじっと見ていたくて。
軽く触れ合わせて、「ねえ」とナギがじれったい風に声をとがらせた。
「ん?」
「ヴァンが時々してくれる感じのキス……ボクもしてみたいんだけど」
「べろ入れるやつ?」
「…………うん」
「すればいいやん」
「よくわかんないんだもん」
頬を膨らませて見上げてくるのがかわいい。この二年間で身長差はかなり縮まった。けれどかろうじてまだナギの方がすこし背が低い。
よしよしと頭を撫でる。唇を突き出せば応えるようにナギが軽く触れてくる。上唇を舐めるとナギの手にシャツの袖をぎゅっと握られた。感じているのか怖いのか。どっちにしてもものすごくかわいくてたまらない。舌で唇をこじ開け、舌で歯列を確かめるように、順番になぞった。指の力がまた強くなる。
くちの中で動きを止めていたナギの舌の先端をつつく。と、ふいとかわして奥の方へ逃げていった。
「ちょ、やりたいんじゃなかったん」
「だってこわいんだもん」
「こわいて。前やって気持ち良さそうにしてたやん。大丈夫やからリラックスして、気持ちいいことだけ考えとき」
ほら、と示すように舌で咥内をぐるりとまさぐってからナギのそれに絡める。ん、ん、と上ずった声を出しながらナギもそれに絡みついてきて、ぴちゃぴちゃ淫猥な音をたてながらとろけるように交わる。あー幸せ。しわが寄るほどぎゅっとシャツを掴まれると、頼りにされているのを感じられてどきっとする。そしてまだキスにさえ慣れない幼いナギが愛おしい。大事にしないと、と再び誓いたい気持ちになる。
でもそりゃエッチなこともしたい。たまには――や、週に三回は思う。年上とはいえ、男なので。
妄想して、一人でするのは許してほしい。ナギちゃんで抜いたと宣言するわけでもないし、そんな様子を見せたこともこれまで(たぶん)一度もない。
ナギの前では大人でいたい。それに、軽蔑されたくない。ナギが十八歳になるまでセックスしないと決めたのは、倫理的な理由や未成熟な身体を労わっているからでもあるけれど、大人のくせにがっついていると思われたくないというのも大いにある。
それなりに経験を重ねてきた大人なので、自分で自分を慰めるコツややり方もそれなりに身に着けているし――だからどちらかといえば心配なのは、何も知らないナギのことだ。
性欲なんてありませんと気位の高い猫みたいな顔をしておいて、ヴァンの誓いを揺るがすのはナギの何気ない一言だったりする。ソファでキスしているときに挑戦するように笑って言う「エッチしたいな」とか、抱き合っているときの「ヴァンもドキドキしてるね」とか、小悪魔的な挑発にこれまで何度耐えてきたかわからない。
大人の営みを何も知らないくせに(あの美貌でまだ童貞処女だなんて誰も思わないだろう)男の誘い方だけはあんなに巧みでどうしてくれようか。まず、ちゃんと一人でシてるんやろか――などと妄想を始めるとにわかに興奮して、結局ヴァンの方が高まってしまうのだった。
(あー、やばい。ほんまめっちゃセックスしたい)
二年間もご無沙汰だなんて、アイドルになる前の自分が知ればどう思うだろう。心の中で謝り倒してから妄想の中のナギと身体を重ねる。それも最近すこし上手くいかない。成長期真っ盛りでゆっくりと男の身体へと変化していくナギの姿を、脳内で上手にアップデートできないのだ。今(妄想で)セックスしてるナギちゃんって、初めて会った頃くらいのビジュアルちゃうやろか?
けれども欲求と両手が動くのを止めることはできない。
めちゃくちゃかわいい、と繰り返して真っ赤にさせたい。前髪をかきわけておでこにキスしながら抱きしめたい。野球拳しようと提案して叱られたい。そのあとちゃんと普通に服を脱がせて、素肌にいっぱいキスしたい。ちょっとピンク色がかった肌を撫でて、いろんなところを舐めて、そしたらかわいい声でたくさん喘ぐからそれを聴きながら――。
イけそう。
訪れた射精の期待に右手の動きを速める。
もう声出てまう――そう思った瞬間、扉が小さくノックされた。
「えっ」
いいとこやったのに。
「ヴァン? ボクだけど」
「ナ、ナナナ、ナギちゃん⁉」
「……そうだけど?」
扉のノブがぐっと押し下がる。やばい、と思ったけれどセーフ。ちゃんと鍵をかけていた。
「ちょおっと待ってな、そこで待っててな!」
念押しして、ずらしていた下着と部屋着のパンツをきちんと身に着ける。放出への衝動はナギが部屋に来てくれた喜びで消失しかかってくれたけれど、身体的な欲求だけはどうにもできなかった。
「はい、どーぞ」
鍵を外し、それからダッシュでベッドに戻ってシーツを下半身に被せた。たぶんきっと見られたら気付かれてしまう。だいぶ年下とはいえ同じ男だ。
ナギはためらいなくベッドに腰掛けると、じっとヴァンを見上げる。
「ヴァン」
「ん?」
「あの……あのね」
子どもみたいに所在なげに両手の親指を何度も交差させ、それをじっと見つめる。続きを無理に促さず、下から覗き込むように背を曲げるとナギは小さく頷いた。
「今日、ヴァンとエッチしたい」
シーツの上に放り出した手首をぎゅっと握られる。目線をずらすと、用意したティッシュを置きっぱなしだったことに今さら気付く。それくらい冷静だった。
「ナギちゃん、十八なるまでやらんって言ったやろ?」
「やだ。今日がいいの」
「……待てへん理由、なんかあるん?」
すこし様子がおかしい気がして、訊いた。ナギは首を傾いでヴァンを見つめて頷いた。
「……また身長伸びてた」
「え?」
「身長伸びたの。体重もちょっと増えて、大和に聞いたら、太ったんじゃなくて筋肉量が増えたんだろって言われた」
「あぁ、成長期やもんなぁ」
「そうじゃなくてー!」
