桜と火傷

「……瑛二?」

 腕の中で起き出す気配に声をかけた。暗い部屋の中で表情は見えない。

「ごめん、起こしちゃった?」

 唇が頬に触れるのを感じる。瑛二がベッドを抜け出したのがかすかな物音でわかった。

「まだ五時だから大和は寝てて。俺、朝から生放送だからそろそろ行くね」
「おー……気をつけてな」
「ありがとう」

 まどろみながら、瑛二が部屋を出ていく音を聴く。それからすぐにまた眠ってしまって、次に起きたときには八時だった。日課のランニングに出かけ、リビングに戻ると例の生放送をナギとヴァンが見ている。おはようと声をかけてナギの隣に腰掛けた。
 土曜日の朝らしい、ちょっとゆるめの情報番組。ちょうど瑛一と瑛二の花見ロケのVTRが流れている。生放送のスタジオに呼ばれているのは瑛二だけで、時々小さなワイプに抜かれてはにこにこ笑って自分たちのロケの様子を見ている。
 ぱっと映し出された構えの良いうどん屋に見覚えがあった。ロケで行っておいしかったからと、数日前に瑛二が連れて行ってくれたのだ。ここは確かにうまかった。テレビを見ながら大和はうんうん頷く。テラス席から見える桜はまだ三分咲きくらいだったが、満開になるとさぞすごいんだろう。
 VTRの中ではまだ少しも桜が咲いていない。それでも自然を背景にして向き合う瑛一と瑛二の姿はやけに絵になった。

 卵とじうどんが運ばれてきて、「先に瑛二が」と瑛一が順を譲る。
 いただきますと手を合わせる。素直に大和の腹の虫が鳴いてヴァンが笑った。
 湯気がたちどう見ても出来立てのうどんを、瑛二は冷ましもせず啜る。テレビを見ながら「あっ」と三人の声が揃い、瑛一もすぐに腰を浮かせて瑛二に冷たいお茶を差し出した。瑛二はなんとか麺を飲み込み、兄から受け取ったお茶をごくごく飲んだ。瞳に涙を溜めて「熱くておいしいです!」と言い切る瑛二にロケスタッフが笑い、瑛一は心配そうに弟を見ている。こんなところを使われるとは思っていなかったのか、ワイプの瑛二は、周囲からのイジりにひどく赤面した。

「ヒヤヒヤしてもーたわ」
「瑛一、すっごい顔してた」
「えーちゃんは心配性やからなぁ」

 気を取り直して優雅にうどんを啜る瑛一を見ながらナギとヴァンが笑う。
 大和はというと、涙目で顔を赤くした瑛二の姿が頭から離れなくなってしまって困った。あんなの土曜の朝っぱらから放送していいのかよ。

 


 ダンスの自主練をしばらくしてからシャワーを浴び、リビングに戻ると帰宅したばかりの瑛二と鉢合わせた。
 同じ部屋で抱き合って眠った瑛二がさっきまでテレビの生放送に出ていて、今自分の目の前にいる。この不思議な感覚にはいまだに慣れない。朝大和の頬にキスをした瑛二も熱々のうどんに悶えていた瑛二もその自分の姿に赤面する瑛二も同じ瑛二のはずなのに、変な感じだ。

「ただいま。髪びしょびしょだね」

 首からかけていたタオルを取って、瑛二が頭を拭こうとする。当たり前のように背をかがめてそれに甘えた。

「汗かいちまったからシャワー浴びてた」
「そっか。ちゃんと乾かさなきゃ」

 と言いながら瑛二が手を止める気配はない。
 頬にそっと手を添える。瑛二は不思議そうな顔でじっと大和を見上げた。親指で唇を撫でる。きゅっと結ばれていたそこは求めるようにほどける。軽く指を差し入れると短く切りそろえた爪を舐められた。窄めた唇に指を吸われ、なぞるようにぐるりと舌で撫でられる。瑛二の右手がそっと大和の手の甲に重なり、上目遣いで視線を送られれば頭の奥がじんと痺れてしまう。少し口を開いて咥え直し、ちゅっとかわいらしい音を聴かせてみせた。
 誘われている。こんなにもまっすぐに。
 熱いうどんを勢いよく食べてあたふたする子どもみたいな瑛二と、それを見て恥ずかしそうにしている瑛二と、恋人の指を愛おしそうにしゃぶる瑛二と。その境界線が曖昧になって、大和は「やけどしたんじゃねぇのか」と、親指で瑛二の咥内をまさぐる動きをした。
 答えようとしてようやく瑛二が唇を離す。

