途中までの瑛シオ

途中までしか書いてません。
見直し不十分・雑に終わるので大丈夫な方のみ閲覧してください。

 

 

 白いシーツで作られた閉じられた世界で、美しい恋人が眠っている。
 肌や睫毛は色素が薄く、彼の儚げな印象を一層際立たせる。重たく下りた前髪をそっと撫で、華奢な身体を抱き寄せた。眼鏡をかけていなくても目と鼻の先にある彼の顔はよく見える。いたずらに触れていたからか、彼は少々むずかると瞼を持ち上げ、鮮やかな紫色の瞳を覗かせた。

「おはよう、シオン」


 指先で頬を撫でてやる。シオンはしばらくぼんやりした様子で何度か瞬きを繰り返した。瞳のピントが合い、ここが瑛一の部屋の寝台だと認識した(あるいは思い出した)のか、彼は真白な頬をかすかに桜色に染めて取り乱した。

「……瑛一」
「どうした?」

 ベッドサイドに置いていた眼鏡を装着し、顔を覗き込む。シオンはさらに顔を赤くし、シーツを引き寄せて露出していた肩を隠した。
 恋人らしい行為の後、二人で眠りこうして朝を迎えるのは初めてではない。しかし毎朝シオンは初めての頃のように愛らしい恥じらいを見せ、朝の光に包まれた明るい部屋では決して素肌をさらそうとしない。初々しさが可愛い。瑛一は先にベッドを抜け出すと、畳んでおいた彼の寝間着を枕元に置いた。

「俺は後ろを向いているから、着るといい」
「あぁ……済まぬ」
「謝ることではないだろう」

 思わず笑い声が漏れ出た。幼気で純真な愛おしい恋人。彼の恥じらう姿を見られるのも、こうして共に朝を迎えられるのも俺だけだ――と思うと、独占欲が満たされたまらなくなる。
 すっかり衣服を身に付けたシオンの隣に座る。手の甲にそっと手を重ねられ、美しい顔を見つめた。

「……今晩は」

 今日の夜は共に過ごせるか――と、こうしてお伺いをたてられるのもいつもの流れだ。瑛一は眉尻を下げ、彼の頭を優しく撫でた。

「今日は仕事で遅くなる予定だ。俺のことは待たなくていい」
「そうか……。分かった」

 僅かながらしゅんとした表情になるのが愛おしく、細い身体を抱き寄せる。

 

 

 シオンに伝えた通り、その日帰寮する頃には午前零時を回っていた。入浴を済ませ、一人の部屋の一人のベッドに仰向けに寝転がる。毎晩共に眠っているわけではないのに、ひどい寂寥感を覚えた。あの細い身体を抱いていると安心する。
 求められれば丁寧に衣服を脱がせてやり、シオンの希望でなるべく裸の身体は見ないように、きつく抱き合い彼の性欲を解放させてやる。若いからか経験不足が起因しているのか、ともかくシオンが絶頂へと至るまでの道程はかなり短い。耳もとでそっと囁き、唇を重ね、その全長を柔く扱いてやれば放出はすぐだ。一度出すとシオンは疲れ切って船を漕ぎ始めるのが常だ。欲望に忠実な姿が愛おしく、そしてシオンと共に一夜を明かすことができるのは俺だけなのだと思うと満たされた気持ちになるのだ。
 今日もあの美しい身体を抱き締めたい。髪を撫で、潤んだ瞳を至近距離で見つめたい。しかし願いは叶わない。三日月が雲に見え隠れする様をカーテンの隙間からぼんやり見上げながら、愛おしい恋人の体温や形をただ脳裡に思い描いた。

 

 翌日、ダイニングに下りるとシオンと瑛二がいた。
 朝食当番らしい弟から目玉焼きとベーコンの乗った皿を受け取り、パンをトーストする。シオンはすでに食事を済ませており、ホットミルクを飲みながら瑛二と語らっていたようだ。

「シオン、昨日はよく眠れたか?」
「あぁ。昨晩はナギが我を部屋に招いてくれたのだ」
「……と、いうと?」

 声が上擦りそうになったのを、何とか抑えられた。弟の前だ。動揺すれば気取られてしまうだろう。
 それは泊まりで――ということか?
 訊きたいが、瑛二を前にしては訊けない。
 いやしかし、文脈的にナギの部屋で一晩過ごしたと考えるのが自然な流れだ。シオンとナギは特に仲が良い。二人で同じ部屋で眠ったからといって、何か間違いが起こるとはまず考えられない。それにシオンは恋人である瑛一に平然とナギの部屋に行ったことを報告した。やましい事情が何もないのは明らかだ。