握りこぶしでぽかぽか背中を叩かれる。そういえば、こうやってナギが怒りを示すときに、結構本気で痛いと感じるようになったのはいつからだろう。
「ヴァンはいいの⁉ 声も低くなってきてるし、もうかわいいだけのナギじゃなくなってきてるんだよ⁉」
「や、ナギちゃんはずっとかわいいし……」
「概念の話じゃなくって!」
「うーん、まぁそうやなあ……」
「そのうちヴァンの身長だって抜かしちゃうんだからね⁉」
「……それは、」
想像すると、ちょっと胸につかえるものがあった。
ナギが成長期を迎えていることは年齢的にも見た目にもわかることだし、喜ばしいことだけど。でも。心が揺らぐ。ナギほどの美貌をもってすれば、このままだときっと王子様みたいな『大人の男』になるのだろう。かわいいかわいいと持て囃していた周囲が、突然手のひらを返したようにかっこいいねとめろめろになってしまう光景が目に見える。それはちょっと面白くない。
「……ていうかぁ、ヴァンって本当はボクとしたくないんじゃないの?」
「いやいやいや! 何言うてんの⁉ 本気で言うてんの⁉ ヤりとうてヤりとうておかしなりそうなんやけど⁉」
「じゃあしようよ」
ね、とねだる瞳に射抜かれ、うろたえた隙に軽くくちづけさえされてしまう。うわ、かわいい。それに男前。好きや好きやこんなんめちゃくちゃ好きや。気持ちが大波をたてるように突然昂ぶって、ベッドに押し倒して細い手首を縫い留めた。身長は確かに伸びたかもしれないけれど、でもまだまだ華奢な身体だ。
白いシーツに沈んだ天使みたいな恋人は、楽しそうに笑って灰茶の瞳を輝かせる。
「……ヴァンのエッチ」
「アホ。当たり前やろ」
「おじさんはナギのことどーしたいのかなあ?」
「こら、お兄さんやろ。……ていうか」
「ん?」
「久しぶりやな、ナギちゃんが自分のこと名前で呼ぶの」
「……ボクももう子どもじゃないからね」
「ワイの前だけでもそう呼んだらええのに」
「ヴァンがそっちの方が好きならそうするけど?」
「ナギちゃん、さらっとそういうこと言うよなぁ」
だから全く勝たれへん。
ちゅ、と唇に掠める程度のくちづけを落とす。思えば初めて出会った十三歳の頃から謎の色気がある美少年だったけれど、それは時を重ねるごとに増しているのがわかる。睫毛の先からもこぼれてしまいそうなくらい駄々洩れで心配になる。触れた唇を下降させ、すべすべの頬と顎から首筋をなぞるようにキスをした。長めに残した襟足がくすぐったい。
「ん…………っ」
声を聴くだけで達してしまいそうで焦った。張りつめていた性器は愛らしい恋人の温度を感じて萎えてしまうことはなく、ナギに触れることない距離でかえって硬度を増していく。
「ナギちゃん、服、脱ごか」
「えっ……」
「ん、ワイが先に脱いだ方がいい?」
「あ……うん、そう」
頭から被っただけのTシャツを脱ぎ捨てる。こんなことになるならもっと鍛えておけばよかった。ふいっとそむけたナギの頬が赤い。
「なんでそんな緊張してるん」
「べ、べつに?」
「一緒に寮の風呂入ったことあるやん」
「だって……慣れてる感じでなんかやだ」
「しゃあないやん。ほんまに慣れてるもん」
むくれた顔にかかるベビーピンクの髪をそっと払う。わざとらしく頬を膨らませた愛らしい表情のまま、ぱちぱち瞬きしながらナギの視線がのぼってくる。
「かわいーな、ほんま」
「ばかにしてるでしょ」
「してへんよ」
「じゃあ子ども扱いしてる」
「そらちょっとはするやろ。……あんなぁ、ナギちゃん。確かにナギちゃんよりちょっとは慣れてるかもしれんけど、ナギちゃんと付き合い始めてから一回もしたことないのはほんまやで」
「……わかってる。疑ってるわけじゃないよ」
「せやからはよナギちゃんのかわいいとこ、もっといっぱい見たいな」
互いに口が達者すぎるところが裏目に出てしまっている気がした。ああ言えばこう言う、そんな性格なのはお互いさまで、ナギがなにか言葉を発そうとしたのを、服を脱がせて塞いだ。ネイビーの薄手のTシャツ一枚。
「あー……かわいい」
上を脱がせただけで真っ赤になる姿がもうたまらない。
筋肉量が増えたという大和の指摘は正しかった。凹凸の少ない平らな白い肌にうっすら浮かび上がる大人の男の片鱗。こんなきれいなものに今まで触れてこなかっただなんて、自分の忍耐力を今はとびきり賞賛してやりたい。
どきまぎと顔をこわばらせていたナギは、突然、信じられないものでも見たように瞳孔を開いてヴァンに向かって指をさす。
「なに?」
「……なんでもう勃ってるの……?」
「こら、そこは指さしたらあかんやろ」
「や、でも」
律儀に指を引っ込め、手のひら全体で指し示す。それはそれでなんというか、複雑だ。
「今いきなりこうなったんちゃうからな? ナギちゃんが部屋来るまでしてたから! ナギちゃんのこと考えながらしとったら来るんやもん。やから、責任とってな」
「責任って……」
「わかってるやろ」
覆い被さりキスをする。そわりと肌と肌の触れ合う感覚に久しぶりにときめいた。
「ナギちゃん、舌出して。ナギちゃんがしたいって思ってるん、ちゃんと教えて」
神様が上機嫌でパーツを配置したみたいに恐ろしく整った顔がぶわっと赤くなり、そして薄いピンク色の唇から白い歯と、真っ赤な舌が姿を覗かせる。目の前に差し出された餌に食い付かないなんて失礼だしもったいない。負担をかけない程度にナギを組み敷き、窒息へ誘うようなねちっこいくちづけで攻める。狭い咥内がもう今だけははるか遠い宇宙に思えた。どこまでも潜っていける気がして。
「ん、んぅっ、ん、もぉっ」
「あーもうかわいい、ほんまかわいい。あかん、落ちつかれへん。ナギちゃんかわいすぎてあかん」
「あたりまえでしょ……ナギなんだから」
「うん、そうやな」