「ロケ行ったの、もう一週間くらい前だよ」
「ああ……そうか」

 でも、と瑛二の両手が首の後ろに回された。

「……確かめてくれる?」

 瑛二が背伸びすると二人の距離はぐんと近くなる。首の角度を変えればすぐにキスできる距離。
 でも制御ができなくなるから、だめだ。

「……部屋」

 性急に手首を掴んで連れて行く。扉が閉まるより先に唇を重ねた。抱き合えば二人の距離はゼロになる。
 二つの唇の外側で舌と舌とを絡ませ合い、それから、瑛二の咥内を探るように舌を進める。そこはちっとも熱くない。もしあのとき瑛二がうどんを啜った直後にくちづけたなら、感じる温度はどのくらいだったんだろう。敏感になった瑛二の舌はどんな風に震えたんだろう。
 ぴったりくっついた細い身体を抱き上げる。ベッドに腰掛け、膝の上に瑛二を下ろした。互いにまだまだ足りなくてキスを繰り返す。触れてすぐ離れたり、舌で唇をつついてみたり、かと思えば濡れた音を立てて深く交わり合ったり、交歓は限りない。カーテンを開け放した真昼間の部屋は光に満ちて互いの虹彩さえよく見えた。
 唇で確かめ合いながら互いの手が肌をまさぐる。瑛二の両手はTシャツをかき分けて大和の背中に触れ、やがて前に回って割れた腹筋へ、そしてするすると下りてジーンズの上から下腹部を愛おしげに撫でた。

「……やらしい触り方」
「だって……昨日、できなかったから……」

 視線で的確に求められ、大和は腕をゆるめた。
 瑛二は膝から降りると大和のジーンズのボタンに手をかける。ファスナーを下ろされ、自発的に大和がジーンズをずり下げる。下着もまとめて脱ぎ捨てると瑛二の両手が膝に添えられる。こんな大胆な行為に及んでおきながら恥じらいを含んだ熱っぽい瞳が大和をさらに煽った。

「……ん」

 脚を開かせ、まだ兆していないものを瑛二が口に含む。フローリングに膝をつけて大和の下腹部にきれいな顔をうずめる淫靡な姿に、単純な男の身体はすぐに反応し始めてしまう。
 昨日は互いにしたかったのにできなかった。生放送や早朝仕事の前の日はさすがに気をつかう。

「ん…………っ」

 鈴口をちろちろと舌で舐められると敏感な性感が駆け上がる。切なくてもどかしい、物足りない感覚。瑛二にもっとしてくれとねだるのはどうも気恥ずかしい。だからといって無理やり乱暴な行為に及ぶ気もなく、少しずつ少しずつ高められていく感覚が頭の奥を痺れさせる。

「…………あぁ………」

 思わず吐息混じりの声を漏らすと、勃起した性器を咥えたまま瑛二が視線を上げる。何回してもらってもこの光景には慣れない。含みきれない性器の付け根あたりは擦ることで高められていく。
 丸い頭、それから頬を撫でると瑛二は嬉しそうに目を細めた。

「瑛二、もっと……奥までいけるか」
「んん……」

 こくりと頷き見せつけるように一度口を大きく開けて、滾る熱を深くまで咥え込む。いっぱいになった口の中で瑛二が舌を動かせる余裕はあまりない。
 先端が喉奥に当たって瑛二の瞳にじわっと涙が浮かぶ。その表情と先端が擦られる感覚に、射精の衝動は一気に駆け上がってきた。

「やべ、出る……ッ」

 なんとか腰を引くと半分は瑛二の咥内へ、そして残りは驚いた顔に散った。

「すごい……」

 すぐに穏やかな表情に戻りなんのためらいもなく白濁を飲み込んだ瑛二の姿に、身体はまたわかりやすく反応してしまう。

「またおっきくなってる……。もう一回しようか?」

 大和の太ももを枕のようにして見上げてくる。

「すげぇよかったけど……口はいい。もう限界だ」
「うん、俺も」

 ティッシュで顔を拭いてやり、仰向けに寝かせると瑛二の下腹部の主張がよくわかる。大和の熱のかたまりを口や手で擦りながら瑛二の身体が反応を示すのはいつものことだ。大和はTシャツを脱ぎ捨てて瑛二の細い身体に跨った。