「兄さん、パン焦げちゃうよ」

 しかし、だからといって、それではこれからもシオンが他の男の部屋で眠ることを良しとするべきなのだろうか? 恋人がいる以上、他の人間とのあまりに距離の近い接近は慎むべきではないのだろうか。少なくとも俺はそうする――と考え、瑛一は首を傾げた。でももし、ナギが眠れないからと深夜に部屋を訪ねてきたら、俺はナギを追い返せるだろうか。答えはノーだ。少なくともナギが子どものうちはそんなことはできない。
 つまりこれからもシオンがナギの部屋に泊まるのを見過ごさなければならないのだろうか。いや、まず瑛一にそれを止める権利はない。瑛一はシオンの恋人であり、ナギは良き友人で仲間である以上、グループのリーダーとして彼らの仲睦まじい関係性をむしろ尊び守るべきではないのか。シオンと関係を持ったからといって、グループ活動に支障をきたす訳にはいかない。しかし嫉妬の一つも許されないのはどうも厳しい。

「兄さん! パン焦げてるってば」

 弟に肩を叩かれハッとした。オーブンの中では食パンが隅から焦げ始めている。

「あ、ああ……すまない」
「どうしちゃったの? ぼーっとして」
「いや……眠りが浅かったせいだろうか、ついぼんやりしてしまった」
「休めるときにゆっくり休んでね。じゃあ俺、そろそろ仕事行ってくるから。シオンもそろそろ出る時間でしょ? 気を付けて行ってきてね」
「ああ。気遣い感謝する」

 瑛二がダイニングを出て行くと沈黙が下りた。瑛一が正面に座ると、シオンは心配そうに首を傾げる。

「……瑛一、昨晩は遅かったのだろう」
「ああ。しかしシオンが心配する必要はない」
「ただでさえ瑛一は忙しい。加えて天草の相手もとなると……我は瑛一に負担をかけているのではないだろうか」
「何を言う」

 語気は荒げず済んだものの、フォークを置く音がかちゃりと大きく響いた。シオンは周囲を気にしながら声を潜める。

「天草は瑛一の負担になりたくないのだ。もし天草が心労を増やしているのであれば、部屋を訪れる頻度を減らしても構わぬ」

 ――減らしたその分、ナギの部屋にでも行くのか?
 醜い感情を声に出さずに済んだ。見つめたシオンの瞳があまりに無垢で、純粋に瑛一を心配しているのだと分かったから。

「……すまない」
「なぜ瑛一が謝る必要があろうか」
「無垢なシオンを前にすると、俺はとても身勝手な気がするからだ」
「そのようなことはありえぬ」

 断言するとシオンはシンクの前に立ち、マグカップを洗う。

「今晩は来るだろう?」

 目と目を合わせていない分、優しく丁重に訊いた。シオンは水を止めてから静かに返事をする。

「瑛一が良いと言うのならば」

 

 

 その晩、シオンは部屋を訪ねてくるとソファやベッドではなくフローリングに座り込み、膝を抱えた。座るとき、身を守るようになるべく小さくなろうとするのはいつものことだ。対照的にソファにゆったり腰掛けた瑛一は、その様子に目を眇める。

「どうした? シオン。隣に来ると良い」

 シオンが気に入っているクッションを用意して招くも、彼は小さく首を横に振った。

「天草なりに考えたのだ。今朝の瑛一の言動の根拠を」
「俺は何かおかしかったか?」

 とぼけてみせると、今後は首を縦に振る。

「我がナギの部屋に行ったのが良くなかったのだろう」
「どうしてそう思うんだ?」
「……それは…………ナギが……きっとそうに違いないと……」

 小さく畳まれた身体がさらにぎゅっと縮こまる。
 ナギに相談したのか。それで聡いナギはすぐに瑛一のおかしな挙動の正体を見抜いた。さすがはナギだ。……いや、感心している場合ではない。
 丸くなったシオンに近付き、そっと頭を撫でる。