おまけのような追撃のような軽いキスをして、それから瞳を間近に寄せる。ほどけてきた空気にほっとした。
「なぁ、ナギちゃんってAVとか見るん?」
「…………そっちはどうなの?」
「ワイ? 今はたま~に見るくらいやな。ナギちゃんの妄想してる方がええもん」
「どうせエッチな妄想ばっかりしてるんでしょ」
「そらそうやろ」
「出演料とるからね」
「将来身体で払います~」
「うわ、親父くさ……」
「え、今の?」
「うん」
ナギの手のひらに頬を包まれる。めちゃくちゃぬくい、と思ったら、そのまま引き寄せられて唇が重なった。
「ナギちゃんは、ワイの妄想とかする?」
「してない」
「そっか。じゃあ今日のこと思い出して、これからはいっぱいしてな」
穏やかな心地よさに身を委ねながら、なだらかな首筋に唇を寄せる。音をたててくちづけて、肩、そして二の腕へ。二年前はたぶんなかった筋肉のかたちをまざまざと思い知らされる。成長を近くで見てこられたのは単純に嬉しい。
腕をぐっと上げさせ、腋に鼻先をうずめると、組み敷いた身体がびくっと揺れた。
「やだ、そんなとこ」
「全然いやちゃう」
ていうかなんか、めちゃくちゃいい匂いする(気がする)し。もっともっと、同じ人間だという証拠を見せてほしいくらいなのに、全てが清廉で愛くるしくて困ってしまう。
「こんなところがいいねん。他の誰にも見せたらあかんで」
「あ、やだ、って……」
窪みに舌を這わせ舐め上げる。ナギはたまらなくなったのか両足を畳んで胎児のように丸くなり、手のひらで声を殺した。あかんて、とその手をはがす。
「や、やっ、やだ、くすぐったい」
「ここ、くすぐったいんか?」
「ん、くすぐったいぃ……」
「くすぐったいって気持ちいいに近い感覚らしいで。せやから、今からいっぱい二人でくすぐったくなろな」
白い肌がじんわり熟され色を濃くしていく。可憐な桜色に染まっていくのをスローモーションで見ているみたいで、むらむらくる衝動が止められなかった。
ぴかぴかに磨き上げられた美しい身体を再び俯瞰で見つめる。ナギは呼吸を荒くさせ、ねだるような責めるような瞳でヴァンをじっと見つめていた。この目と見つめ合っているとマゾっぽいの気質にさえ目覚めてしまいそうな気がする。いじめるのもいじめられるのも、ナギが相手ならきっと楽しい。
「きれいやな、ナギちゃん」
「かわいいって言ってよ」
「もちろんかわいいで。でも、それだけじゃないんやなって。ナギちゃんも大人になるんやな」
いろんな努力の上にできているきれいな身体に再び唇をすべらせる。こうして好きにすることを許されているのが夢みたいだ。
ちょこんと主張をした胸の尖りに舌先で触れると、細い腰がシーツの上で浮かび上がった。
「ゃ、あ!」
「感度ええんやなぁ、ナギちゃん」
「やだっ、ナギ女の子じゃないのに」
「女の子はここがいいって知ってるんや」
ちゅう、と細かい粒を吸い上げる。
「ナギちゃん、どこでそんなんお勉強したん?」
「やっ、や、ばかっ」
「でもな、男でもここで感じるようになるらしいで。がんばろな、ナギちゃん」
甘いものが塗ってあるみたいに舐めつける。控えめに表れていただけの乳首は次第にぷくりと発情して赤い色をふくふくと見せつけてくる。感じているのがわかるともうやめる理由はなかった。前歯でそっと甘噛みし、パンツに手を差し込んで下着の上から性器を撫でる。
「あっ、あ、あ……っ!」
力任せにぎゅっとしがみつかれる。まだナギが小学生の頃、ソファで寝こけていたのを抱っこして運んだ記憶がふっと脳裏に浮かんで、いけないことをしている感覚が強く滲んだ。罪悪感は興奮を最大限に煽る。
「ばかばかばかぁ」
「ナギちゃん」
「やだ、さわったまま、しゃべらないで……っ」
「こんなときくらい好きって言ってほしいわ」
「きらいきらいきらいきらい!」
「なんで」
「むかつくもん」
顔を上げる。琥珀の色に似た瞳が潤んで、真昼の月みたく神秘的に映えていた。
「ヴァンはいっぱい知ってて、大人で」
「なんも知らんよ。ナギちゃんのことはまだなんも知らん」
「ずるい」
「だから教えて、な」
「ずるいー!」
ぽかぽか胸を叩かれる。全然痛くなくて、手加減されているのがわかった。
「ナギだってまだわかんないのに」
「じゃあ一緒に知っていこ」
「……ほんとずるい、けど、うん」
ちいさくこくりと頷く。きゃんきゃん吠えて、やだやだと反抗して、でも結局腕の中で甘えたがって。どうしようもなくかわいい。ナギは瞳をうるうるさせて(たぶんわざとだ)ねえ、と首を傾げる。
「両手で違うとこ触るのは、やっぱりだめ。おかしくなっちゃうもん」
「うん、わかった」
「あと、ヴァンもしてほしいことあったら教えてね」
「んー……じゃあ、ヴァンちゃん大好きって言って」
「……ばか」
「なんでやねん」
「そんなの言わなくてもわかってよ」
「わかってるけど聞きたいもんやろ」
「うん」
「……じゃあ、おっぱいだけ触ってもええ?」
「……うん、いいよ」
まるで初恋みたい。丁寧に丁寧に肌の上で手のひらを移動させる。
この手の――つまりエッチな動画やDVDは結構たくさん見てきた方だけど、こんなにきれいな裸体を見るのは初めてだと本気で思った。真っ白じゃない、薄らいだ桃色。子どもとも大人ともつかない成長過程の危うさがあって、何よりそれはヴァンにどうされてもいいと誘うように無防備で。
この唇は下衆なものだと思われていないだろうか。とがったところを口に含んで、舌を往復させる。
「あ、あっ……ぁん……」
かわいい。声にして伝えたいのに唇を離すのが惜しかった。もっともっとこの声を聴きたい。鈴を転がしたような声ってこういうのを言うのかもしれない。りり、りり、と揺れる涼やかな、でも扇情的な音色。