「大和」
「ん?」
「カーテン……閉めてほしいな……」
「……いやだっつったら?」

 太陽光がたっぷり差し込む昼間のベッドの上では瑛二の表情までよく見える。夜の、ベッドサイドの小さな明かりだけ灯してするときとは違う。瑛二は顔を少し横向けて「恥ずかしくて……」と呟いた。

「おれはおまえのこと見てたい。……だめか?」

 うんと顔を近付けると羞恥のせいでわずかに涙が浮かんでいるのが見えてまた興奮した。かわいい。おれのせいで恥ずかしくて泣かせたい。嗜虐心がうんとそそられて唇を寄せてさらにねだった。

「……だめじゃない」

 キスすると魔法のように瑛二の身体は素直にほどけていく。淡いブルーの長袖シャツとその下のTシャツを脱がせ、パンツの前を寛げてやる。自分でやりたがった瑛二の手をそっと制して大和がパンツを脱がせると、下着の上からでも勃ち上がった性器の膨らみがよくわかる。

「……あんまり見ないで」
「まだ全部脱がせてねぇのに」
「だってなんか……この方が、恥ずかしい……気がするんだもん」
「……なんもしてねぇのに勃ってんのが?」

 しかも下着の中で。指の腹でそっと撫でてやるとぴくぴくと反応を見せる。いやらしくてかわいい。瑛二の身体の中に別の生き物が宿っているみたいだ。

「あ、ぁ……っ、だめ……」

 触れたところに生暖かいものが広がって先走りだと気付く。黒いボクサーパンツではよくわからないが、下着の中で蜜をこぼし始めている。粘性のある液体のせいで下着が貼り付き、性器の形をまざまざと示した。指を離しても小さく震える器官がなぜかものすごくいじらしく見える。

「いかせて、大和……いかせて」

 瑛二の基準が大和にはよくわからない。明るい部屋で交わるのは恥ずかしいけれど、射精したいと懇願するのにはちゅうちょがない。いきたいときは言葉で伝えてほしいと瑛二に教え込んだのは大和だけど。
 おねだりに応えるように擦ってやると欲望はいとも簡単に弾けた。精液にまみれた下着を脱がせ、きれいな肢体を見下ろす。自然光のおかげで肌がいつもより白く儚げな感じがして、思わず目を細めた。
 さっきまでテレビの中で自分のミスに真っ赤になっていた瑛二が、今は大和の部屋で期待と恥じらいに顔を赤らめて横たわっている――やっぱり不思議な感じだ。
 裸で絡まり合う。触れるだけのキスをするともっと激しいものを求めて瑛二が首の後ろに手を回してくる。

「大和の口の中の方が熱いかも」

 唇を舐められ、唇で応えた。

「火傷してないか、俺が確かめてあげる」

 咥内に侵入してくる舌を許した。口の中で唇同士で睦み合う。どちらのかわからない唾液が引力に従って瑛二の口の周りを濡らす。互いに汗が浮かんでくるのは密接に交わり合った身体と興奮のせいだ。互いのいろんな体液が混ざり合うことにもうすっかり抵抗はなく、むしろいろんなところで一つになっている感じがして好きだ。

「どうだった?」

 永遠にも思えるようなくちづけのあと、見下ろしながら問うと「大和も火傷してないみたい」と微笑む。わかっていたが、そうか、と大和も笑った。

「うどん食べるとこ、カットされると思ってたのになぁ」
「あのあと瑛一が食ってたしな」
「改めて見ると兄さん、すっごく焦った顔してたよね」
「瑛二のことになるとあいつ、必要以上に心配性だからな」
「……じゃあさ」