「ナギに嫉妬したんだ」
「嫉妬……? ……何故だ」
「分からないか?」
「ああ。見当も付かぬ」
「シオンは本当に純粋で眩しいな」

 髪に触れていた手を離すと、親とはぐれた子どものように不安を湛えた瞳を覗かせる。その愛らしさに思わず抱きしめたくなる衝動を堪え、ベッドに腰を下ろすとなるべく優しい声で「おいで」と囁いた。シオンの方からそばに来てほしかった。
 言葉に従いシオンはすぐに隣にやって来る。正直な態度が愛おしい。そして、愛おしいから心配なのだ。

「俺としているような行為を、お前がナギとするわけがないと分かっている」
「当然だ」
「しかしそれでも不安に思う気持ちは止められない。俺以外に触れてほしくない。俺以外に無防備な寝顔を見せないでほしい。俺だけのものであってほしい」

 美しいラインを描く顎を撫で、指先でそっと喉元を伝う。白い頬はみるみるうちに赤くなり、淡い紫色の目のふちも赤らんで潤んだ。シオンは恥ずかしそうに俯くと、視線だけ上げて問う。

「それがナギ――否、HE★VENSの仲間であっても――?」
「ああ」

 髪をかき分け耳に触れる。シオンは目を瞑り、身体を固くした。

「お前は、俺が他の誰かの部屋を訪ねて眠っても良いのか?」
「……わ、分からぬ……。HE★VENSは皆大切な仲間だ。故に、天草は……」

 シーツを握った手のひらにぎゅっと力が入るのが分かった。
 こんなに純真で美しいシオンに分からせる必要があるだろうか。冷静な自分が頭をもたげてくるのを、瑛一は見えないふりをした。
 顎を支え上向かせ、唇を重ねる。
 息継ぎの瞬間、無防備に開いた唇に舌をねじ込むと反射的に舌で押し返される。それをも絡め取り深いくちづけを施した。弱弱しい力で胸元を押される。それは決して本心での拒絶ではないと分かっているから、細い身体をシーツに押し倒した。

「シオン、俺がお前以外の誰かともこんなことをしていても良いのか?」

 組み敷かれながら呆けた顔の恋人が愛おしい。抱きしめてしまいたくなる。しかし欲望を抑えて頬をそっと撫でるだけにとどめた。
 シオンは瑛一の問いに答えるべく想像力を働かせているようだった。逡巡の末、苦い顔をして「想像もできぬ」と呟く。
 それはつまり、嫌だという意味ではないのか。
 はっきりと答えてほしい。追い打ちをかけるように顔を近付けて言う。

「想像して、考えてくれ。シオンがどう思うのかを」
「……努力する」

 目を閉じる。一生懸命考えているからか、眉間に細かい皺が寄る。それさえ美しく見えるから不思議だ。
 何らかの想像に至ったのか、突然シオンの表情が歪んだ。唇を噛み、眉根を寄せてかぶりを振る。目が開いたと思うと、シオンの両腕が首元に絡み付き瑛一を抱き寄せた。

「――胸が……張り裂けそうに痛む」

 ああ、なんて愛おしいのだろうか。
 震える身体を堪らず抱き返す。するとさらに強く抱きしめられる。

「天草は、我儘で、贅沢だ」

 ささめくようにシオンが耳元で言った。

「瑛一が他の誰かと唇を重ねる姿を想像するだけで苦しい。心が壊れてしまいそうだ」
「俺も同じだ」

 触れるだけのくちづけをすると、シオンは心底安堵したような表情を見せた。両手にそっと頬を包まれ、再び求められる。キスだけで感じ入り涙目になってしまうところがたまらない。
 瑛一、と呼ばれ目と目が合う。長い睫毛に縁取られた潤んだ瞳を覗き、透き通った真珠の色の髪をそっと撫でた。

「天草は、瑛一以外の者には決して劣情を抱かぬ」
「……お前は」

 必死な表情をして何を伝えたいのかと思えば。覗けば、真紫の瞳が情欲に濡れているのがよく分かる。いつもの行為を望んでいるのだと。恋人の愛らしさに瑛一の興奮の水位も俄かに上がっていく。止められない。普段は押し留めている欲求が膨らみ手を付けられない。