「ぁん、あぁ、あ――」
好きだと教え込みたい。どれほど想っているか。欲しているか。うんと伸びてナギの唇にキスをする。よく知った感覚に安堵したのか、ナギの方から口を開いてもっと深く甘美な交わりを望んだ。またひとつ大人になった。長い長い階段を、下からナギが追いかけてくる。だからヴァンはすこし立ち止まって、がんばれと笑いながら手を振る。ここで待っているから。
「ナギちゃん」
抱えていられない感情を声にして逃がす。ぎゅうぎゅう抱き合うと、ナギの下腹部も欲に狂って反応を示しているのがわかった。
「こんなの、きもちいわけないって思ってた」
「そんなわけないやん、アホやなあ」
「うん……ほんとだね」
「ナギちゃんも勃ってきとる」
「……うん。触るなら、ちゃんと脱がせてから、ね」
「かしこまりました、ナギちゃん様」
恭しく手の甲にキスをすると、得意顔でナギが笑う。
慎重に脱がせた下着から飛び出る頭をもたげた性器はまだ幼い子どものそれだった。使い込まれていなくて、きっと自慰もほとんどまともに経験したことがなくて。こんな部分でさえ宇宙一かわいい帝ナギのイメージを保って手入れされているかのような愛らしさがあった。ちょっと膨らみかけているそこをじっと見つめていると、じたばた長い脚を蹴り上げて抵抗してくる。
「じろじろ見ないで!」
「や、めっちゃかわいいなと思って」
「そんなとこ見てかわいいとか言わないでよね⁉」
「ちゃうって。大きさとかじゃなくて、色とかかたちとかやって……ナギちゃん、ほんまに一人でしとるんか?」
軽率に触れることすら憚られてぴょこんと反った亀頭と向き合っていると、持ち上がったナギの爪先が行儀悪くヴァンの足の間を軽くつついた。
「ヴァンのはどうなの?」
「こら、足でやったあかん」
「興奮したくせに」
どこにも触れられていないのをいいことに、ナギの瞳がいじわるくきらめく。あーこの表情、めっちゃ好きや。
「不公平だよねえ? ヴァンもちゃんと脱いで見せてよ」
「わ~、ナギちゃんのエッチ」
「ヴァンに言われたくないんだけど!」
「なんか、あれやなあ。ナギちゃんの見たあとに脱ぎたないっていうか」
いや、脱ぐけど。そんなにためらいもないけど。気が引けるわけでもないけど。でもプロのめっちゃ熱くなる試合見たあとにオッサンの草野球見に行く気にはならへんやろ? がんばってるなあ、って感想しか出えへんし。……かなり自己評価低めの例えを口にはせず、ヴァンも着ていた衣服を脱ぎ捨ててナギにまたがった。
「…………ほんとだ」
「確かにじっと見られんの恥ずかしいな」
「でしょ」
「なぁナギちゃん」
神聖な気すらするその場所へ手を伸ばす。性器をきゅっと握り込むとナギが身をよじって喘いだ。
「ん、ぁあっ」
「ほんまに自分でやってるん? こうやって?」
「や、ってる、やってるもん……たまに、だけど」
「そっか。今度やってるとこ見せて」
「やだっ……ぁ、あっ!」
「なぁ、どのへんが好き?」
放出するくちを塞ぐように、親指で先端をぐっと押し込む。残りの指をうねうね動かすと、そのかすかな動きに反応してナギの腰がいやらしく揺れた。
「あ、ぁん、しらない……っ」
「じゃあ、強くすんのは?」
「わかんないっ」
「知らんこといっぱいで、今から楽しみやなあ」
ゆるりと擦り上げる。自分のスピードで高まれないことがもどかしいのか、溢れた涙が長い睫毛を濡らしてぼろぼろこぼれる。
「ああ~、ごめんな。泣かせるつもりじゃなかってんけど」
ナギはぶんぶん首を横に振る。
「ヴァン」
「え?」
「……くっつきたい。や、じゃないから……ぎゅってして、それからもっとして」
「あーもう」
それなりに心のキャパシティは広いつもりでいたのに、ナギの幼気な愛らしさはそれを簡単に超えてくる。冷静でいられない。受け止めきれずに溢れ出してしまいそうになる。せき止めないといけない欲望も、大人としての自覚も全て。
空いた左手で強く抱きすくめると、ナギが背中に強く抱き縋ってきた。
「もっと、さわって」
「うん……変な感じせんか?」
「ぜんぜん……」
「そっか」
「んん……ぁ、ぁん、あっ、ぁあん……っ」
「かわいーな、ナギちゃん……」
「あ、ぁ、うそ……っ、でちゃう、ヴァン、だめ、でちゃうからぁ……っ」
「うん、いってええよ」
「や、あ、ぁ、ゃんっ」
「ほら、きもちええやろ」
「いいけど……っ! や、ぁああッ⁉」
ぶるりと手の中に振動が伝わる。
自分以外の男の精液を触るのは初めてだったけれど、思いのほか興奮してしまった。吐精に疲れ切ったナギの身体がくたりと倒れ込んでくるのを受け止めて、ティッシュで手のひらを拭う。
「もっとゆっくりしてよぉ……」
「うそやん。めっちゃゆっくりした方やで」
「ナギ、慣れてないもん……」
「そうやなぁ。ごめんごめん」
肩に乗せられた頭を撫でる。普段のあまのじゃくな態度も一緒に吐き出してしまったのか、飼い主に懐いた猫みたくごろごろ擦り寄ってくるのがたまらなくかわいい。自分も我慢の限界だということを忘れ、また唇を求め貪った。
「ほんまかわいい……。ええんかな、独り占めしてもうて」
「独り占めしてくれなきゃやだ……」
「嬉しいこと言うてくれるやん」
「……好き、だから」
至近距離で紡がれる好きの言葉の破壊力は凄まじい。普段あまり(ヴァン比で)言ってくれないからこそ余計に。ツンツンしているのも俗に言うツンデレっぽいところも好きだけど、でもやっぱり素直に好きと言われるのがストレートに心を打つ。ご機嫌を損ねないようゆっくりと腕を解き、視線を交わらせたまま顔をナギの下腹部にそっとうずめた。
「へっ⁉」
とろとろ蜜をこぼす性器を口に含む。砂糖菓子でできたみたいにかわいいばかりの身体でも、ちいさな孔から分泌された男の欲望は生々しい味がした。