 瑛二はもったいぶって言葉を切った。大和は首を傾げる。

「俺が大和と、こんなことしてるって知ったら……兄さん、どうなっちゃうのかな」

 瑛二の腰の下に枕を差し込む。こんなこと――裸に剥いて足を開かせ、男同士で繋がることのできる部分を見せつけるように角度をつけて、そこをセックスするために、慣らそうとしている――確かに、バレたらどうなるのか予想もできない。その背徳感に、いけないことをしてるみたいでさらに興奮を煽られる。
 ぐっと伸び上がり顔を近づける。挑戦的な瞳を見つめ、瑛二の前髪をかき上げた。

「いいのか? 兄さんに言えねぇことしてて」
「……じゃあやめる?」
「やめられねぇくせに」

 額にくちづけ、唇をどんどん下に移動する。やがて、持ち上げた太ももの内側に吸い付いた。肉が少なくて柔らかくない、筋肉に守られた男の脚。それすら愛おしいと思えるから不思議だ。心も身体も全部預け合えるこの行為にたまらなく安心する。

「瑛二、自分で足持てるか?」
「うん。でもちょっと……恥ずかしいかも」

 身体の真ん中を見せつけるように足をうんと開いてくれる。内腿を舌で愛撫しながら、足の間から顔を見つめると、瑛二は頬を赤くして横を向いた。

「大和、そんなとこばっか、やだ……」

 そう言う割には、大和に腿を舐められ興奮しているのか、性器は反り返り膨らんで先から新しい蜜が垂れこぼれる。さらなる交歓を求める表情は艶っぽく誘う大人のようにも、ものをねだる子どものようにも見えた。

「はやくして……お願い……」

 うどんで火傷していた、テレビの中の瑛二より赤い顔。確かにこんなの兄さんには見せらんねぇよな。セックスしたいと繋がる場所を自らさらす恋人の痴態に、当然大和にも同じ欲望が高まる。
 ローションで湿らせた指をゆっくり挿し入れると、降り注ぐ自然光に照らされた細い身体がびくびく反応を示した。

「あ、あぁ……っ、ん……」

 反射的に閉じようとする足を開かせる。瑛二は手を離し、顔を両腕で覆った。感じているところを見られるのが恥ずかしいのだろう。昼下がりの部屋は陽光に包まれ白く、震える膝も、期待に濡れそぼる性器も、二人で繋がる場所すらよく見える。時々腕と腕の間の隙間から大和の様子を伺うように覗くのがかわいい。

「あ、ぁあっ、あ……っ」

 一本目を奥まで挿し込み、内壁を何度も擦る。上半身を倒して小さな乳首に唇で触れた。やわやわと曖昧なそこは、唇でねぶるとすぐに硬くなって存在を知らしめる。

「あっ! あっ、大和、そこ……っ、やぁっ」
「好きだろ、ここさわられんの」

 ちゅっちゅと音をたて吸い上げる。愛液が溢れ出してもおかしくないくらい敏感な反応を示し尖ったそこを舌で捏ねながら、後孔に二本目の指を含ませる。

「そんな、いっぱいされたら、変に、なっちゃう……っ!」
「いいから……変になれよ、えーじ」
「あ、ぁあうっ、やっ、ぁん……っ!」

 見下ろすと、左の乳首は白くて健やかなまま、大和にいじられた右の乳首が赤く熟れてぷっくり腫れている。瑛二の手がシーツにしわを寄せ、瞳にはたっぷり涙を浮かべていた。

「あっ、あっ、ぁあっ、ん」
「えーじ、ここだろ?」

 最も感じる弱いところを擦ってやると腰が浮かんだ。

「ん、っあ、ん……きもちい……、ぁあっ!」
「もっと気持ちよくなれよ」
「あ、ぁあっ、んぁ、ん、きもちいぃ……」
「……ここは?」
「ゃ、あ、そこも、すき……」

 感じる部分を少し外れると、じれったそうに身悶える。

「ぁ、ぁう、やっ、ぁああっ」

 涙が頬を転がって、自らねだるように脚を開いたまま瑛二は達した。反った性器の先端から放たれた白濁が腹を汚す。

「……触ってねぇのに」
「だっ、てぇ…………」

 いっている間も指の動きを止めてやらない。三本目を含ませ前立腺を擦り上げると、一瞬萎えかけた昂りがまた興奮を示した。
 わかりやすい男の身体の機微を、こんな明るい場所で見ている。白い部屋では瑛二の性欲が手に取るようにわかる。赤くなった胸を上下させ、恥ずかしそうに、でもうっとりと大和を見上げる瑛二を、もっともっと気持ちよくしてやりたい。