「シオン、これからすることは、俺とでないとしてはいけない。いいな?」

 手のひらで身体を這うと、びくびくと震える。シオンは瞳をさらに潤ませ、首を何度も縦に振った。幼く不慣れな身体。緊張のせいか少し硬くなった表情がゆっくりとほどけていくのが手に取るように分かる。瑛一に暴かれて喜ぶ身体が愛おしい。部屋着の上からそっと撫でると、下腹部の屹立が興奮を示していた。

「え……いち、そこは……」
「出したいだろう?」

 望めばしてもらえると知っているから、シオンは素直にこくこくと頷いた。しかしいつものようにしてやるつもりはない。部屋着のパンツのウエストに指を引っ掛け、勿体ぶるように下ろしていくとシオンの動揺は色濃くなった。

「瑛一……灯りを……」
「ああ。そうだったな」

 部屋の明かりはリモコン操作一つで落ちる。代わりにベッドサイドの小さなランプを灯すと、シオンはうろたえ身じろいだ。

「まだ灯りが……」
「嫌か?」
「嫌……では、ない……」
「では恥ずかしいのか?」

 下着にそっと手をかける。覗き込むと、白い肌は真っ赤に熟れていた。微かな灯りだけでも分かる恥じらいにそそられる。シオンは視線をそらして頷いた。

「恥じることはない。俺には全て見せてくれ、シオン」

 丁寧に下着を脱がせ、立てた両膝に手をかける。両脚を大きく開かせると、シオンがいやいやとかぶりを振った。しかしその中心では男の欲望が明らかに頭をもたげ次々に蜜を溢れさせている。普段シオンを暴くのは、暗い寝室のシーツの中でだけだから、初めて目にした肢体の美しさに目を奪われた。すらりと伸びた脚、余計な肉が一切ついていない薄い腹部、なめらかなくるぶしに爪の形まで均等に整えられた爪先。膨らんだ性器は生半熟であることが一目で分かる。どこにも傷一つない清らかな身体。
 シオンは性器を隠そうと両手を伸ばした。しかし勃起したその全長は辛うじて隠れても、そこからたらりと零れてシーツに染みを作る体液は隠せない。

「あ……見ないでくれ……」
「大丈夫、全部綺麗だ」

 脚の間に身体を割り込ませ、内腿に唇を寄せる。舌で愛撫すると弾かれたように全身が震えた。

「あ、ぁ……」

 片足を持ち上げ、陶器のようにすべらかなくるぶしに口付ける。触れる度、足の指先が小刻みに反応を示すのが可愛らしくて仕方がない。音を立てて何度も唇を当て、足の甲に沿って指に辿り着く。
 短く切り揃えられた爪の感覚を唇で確かめながら、シーツに横たわった肢体を見下ろす。シオンは手近なクッションを抱きしめながら身悶え、瑛一と視線を絡ませると元から赤かった頬をさらに色濃く染めた。身体の真ん中ではひっきりなしに欲望が小さな口から零れ出ている。

「こんなに顔を赤くして」

 脚を下ろさせ、伸び上がって唇に近付く。キスをするとシオンの表情に安堵が宿る。色素の薄い唇が「瑛一」と再び口づけをねだった。

「可愛いな……お前は」

 軽く口づけを施し、元の位置に戻った。拒む隙を与えず、情欲を蓄えた性器を舌でくるむように舐め回した。

「あっ……」

 シオンがあえかな声を漏らす。だめだ、と抵抗の色の薄い声。だめなわけがない。しばらくしゃぶってやるとそれはさらに硬くなって欲情を湛える。瑛一とて口淫は初めてだから、拙く不慣れな動きで奥まで咥えた。先端から溢れ出る苦味さえシオンの感情だと思うと愛おしい。

「あ……あぁ、えいいち……もっ……ぅ……」

 もどかしい腰の動きと声色で、シオンの絶頂を察した。口を離し激しく手で擦ってやると、びゅくびゅくと白濁が吐き出される。仰向けに力なく横たわったまま、シオンは大きく肩で息をした。

「大丈夫か、シオン」
「……ああ……平気だ」
「とても可愛かった」

 上体を起こしたがるのを手伝ってやり、求められるままに抱き合った。性器を咥えたばかりの唇だが、シオンは厭わず口づけを欲しがる。しばし唇で触れ合った後、シオンは「我も同じことがしたい」と瑛一のウエストに手を伸ばした。