「えっ、あ、なに……っ⁉」
「なにって、フェラやけど」
「だめ、そんなとこ舐めちゃ……」
「ナギちゃんは潔癖やなぁ。そういうとこかわいいけど」
根元を舌の表面をたっぷり使って舐め上げる。慌ただしく上半身を起こしたナギに頭を掴まれて、でもやめるつもりはなかった。
「や、ぁあ、あ」
味覚と触覚がおびただしい熱で研ぎ澄まされる。くちの中で硬く大きく膨らむ性器に、ナギも男なのだと感じてむしろ愛おしさが増した。同じ男なのにこんなにかわいくて、なんでもしてあげたくなって、でもたまにはちょっといじめてみたくて。めろめろになって、べたべたに甘やかしている自覚はあったけれど、ここまで盲目的に愛してしまっているとは今まで気付かなかった。
「ぁ、ヴァン、だめ、離して」
離せと言われたら離したくなくなる。二人きりの夜にこぼれる「だめ」は「いい」でしかない。
鈴口をちろちろ舐めて、斜めに走るくびれの線に舌を走らせるとナギはあっけなく限界を迎えた。
「ぁん、あ、やだ、あ……ッ!」
ちいさな火花が弾けるような射精に至り、とくとくと白濁が注ぎ込まれる。
される方のフェラチオは嫌いじゃなかった。でも、出したものを飲まれる感覚はよくわからなかったし、実際そんな行為に至ったのは歴代の恋人たちの中で二人もいたかいなかったかくらいだ。でも今、ナギの身体から吐き出されたものを取り込みたいと思った。食道はきっと受け入れたがらないけれど、ただ心がそうしたい、それだけ。
顔をあげ、今にも泣きだしそうなナギとキスしたい気持ちをぐっと堪えた。目が合うとふいと顔をそらされてしまう。照れているわけでも怒っているわけでもなさそうな、ばつの悪さを感じているような表情。
「どしたん?」
「……なにが?」
「かわいいけど変な顔してるから」
ヴァン的にその表現に矛盾はなかったけれど、ナギは可笑しそうに「なにそれ」と肩を震わせる。複雑そうな顔をしていたってとびきりかわいいのだから仕方ない。
「なんか……どきどきしたっていうか、興奮した、っていうか……」
「ほんま? 良かった」
「うん。ナギも……してあげよっか」
「ええ⁉」
がばっと身体を持ち上げて近寄ると、ナギの笑いが苦笑に変わる。だって、そんな。もしかしてこれは夢なんか?
「え、ナギちゃんほんまに? ほんまにええの?」
「がっつきすぎ」
「当たり前やんか!」
「ヴァンってそういう人だよね~」
「そんなとこが好きやろ?」
こうやっていつもいつも、素直じゃないナギに好きだと言ってもらえるチャンスを自ら逃しているような気がする。万が一ナギの気が変わってしてもらえなくなれば数百年は後悔し続けるだろうから、お願いしますと下手に出た。
「でもすぐいったらごめんな」
「ええ~⁉」
「しゃーないやん。我慢しててんから」
脚を開く。その間でナギが四つん這いになる姿を認めるだけで罪悪感やら高揚感やらいろんな気持ちが一気に襲いかかってきて心が乱れた。石川のご両親に胸中で謝罪して、ごくりと生唾を飲み下す。
ナギはしばらく目の前の性器をじっと見つめて、それからゆるやかに目線を上げた。
「ナギのと全然違う」
「ナギちゃんのがかわいすぎんねん」
「バカにされてる気がするんだけど~?」
「してへんしてへん。素直に受け取ってぇや」
「……わかった。で、ナギも、飲んだ方がいいの?」
「えっ、いやいやそんな、ワイがしたかったから飲んだだけやからナギちゃんは合わせんでええよ」
「今までされたこと、ある?」
「そんなん気にせんでええやん」
「やだ。気になるんだもん」
「…………一人、覚えてる子はおるけど。飲むのめっちゃ好きやったなって」
ぴくりとナギの眉が吊り上がる。機嫌が悪いときの顔。
「じゃあナギもする」
「いいって」
「するから。だからその人のこと全部忘れて」
女王様の命令みたいに強い口調で言われ、思わず頬がゆるんだ。
「え~そんな、かわいすぎるやろナギちゃん」
「ナギがかわいいのは当たり前。で、忘れた?」
「はーい忘れました!」
「よろしい」
にこりと微笑まれてどきりと――性器が反応を示す。それを楽しそうに眺めるナギの表情に、また止められなくなる。分泌され続ける我慢汁を人差し指で掬うように撫でられ、それから先端をほんの少し、ちいさな口に咥えられた。
「う、わぁ……」
「なに、変な声出てるけど」
「だってやばいんやもん、これ」
「何回もされたことあるくせに!」
「全部忘れた! これが初めてですー!」
「調子いいんだから……」
ふっと笑う息が敏感な部分に吹きかかる。ぞくぞくきて、露出した下半身が大変なことになっているのがナギにも丸分かりなのが恥ずかしいような嬉しいような。本気でどうにもならないうちに「ナギちゃん」となるべく理性的に名前を呼んだ。
「ちょっと移動しよか」
「ん?」
ナギの身体を抱き起こし、ヴァンはベッドのふちに移動する。フローリングに敷いたカーペットに両足をつけ、その間にナギを座らせる。
「これでいいの?」
高低差がついたから嫌でもナギがヴァンを見上げるかたちになった。髪をくしゃくしゃ撫でて「うん」と返すと、ヴァンの太ももに頭を乗せて「どうしたらいい?」とナギが問う。
「言ってくれたら、ヴァンがしてほしいこと何でもしてあげる」
「うわー、反則! かわいすぎるー!」
「本気で言ってるんだけど!」
「わかっとーよ」
何でもしてあげるなんて、夢の中でさえ言われたことがなくて茶化しておかないと歯止めがきかなくなりそうだった。
「せやなぁ……じゃあ、横から咥えてみよか」
「うん」