「あ、あっ、ん……っ、ぁあっ」
「すげぇエロいな……」
「ぁあっ、ゃっ、大和の、せいなのに……っ」
「それだけじゃねぇだろ」

 閉じかけてきた脚をぐっと開かせた。欲しがって硬くなり、蜜をこぼし続ける性器をじっと見下ろし、指の抽挿を続ける。膝にくちづけ、紫の瞳をじっと見やった。

「なぁ、自分でこすってるとこ、見せてくんねぇか」

 意図を理解した頬が赤くなった。従順に瑛二は自身の性器に触れ、軽く扱く。

「……これで、いい?」
「ああ。……もっと」
「恥ずかしい……けど……」
「……けど?」

 細い身体が恥じらいつつしなった。右手は先走りで湿り、淫靡な水音を立てながら硬直を擦り続ける。

「見られながらするの……ちょっとだけ、俺も……興奮するかも……」

 耳までうんと赤くなる。身体も顔も声も大和を誘うように色っぽく火照るから我慢できなくなる。瑛二の恥ずかしがる姿をしばらく見ていたいと思っていたのに、下半身が欲望に忠実に反応した。十分に濡らしたところから性急に指を抜いて白い身体に覆い被さった。

「……大和?」
「めちゃくちゃいれてぇ……なぁ、もういいか……?」
「一人でするとこ、見るんじゃなかったの?」
「いやだ。おれが挿れてぇ。おれが全部する」
「……うん、全部していいよ」

 頭を撫でられ照れ臭かった。余裕がない自分を情けないとは思わない。だって身体をつなげた方がもっと気持ちよくなれる。
 脚を持ち上げ、指で拓いたところに性器を宛てがう。ゆっくりできない。そのままずぶずぶ進め、一つになるのにそう時間はかからなかった。

「あ、ああ――っ……」
「やべ、すげぇいい……」
「ぁ、ぁあ、あっ」

 身体をくねらせ瑛二がよがる。かわいい。二人でもっと気持ちよくなりたくて、ぬちぬちと抜き差しを繰り返した。

「ゃ、ぁん、あっ、あ、あ、んん」
「えーじ、きもちいいか?」
「んっ、きもちい……っ、きもちいい……っ」
「一緒だな」
「ぁ、ぁあ!」

 激しく腰を打ち付ける動きに、途中で性器が抜けてしまう。もう一度繋がろうと視線を下ろすと、普段は鮮明に見えない結合部に大和は目を奪われた。ここに自分のものが挿るなんて信じられない。しかし指で広げてやると、そこは大和を迎えようと口を開けて震える。
 すごい。
 そんな感想しか出てこない。目が離せない。
 先端を触れさせる。この期に及んで、ほんとに挿るのかよと心配になってくる。

「っぁ、ぁあ……っ」

 シーツについた膝に力を込め、腰を進めた。内壁が絡み付いてくる。瑛二がこれを欲しがっているとわかる。先の方だけを咥えさせ、ゆるゆると腰を振った。

「ぁ、ぁ、ん」
「すげー……めちゃくちゃエロい……」
「や、ぁ、あっ、大和、もっと……もっと奥まで、きて……」

 望まれるままに、結合を深くする。
 自分の性器が瑛二の小さな孔に飲み込まれるさまを、大和はありありと見せつけられた。ともすればグロテスクな光景なのに――いや、だからか、いやらしさに釘付けにされる。
 身体って不思議だ。なんの意味もないのに二人で繋がれる。そしてその興奮を互いに感じられる。
 奥まで貫きぴったりくっついた結合部を見下ろし、ゆっくりと腰を動かす。途中まで性器を抜いて、そのあとまた中を犯す。自分の張り詰めた熱がそこに出入りするさまを、堪能するように見下ろした。