「お前はそんなことをしなくていいんだ」
「……なぜだ?」

 目を丸くしながら、シオンの手は止まらない。瑛一もそれを本気で止めようとはしなかった。ベルトを外され、「脱いでくれ」と急かされスラックスと下着をずらす。

「……大きいな」

 シオンは率直な感想を口に出し、舌を覗かせたと思うと瑛一の熱の先端に触れた。確かめるように何度か舐め上げられ、ぞくぞくと性感が駆け上がる。身体は心に従順で、性器はすぐに膨張し興奮を示す。喫水部をただ舐められているだけなのに、下腹部に顔を埋めたシオンを見下ろしているとそれだけでたまらなくなる。征服欲が満たされるような、背徳感に迫られるような、ただ満たされるような。シオンは片手で性器の根元を支え、先端に何度もキスを施す。
 瑛一、と膨張した熱に息を吹きかけられるように呼ばれ、肌が震えるほどだった。

「天草も同じようにして良いだろうか」
「……ああ。だが無理はしなくていい」
「心配には及ばぬ」

 股間に顔を近付けたまま見上げられ、そのあまりにいやらしい光景に眩暈さえ覚えた。あの清廉で気高いシオンがこんなことを――と思うと、罪悪感はもちろんだが、それ以上に激しい興奮を覚える。
 小さな口を開き、まるで食事をするように、熱の塊を咥え込む。シオンの咥内で自身がどくどくと脈打つのが分かる気すらした。

「……は……ぁ……」

 瑛一がしたのと同じように舌を使おうとして、苦しげな声を漏らす。瑛一の性器の質量に対してシオンの咥内は狭く、舌を動かすのは難しいようだ。奥に追いやられた舌は先端を撫で、その刺激によって分泌される精液がシオンを満たす。嚥下する喉の動きをまざまざと見せつけられ、瑛一はぞくりと肌が粟立つのを感じた。

「一度離すか?」

 問いかけると、シオンは頭を横に振る。そして視線を上げ、上目遣いで瑛一の様子を伺った。自分の性器を口に含んだまま見つめられる興奮は何とも表現しがたい。一瞬言葉を失い、しかし、その瞳が不安に揺れていることに気が付いた。シオンは初めてなのだから、どうすれば良いか分からなくて当然だ。

「……少し動くぞ」

 決して喉の奥まで当たらないように、慎重にゆるゆると腰を前後させる。シオンは「ぁあ……」と絞り出したような声を漏らした。

「シオンも擦られると気持ちがいいだろう? 俺も同じだ。今度はお前が動いてみてくれ」
「……んん…………」

 こくりと頷き、唇を窄めたシオンが頭を動かす。動きは拙く、微弱な性感が駆け上がってくるのみだが、懸命な仕草がなんとも愛おしい。瑛一は目を細め、必死にそこを擦る動きを繰り返すシオンの頭をそっと撫でた。喉奥に当たると「んん……」と苦い顔をし、時に歯を立てられ、お世辞にも上手いといえない行為が愛おしくてたまらなかった。
 なくならない飴玉をしゃぶり続けるような行為がしばらく続いた後、シオンはそこから口を離し、瑛一を見上げた。

「疲れただろう。あまり無理しなくていい」
「しかし瑛一は……まだ果てておらぬだろう」
「今はまだいい」
「……今夜はまだ……続きがあるのか……?」

 首を傾げてみせる。口元からはどちらのものか分からない体液が零れていた。シャツの袖でそっと拭ってやる。

「シオンの身体が平気ならば、続きをしよう」
「問題ない。天草は、瑛一とすることならば何でも知りたい」

 唇に迫られ、ほんの一瞬躊躇ったがすぐにくちづけを交わした。そもそも初めは唇を重ねるだけでうろたえ、自分から求めるなどできなかったのに。こうして少しずつ許し合える関係になれることが嬉しい。肌を重ね、俺だけのものだと知らしめてほしい。そして瑛一も、シオンのものになりたい。他の誰と何をしたって動じないくらい、確かな証拠が二人の間に欲しい。
 細い身体をシーツに寝かせ、再び脚を割り開かせた。上半身に身に付けた衣服も脱がせ、一糸纏わぬ裸体を淡い灯りの下に見つめる。