ベビーピンクの髪を耳にかける。その仕草が妙に色っぽくて「わ……」と情けない声が出た。いつの間にかフルに勃起した性器に艶やかな唇が触れる。ヴァンのお願い通り横からぱくりと咥えられ、おさかなくわえたどら猫、おさかなくわえたどら猫、と余計なことを考えていないと今すぐ達してしまいそうだった。
「ナギちゃん、そのままこっち見て」
駄々洩れになった欲望にもナギは従順だった。口に性器を当てたまま顔を上げる。うわ、天使。天使がフェラチオしてる。うそやろ。
熱い感情と単純な興奮がぶわっとせり上がって泣きそうだった。でもこんなことされながら泣くなんてさすがに枯れきったオッサンみたいでやばい。ぐっと我慢に我慢を重ねていると、ナギがぱっと口を離す。
「まずーい……」
「旨いわけないやろ」
「だってぇ」
「いやならやめてええで」
「やめないよ」
「……ナギちゃんのそういうとこが好きやわ」
「どういうとこか全然わかんないけど、ナギも好きだよ」
さらりと言い放ち、今度は先端をぱくりと含まれる。くびれに舌がたまたま当たり、出してしまいそうになるのを堪える。シーツを握り込む手に力がこもった。出したいけど、もっとしていてほしい。ちいさな口に男の欲望がみっしり詰まったものをもっと、もっと感じさせていたい。
「ナギちゃん、こっち見てして」
「ん……」
「あー……あかん、やっぱり見んといて」
やだ、と見上げる大きな瞳に訴えかけられる。どうすればいいのかわからずただ咥えられているだけだというのに、心臓がばくばくうるさい。全身の血が巡って下半身に集まっていくのを感じた。もうこれ以上ないと思っていたのに、ナギの咥内で男の欲望はむくむく膨らんでいく。
「あーもー……ナギちゃん、あかんてー……」
見せつけるように大きく口を開いて、それからがぶりと噛みつくようにまた口を閉じる。華やかな美貌を称えた顔の味覚を備えた部分に、己の最も正直なものを食まれているのがこんなに気持ちいいなんて。本当に初めてみたいに感じまくってしまう。
子どもが飴玉をしゃぶるように舐められ腰が浮かぶ。長い睫毛に縁どられた瞳をすっと閉じるといつもより大人びて見えて息をのんだ。
「ナギちゃん。もうあかん……出すで」
いいよ、と伝えるように一度だけ頭が縦に揺れる。
もう我慢しない。身体中に力を込めていたのをふっと開放すると、射精までは一瞬だった。割とご無沙汰だったこともあって放出は長く続き、途中で口を離したナギの顔に白濁がびゅっと飛び散った。
「わー! すまん! かけてもーた」
ティッシュを抜き取り背を丸める。気持ちの良い射精の直後なのに、白いナギの肌に散った欲望を眺めるとまた性器が勃ち上がって反応してしまう。
怒られるのを覚悟していたのに、ナギは口の中の残滓をごくんと飲み込んでされるがままに顔を突き出した。
「あーあー、めっちゃ汚してもーた……気持ち悪ない?」
「うん」
ふるふる首を横にちいさく振る。口の周りと頬にかかった白濁を拭いて視線を下げると、ナギの幼い性器もぴんと反りかえっていて思わず二度見した。
「どしたん、ナギちゃんも興奮してもーた?」
「……ん」
「そっかあ」
こくりと頷くのが愛おしすぎて抱きしめたい衝動を抑え、低い声で「おいで」と呼びかける。ベッドに膝を乗り上げたナギがぎゅうぎゅう抱き着いてきて、肌を合わせる幸福を初めて知ったみたいに満たされた。
「ありがとう。めっちゃよかったで」
「……ほんと?」
「本当や。続き、しよか」
「……うん」
「なんか急に弱弱しなったな。もしかして、ぶっかけたん怒ってる?」
「緊張してるの。……それくらいわかってよ」
「えー今さら?」
「だって……」
「……あぁ」
そうか。ぴんときた。抱きしめた手のひらでわしゃわしゃと後頭部を撫でる。
「今からもっとすごいことするからびびってるんや」
「びびってないもん」
「でも今日は最後までやらへんよ」
「え、なんで?」
「大人になるまであかんって言ったやろ?」
唇の表面同士を触れ合わせる。もっと深いキスをしてもいいだろうか。お互いにお互いのものを飲み込んだ口と口だ。
「でも……ここまでしたのに?」
「ナギちゃん、このあと何するかちゃんとわかってるか?」
唇を割って舌を押し入らせる。ナギもそれに応えて、そしてキスの間に悩ましげに唸った。もっとすごい『何か』の答えを探すけれど、見つからないようだった。
「練習しよか」
濡れた唇から垂れた唾液を拭う。ナギは素直に頷いた。
「四つん這いなって」
「……うん」
「こわいことせーへんから」
約束を結ぶみたいに穏やかに背中を撫でる。
ヴァンの腕から抜け出したナギはシーツの上で四つん這いの姿勢をとって「これでいいの?」と顔を上げた。その後ろからのしかかるように覆い被さる。手首を掴んで、手のひらで身体を支えていたのを、肘から下をシーツにつかせて猫が伸びをするみたいな体勢をとらせる。
どこもかしこもきれいな身体だった。引き締まったかたちの良い尻を撫で、指先と性器の先端で割れ目をつーっとなぞる。
「や……っ!」
「ここ、感じる?」
「くすぐったい……」
触られてくすぐったいのは、気持ちいいという感覚に似ている。さっきそう教えたのを思い出したのか、「気持ちいい、かも」と言い直して手近な枕をぎゅっと抱きしめる。
まだ指一本も受け付けなさそうな閉ざされた孔に性器を擦り付けると「ひゃっ!」と身体が丸くなる。
「ナギちゃんには女の子みたいに挿れるための場所がないから、ワイの、ここに挿れるで」
「ぁ、あぁ、もうっ、はいっちゃうっ」
「まだ入らへんよ」
ぐっと押し付けると、ナギの腰がへなへな崩れて尻だけを突き出す格好になる。こんなエロい姿見ていいんやろか――目をそらすという選択肢はないけど。
「ほら、ほら……入らんやろ」
「ぁ、あっ、あっ、はいって、ないの……?」