「ぁ……、ぁあ……っきもちい、大和……」
「……おれも、すげーいい……」
「…………見えてる……?」

 じっ……と結合部を見下ろす大和に気付いていたのか、瑛二が訊いた。

「ぜんぶ見えてる」

 奥まで挿れる。すると下腹部がぴくぴく痙攣する。かわいそうなほど硬くなり反った性器の先からひっきりなしに先走りがあふれていた。

「大和、やまとぉ…………っ」

 瑛二は悩ましげな表情で首を振った。かわいい。顔も繋がる部分も見ていたい。
 膝を支点に律動する。肌のぶつかる音に、出入りする性器のさまに、大きくなる嬌声に、赤くいやらしい表情に、興奮が掻き立てられまくった。

「あっ、あ! ぁあっ、ん」

 さらに激しく腰を振った。同じリズムで瑛二の性器を扱いてやる。

「ぁあっ、ゃっ、あっ!」
「あぁ…………そろそろ……やべー……」
「でちゃう、ぁっ、ぁああ、んっ、あぁ……ッ!」
「えーじ、おれも……」
「やっ、ぁあああっ!」

 瑛二の両手がシーツをぎゅっと引っ張り、背をそらして跳ねたと思うと、衝撃を堪えるように足の指先を丸める。白い身体がびくびく痙攣する。全身で快感を示して瑛二は達した。

「えーじ……もうちょい、がまんな」
「え……ぁ、ぁあっ」

 いったばかりで敏感になっているのを知りながらさらに穿つ。震える膝裏を抱え、奥を性器で何度も擦り上げた。

「ゃっ、ぁあっ、やまと、今……いって、る、からぁ……ッ!」

 しわが細かく刻まれて、シーツを掴む指の力が強くなったのがわかった。瑛二は首を何度も振りながら、でも大和を受け入れる内側は求めるように吸い付く。

「あ、あ、あ……っ、だめ……」

 押し寄せる快感に耐えるように閉じられた瞳から涙がこぼれる。シーツの上でわけもわからず喘ぎ、身悶える姿がたまらなく愛おしい。セックスの最中に瑛二が流す涙は気持ちいいからだと知っているから、自然光に照らされた頬にしずくが光るさまにさえ興奮した。

「…………っ、あぁ……」

 唇を噛み、瑛二の最奥まで突き入れ腰を擦り付けながら大和も白濁を放った。吐精の瞬間はあまりに気持ちよくて声が漏れる。
 負担をかけないようにゆっくりと性器を引き抜き、瑛二の肢体を見下ろした。舐めるような視線をスライドさせると目と目が合う。伸びてきた両手に求められ、大和は長い身体を折り畳んで瑛二に近付いた。そっと唇を重ねると、髪に指を差し入れてさらに求められる。

「……気持ちよかったぁ…………」

 大和を見上げる無垢な表情に、欲望は再び膨らむ。甘い茶色の髪を撫で、口付けを深くした。涙のせいで潤む瞳は、火傷をして涙目になっていたVTRの中の瑛二を思い出させる。あれが扇情的に見えてしまったのは、行為中の瑛二の涙を知っているからだった。
 瑛二の両脚が大和の脚に絡む。昂りを腹に押し当てられて、瑛二もまだ足りていないのだと教えられる。

「大和……」
「ん、もっかいするか?」
「うん。次は、大和が寝転んで?」

 素直なおねだりに従ってごろりと仰向けになった。腰をまたぎ大和を見下ろすすみれ色の瞳は愛らしく、しかし獲物を目の前にした動物みたいに欲望にまみれていた。
 腹筋を撫でられ、思わず「ん……」と短く鼻にかかった声が出る。瑛二は愛おしげに目を細めた。
 全身をくまなく見つめられたって恥ずかしくはない。もう何度もさらしあっている身体だ。瑛二は大和の性器を両手で包むと、すでに硬直しているそれをさらに高めていく。瑛二の身体の中心もずっと勃ち上がったままで、興奮が伝わってきた。
 瑛二はベッドサイドからコンドームを取り出し、大和の性器に被せる。手つきはずいぶんと慣れたものだ。

「なんか……明るいと緊張しちゃう」

 腰を跨ぎ、大和を見下ろして瑛二は目を細めた。硬くなった性器の先端に指で広げた後ろの口をあてがう。

「あ……すぐ入りそう……」

 キスするように触れ合わせ焦らされる。大和は手を伸ばし、瑛二の小さな胸の尖りを指先で弾いた。

「ぁっ、だめ……挿れるまで待って……」
「挿れてからならいいのかよ」
「……うん、いいよ…………」

 前傾し、少しずつ腰を落としていく。小さな後ろの口に大和の性器を咥え、感じ入っている表情がいやらしくてたまらない。

「あぁ……ん、あー……っ……」

 自ら動いて、受け入れて、喘いで、ぴったりと一つになる。そのさまを大和はじっと見ていた。いいところに自ら当てて唸るように喘ぐ唇を、感じ入ってうんとそらす顎のラインを、そこに伝う汗を。白い光に満ちた部屋ではどれもアンバランスで、その分興奮した。中で硬くなる性器を瑛二は慈しむように腹の上からさすり、息遣いを荒くする。全長を飲み込むと、瑛二は大和の下腹部にぺたんと座り込んで腹筋をそっと撫でた。

「全部入っちゃった……」
「……すげぇな」

 瑛二が上で、の経験は何度もあるが、こうしてじっくりと繋がるさまを見せられるのは初めてだった。大和が動かなくても瑛二が喜んで全部してくれる。決して横着を喜ぶわけではなく、瑛二が全部したいと思ってくれていることが、単純にすごいと思った。
 ふふ、と満足そうに微笑むと、瑛二はさらに前傾姿勢になる。すると性器が少し抜け出す動きをして内壁を擦った。控えめな嬌声をあげながら、瑛二は「さわって」と大和の胸元に手をついた。わけもわからず大和が目を瞬かせていると、瑛二は腰を支えていた大和の手を取り胸の尖ったところに誘導する。

「さっきここ……触りたいって言った」
「……言ったけどよ」
「触ってほしい。俺ばっかり動いて、寂しいから……大和も触りたいんだって、ちゃんと教えてほしい……」
「さみしいっておまえ……」

 かわいい、と口には出さなかった。子どもみたいな欲求が愛しい。
 教えられたままそこに触れる。普段はないのと同じくらい存在感を潜めているくせに、大和が触れば途端にもっとしてほしいとねだるように硬くなる。欲しがるさまが瑛二の分身みたいでやっぱりかわいい。親指と人差し指で優しくつねってやると瑛二は大和の上で跳ね、その甘い衝撃にきゅっと後ろの口をすぼめ、さらに感じて声をあげる。一連の流れが化学反応みたいで何度も見たくなった。いたずらに乳首をこねくり回していると、そこは赤く熟れてさらに大和を誘う。

「あ――、あっ、うぁ……きもちい……そこ、好きぃ……」

 腰を前後にグラインドさせ、自分の好きなところに押し当てては喘ぎ声を漏らす。まるで大和を使って自慰行為に耽るような瑛二の姿がいやらしい。大和を置いて勝手に気持ち良くなって、一人でいってしまう姿さえ、なんだかかわいく思えてしまう。

「あー…………あぁ……ん、あ……」

 身体を震わせ、瑛二はたまらない様子で自分の性器に手を伸ばした。まだ子どもみたいな顔をした恋人が、自分の上で勃起したものを高める姿から目が離せない。大和は自分が腰を動かすことも忘れ、絶頂へと駆け上がる瑛二を食い入るように見つめた。

「あっ、あぁ……やまと、あ、ぁあ……っ、大和……っ」

 白濁が指の間からびゅくびゅくあふれ出す。いやらしすぎる光景に目の前がちかちかした。瑛二の後ろに嵌め込んでいる性器がさらに膨張するのがわかった。
 大和は身体を起こし、射精途中の瑛二の身体を激しいリズムでうんと突き上げる。

「あっ! や! ぁあっ、やまと……っ」
「おれもいかせてくれよ」
「や! 俺も、途中……ッ」

 軽い身体を上下させるなんて造作もない。尻を掴み、性器を出し入れする動きで瑛二の身体を動かした。そして背を丸め、赤く腫れた乳首にむしゃぶりつく。

「やっ、ぁああん、激し……!」
「激しいの好きだろ」
「好き、だけど……ぉっ」

 瑛二がいく姿を見るのが好きだ。でもそれよりもっと、二人で気持ち良くなれることが好きだ。
 二人分の精液で滴った下腹部が交わる度に淫猥な水音が響き、瑛二が喘ぐ。
 赤い顔、熱い吐息。二人で身体を重ねているときに何よりも濃密になる全て。
 激しく攻め立てているうちに瑛二をシーツに押し倒し、さらに深く交合した。瑛二の両脚が腰に絡み付き、両腕は大和の頭を掻き抱いてキスを求める。乳首よりもっと、瑛二の唇が好きだ。何より素直で、大和が好きだと伝えてくれる場所だから。くちづけると舌で求められ、大和も舌で応える。咥内はひどく熱い。まるで本当に火傷したみたいに。