「うん、入ってたらさすがにわかると思うで。たぶんちょっと痛いやろし」
「ナギ、痛いの、や……」
「んー……そらそうやんな。やからちゃんと、時間かけてここ、ワイの入るように広げていこな」
「そしたら、痛くない?」
「うん、頑張るからな」
「じゃあ、いいよ……」
振り返り、ナギが微笑む。とろっとした瞳の奥に見え隠れする欲望にどうにかなりそうだった。本当は今すぐにしたい。でも何の用意もないし、ヴァンのエゴだとしてもやっぱりこの未熟な身体が大人になるまで待ちたい。二人はまだ大人と子どもだから。
押し付けていた性器を離し、マッサージみたいに足の指をくにくにと揉んでやる。
「今日はもうちょっと、二人で一緒に遊ぼか」
痛くないことやで、と付け加えると、ナギの身体はわかりやすく柔らかくひらく。細い腰を掴むヴァンの手付きに、シーツにだらりと伸びた身体がびくっと震えた。
「あ、ごめんな。なんも言わんと触っちゃった」
「いいけど……びっくりしただけだから」
「あんな、ワイの、ナギちゃんの足で挟んで」
硬い性器をナギの太腿の間に差し込む。肩幅に開かれていた足が閉じると、まるで本当にセックスしているみたいに見えた。ナギは抱きしめた枕に顔をうずめて、「ねえ」とじれったく言った。
「よくわかんないけど、なんかすっごくナギだけ恥ずかしい気がする」
「ん、じゃあワイも何かした方がいい?」
「何してくれるの?」
「すぐに思いつかんけど」
恥ずかしいことを真面目に考えていると「なにそれ」とナギが笑い出す。
「たぶん、この体勢でふつうに会話してるのが一番恥ずかしいよね」
「確かにせやな。動いてもええ?」
「うん……いいよ」
「気持ち悪かったりしたら、手あげて教えて」
「歯医者さんみたい」
と、ナギが枕から顔を上げる。
くるりとヴァンを振り返り、二人が密着するところで行われる交合をじっと見つめた。勉強熱心でいたいけな瞳。
ゆるりと腰を引いて、後孔にたっぷり触れるように腰を突き入れる。擦られる感覚がだいぶいい。普段他人に触れられることのない孔を何度も掠められ、ナギの体内でもそれがじわじわと快楽に変わっていくのが見て取れた。
「ぁ……あっ」
「あー……あかん、これめっちゃいい」
「あ、ぁ、やだぁ……」
なかにいれたい。でもまだあかん。いれたい。あかん。
性欲と理性が殴り合って、そして結局のところは理性が勝利する。まだあかん。待てば待つほど熟して美味しくなるから、と自分自身に言い聞かせる。前に手を回してナギの性器を握り込むと、そこもとろとろと先走りをこぼしてよがっていた。
「ナギちゃん、もうほんまあかん。かわいすぎるし……めちゃくちゃ気持ちええ……」
「あ――あ、ぁ、ナギも……っ」
「ほんま? よかった」
「この、すりすりされるの、すっごい、きもちいっ」
「そら多分、ナギちゃんがエッチやからやで」
「あっ……ぁ、あ、っちがう、もん……」
「ちがわんて」
「ぁん、あっ、んっ、でちゃう、ヴァン、もう……っ」
「なぁ、いくときの顔見たい」
腹の下に手を差し込み、ぐるりと身体を回転して仰向けにする。傷も日に焼けたところひとつもない、なだらかな白い裸体。きれいや、と呟くことさえ忘れてしまう。大きく開かせた両足を肩に乗せて、色の違う二つの性器を束ねて扱き上げた。
「や! ぁあっ、あっ、ぁん! やぁああっ」
「顔、隠さんとって。かわいいから見せて」
「あぁ! あ! ん、んやっ」
先走りがぬぷぬぷと水音をたてる。灰茶の大きな瞳に雫が生まれて、頬に転がり落ちた。達したい一心で腰を揺すると重なったナギの身体もヴァンに合わせて揺らぐ。ひとつになったみたいで、それがたまらなく嬉しかった。
「ああ――あ、あ……っ」
限界を、二人同時に迎える。
精を放った瞬間に睨むようにヴァンをねめつけた強くきれいな瞳にぞくぞくきた。涙が顔を濡らしているのに。唇はかたく引き結ばれているのに。
「あかん……Mに目覚めてまう……」
「はっ、あ……、なに言ってんの……」
「女王様、犯してるみたいでたまらん」
「……ばか」
「うん、そうやねん」
顔がにやけるのを抑えられなかった。「でもそんなとこが好きやろ」とヴァンが茶化すのを見越して、ナギが両手を伸ばして口を塞ぐ。
「好きだよ……ヴァンのこと」
「ナギちゃん……ほんまにかわいい……」
「……知ってる」
口元からすっと手が離れ下りていく。かわいらしい小さな唇が突き出されるキスしての合図に、溺れるみたいにダイブしてくちづけた。
「はー……最高……めっちゃ良かった……」
唇でめちゃくちゃに睦み合ったあと、肌を蒸気させたナギをぎゅうぎゅう抱きしめた。ばら色の頬を膨らませ「死んじゃうかと思った」ととんでもないことを口にする。
「いつか死ぬときはナギちゃんとエッチしながらがええなあ」
「縁起でもないこと言わないでよ」
「ごめんごめん。そんなに良かった?」
「……うん」
主に下半身を汚したものをティッシュで拭き取り、クローゼットからタオルを取り出してナギに手渡す。うっすら窪んだり隆起したりする腹筋のやわらかな溝にまで溜まった二人分の精液を拭って、すっかり服を身に着けてから裸のヴァンにぴとりと寄り添ってくる。二人で一枚のシーツを被り、ごろりと横になった。
「パンツ履いてもええかな?」
「やだ」
「そんなん言うたらまた出ちゃいそうなんやけど」
「も~最低!」
ぱっとナギの手が離れる。あーあ、もったない。でも裸になって抱き着いていたら本当にまた元気になりそうだったから。さっと下着を身に着けて、思春期真っ只中みたく複雑そうな顔をした恋人を抱き寄せる。
「今日のでしばらくオカズに困らんわ」
「……あっそ」
「照れてるやん~、かわい~! ナギちゃんも一人でするとき、思い出してな」