「んっ、んぁ、ぁあ……ッ」

 キスしながら瑛二が再び射精に至った。生温い感覚を腹に感じ、それはぽたぽたと瑛二の下腹部に向かって垂れる。大和も旺盛な抽挿の動きを止め、薄い皮膜の下で欲望を解放させる。

 

 


 ――俺が大和と、こんなことしてるって知ったら……兄さん、どうなっちゃうのかな。

 荒い呼吸を整えるくったりした身体を後ろから抱きしめながら、さっきの瑛二の言葉を改めて反芻した。
 知られたら――ぶん殴られるだろうか。瑛一に力で負ける気はないが、そもそも瑛一と真っ向からやり合うことなんてできない気がする。喧嘩で瑛二を勝ち取ったって仕方がない。さすがにめちゃくちゃ謝って、情けないが許してくれと懇願する自分の姿が浮かんでしまった。
 手癖のように瑛二の胸元を撫でると、疲れ切った身体がびくんと反応する。

「あぁ、わり……考えごとしてた」
「……考え事したら、俺の乳首触るんだ……?」
「いや、なんかくせになってるっつーか……」

 大和の手を取り、指先にくちづける。一回り以上小さな手のひらを包んでやると、まんざらでもなさそうに瑛二は笑った。

「何考えてたの?」
「瑛一のこと」
「兄さん? ……俺といるのに?」
「瑛二が変なこと言うからだろ……。瑛一に知られたらどうするとか」
「あ……あぁ」

 そっか、と納得したように瑛二は頷いた。

「兄さん、怒りそうか?」

 そっと手を解いて細い身体を這う。下腹部ですっかり萎えた性器は軽く撫でてやるとすぐに硬くなった。こんな正直な身体の仕組みを、それを誘発する相手が大和だと、昼下がりの明るい部屋で愛しい弟がこんな行為に耽っていると、実の兄が知ったらどう思うだろうか。稚拙な妄想なのに、背徳感を煽られるといやでも興奮する。それは瑛二も同じだった。

「怒らないと思うけど……。でも、誰にも言っちゃいや……」

 コンドームのパッケージを破り、高めた自分の性器に被せると、大和は瑛二の腰を掴んだ。

「誰にも?」
「うん、みんな」

 予感に瑛二の声が上擦る。うつ伏せにして腰を突き出させ、さっきまで繋がっていた部分にまた先端を触れさせる。

「大和だけに知っててほしいんだよ。俺の、こんなところ……」

 これまでの体位よりも結合部がよく見えて、挿入はスムーズだった。双丘の間にある、本来の用途とは全く別の使い方をしている小さな器官。そうだよな、とさっきの瑛二の言葉が腑に落ちた。

「おれはともかく……瑛二は、こんなとこ使ってセックスしてるって、知られたくねぇよな」
「違うよ、そういう……やってることが、恥ずかしいわけじゃなくって……」

 枕を抱きながら振り返る。噛み合わないもどかしさに珍しくいらだっているようだった。大和は言葉を待つために動きを止める。

「大和だけに、見てほしいから……。恥ずかしいところも、そうじゃないところも全部、大和だけのものにしてほしいから……」
「……おまえほんと、めちゃくちゃかわいいな……」

 尻を掴み、突き上げ、長くて硬いもので中を擦る動きをする。瑛二は身体をぴくぴく揺らし、足の間の性器からはぽたぽたと先走りを垂らしていた。こんなにはしたなくて、かわいくて、愛おしい姿を他の誰かに見せるわけがない。

「あ……ぁあ、大和……」
「好きだ……好きだ、えーじ……」

 おれだけのもの。そう知らしめるように抱きしめた。キスする前に唇にかかった吐息が熱くて、どうしようもなく愛しい。