髪を撫でる。ナギがふっと吐き出した息が首筋にかかった。それすら気持ちよくて、「わー」と声を出して誤魔化す。
「ボクは、一人じゃやだよ」
「せやなあ」
「だから、またしてよね」
「当たり前や。……ナギちゃん、また『ボク』に戻ったな」
「え……あ、そうかもね。ヴァンは、ナギって呼んでる方がいいの?」
「そんなんどっちでもええよ。どっちもかわいいから」
腕とシーツに包まれて上を向く顔が、満足そうに笑ってみせる。すっかりしなやかな筋肉がついて大人の男らしくなった足が絡みついてきて、同じように絡ませ腰を抱き寄せた。
「どんなに背が伸びても、声が低くなっても、ナギちゃんが好きやで」
「うん……知ってる」
「ずっと知ってて。信じててな」
「ナギが大和よりおっきくなっても、綺羅より声が低くなっても、瑛一よりかっこよくなっても、ヴァンは好きでいてくれるよね」
「そんなん眩しすぎて直視できへんかもしれんなぁ」
「信じてるよ」
にっこりきれいに微笑まれ、「当たり前やん」としか返事ができなくなる。
「ボクも、ヴァンがおじさんになっても、おじいちゃんになっても大好きだからね」
背中にまわした手首を掴まれる。
おじさんはともかく、ヴァンがおじいちゃんになればナギだってそこそこおじさんもしくはおじいちゃんだけど。それでもヴァンはナギをかわいいと褒め称え続けるのだろう。自分の前だけで見せる表情に翻弄されて。
「ありがと」
手のひらを合わせ、指を繋いで握り返す。
ほのかにあたたかくて、この夜に降る奇跡みたいだった。
「ヴァン、きっちゃだめ、だからね……っ」
息とも声ともつかない音が聴こえる。それがナギの意思を明確に表していることはわかるのに、無駄に色気のある声にむらむらきた。はーい、とスマホに向かって手を振ってみせると「脱いで」と手短な指示が飛んでくる。相変わらずのわがままっぷり。でもそれが自分にだけ発揮されるものだとわかっているからとてつもなくかわいく思えるのだ。
「はいはい」
ばっさばっさと服を脱ぎ捨て、スマホの前で「これでええ?」と首を傾げる。ナギはちいさな声で「うん」と返事をした。
ナギから電話がかかってきたのは五分ほど前のこと。ヴァンが泊まりがけの仕事の間、一人でしようと意気込んだはいいけれど中途半端にしかイけないから手伝えと、脅迫めいたお誘いのコールだった。言葉責めでもいいけれど、姿が見たいとナギに言われ従順にビデオ通話に切り替えた。ナギは姿を見せたくないということで、インカメラに黒っぽいテープを貼っている――らしい。ナギはこれで隠れているつもりらしいが、黒い幕の下に、よだれを垂らして瞳をとろりとさせたかわいらしい顔のアップがきちんと映っている。もちろん本人には言わないけど。
「ナギちゃん、じゃあ一緒にシよか」
「うん……っ」
下半身に手を伸ばし、自分の性器をゆるゆる扱き出す。地方ロケのホテルでなにしてるんやろ。とりあえず一人部屋でよかった。
「ナギちゃんも触っとるか?」
「うんっ、うん……っ」
「帰ったらいっぱいしたるから、今日は自分で頑張ってみ」
黒いテープの向こうの瞳がぎゅうっと閉じる。感じてる。自分の手で触って気持ちがいいのか、それともこの声に興奮してくれているのかわからないけれど、その表情にヴァンの発情もむくむくと育っていく。
「ナギちゃんのかわいい身体、はよ帰って触りたい」
「ぁ……っ」
「ナギちゃん、左の乳首もめちゃくちゃ感じるから、自分で触ってみ」
「や!」
ぴりりと弾けそうな声が端末を通して割れて聴こえる。
「さわって、ヴァンがさわって……」
「さわりたいに決まっとるやろ」
「帰ってきて、ヴァン、帰ってきて」
「うんうん、明日な」
やばい。かわいいことを言われてヴァンの方がもうもたない。恋人のオナニー手伝いにちょっと帰りますー、と言う自分を想像する――かなり笑える光景だった。ないない。干されてまうわ。
「ナギちゃん、お尻の入り口んとこ、自分の指でよしよししてみ。感じるから」
「入口って……!」
「あ、すまん。ちゃうか」
――一般的には。でも将来的にそうなるし? ナギが赤面するのが薄い膜の下でもわかった。そしてヴァンの言った通りにそこをやさしく撫でる。見えないけれど、嬌声が高らかになった。
「ぁん! ぁあ……だめ、なんでぇ……」
「そこにワイの入るの、想像して」
「や、あ、あっ」
「ほら、入った。わかる?」
「ぁあ、だめ、だめえっ」
「ナギちゃんのお腹ん中、めちゃくちゃきもちいで」
四つん這いになってスマホのカメラに寄って、レンズをじっと見つめる。大きな瞳と視線がかち合った。
「ばかばか、ヴァンのばかっ」
「ほんなら電話切ったらええやん」
「もっとばか!」
「ワイ、そろそろいってまうで」
「や、待って!」
琥珀の瞳は再び長い睫毛に閉ざされる。
ぬちゅぬちゅと生々しい水音がちいさく聴こえ、思わず手を止めて耳をすました。
「ぁ、あっ! ぁん――ッ」
「あかん、ワイもイく……」
かわいすぎて困る。細く開けた瞳がたまらなく扇情的で、もし今目の前にナギがいたら押し倒してしまったかもしれない。
「今すぐ抱きたい」
なんて言えるのは、物理的な距離があるからで。
「抱いてよ」
掠れた声でナギが言った。
もちろん肌を合わせるのが一番いいけれど、触れられないから声で挑発し合うのもいいのかもしれない。また新しくて危ない遊びを見つけてしまった。
「じゃあ電話で第二ラウンドといこか」
おいでおいでとカメラに向かって手招きする。ナギがインカメラのレンズに貼り付けていたテープを剥いで、全身がきちんと映るようにベッドに座り直す。
「やさしくしてよね」
いたずらっ子みたいに微笑む。
愛くるしくも憎らしい、ばら色の頬で。
