大和と瑛二が温泉旅行に行く話(おまけ)

2024年8月11日開催のやまえじwebオンリー「climBing garden」で発行した同人誌「大和と瑛二が温泉に行く話」のおまけSSです。

同人誌お持ちの方は先に本を読むのがおすすめですが、単体でも読んでいただけます。


 

 

 窓の向こうには夕陽に照らされた山岳がそびえている。
 二人で景色を見ながら食事ができるようにと、対面でなく横並びに夕食が配膳された。支度を整えた仲居が部屋から出て行くと、瑛二がにじり寄ってきて「あーん」と肉を差し出した。普段なら二人きりでもまずやらない行為。旅先だから箍が外れているのか、それとも会えない期間が長かったせいか。理由は何にせよ、大和もまんざらじゃない。差し出された牛肉のステーキをありがたく口に含んだ。

「うめぇ。口ん中でとろける」
「大和、顔赤くなってるよ」
「瑛二が変なことするからだろ」

 やわらかい肉はほぼ咀嚼を必要とせず、照れ隠しのために湯気の立った椀物を啜った。エビの出汁がよく効いた味噌汁。これもめちゃくちゃ旨い。瑛二は食事の手を止めてにこにこ笑うと目を細めて愛おしげに大和の食事シーンを眺めている。

「今日は大和といろんなことしたいから」
「……いろいろ、な」

 大和も分厚い牛肉を箸で掴み、瑛二の口元に差し出した。

「ほら、口あけろ」
「うん」

 なんだか餌付けしている気分だ。二人で食事をする機会は多いが、絶対に誰にも見られない二人きりの空間で、というのはなかなか難しい。おいしいねと無邪気に微笑む瑛二の頭をそっと撫でた。かわいいから触りたかった。単純な理由だ。
 瑛二は右隣の大和を見上げると、サラダの器に手を伸ばしながら言った。

「俺が左利きだったら、手繋ぎながら食べれたのにね」

 でもそれじゃ行儀が悪いか、とすぐに自ら訂正する。実際の瑛二は足を崩さずぴんと背筋を伸ばし、左手にサラダの器を、右手に正しい持ち方の箸を携えている。マナーだのなんだの、大和にはよくわからないが、瑛二の所作はいつも丁寧できれいだ。だから片手だけで食事をする姿なんて想像もできないし、したくない。
 大和は座布団からはみだすのも厭わず、瑛二との間にあった距離をゼロまで縮める。腕が触れ合う。でも食事に支障は出ない程度の軽い接触。

「これじゃだめか?」
「……ううん。嬉しい。大好き」

 瑛二は箸置きに箸を丁寧に置くと、首を傾げるようにして大和を見上げる。

「キスしていい?」

 返事より先に軽くくちづける。瑛二は今さら少し恥じらうように俯くと、また箸を手に取った。

「朝までずっと二人っきりだね。嬉しいな」
「おれも……すげぇうれしい」

 瑛二は小さな器に入ったもずく酢をすぐ空にし、白米を食べ進める。刺身にはわさびを付けず、えびの天ぷらには塩を少し付けて食べた。その姿を大和がじっと見ていることには当然気付いているだろう。なんというか、恋人が隣で食事している姿がなぜかものすごく愛おしく思えた。腕を触れ合わせたまま、瑛二が不思議そうな顔で大和を上目遣いで見やる。あざとさのない無垢な視線。

「お腹いっぱい? 珍しいね。……それとも、俺が食べさせてあげようか?」

 あぐらをかいた太腿にそっと手を置かれ、ひどく反応してしまった。これじゃ童貞みたいじゃねぇか。動揺をごまかすみたいに「天ぷら食いてぇ」と答える。さっき瑛二が食べていたから。
 瑛二はもう一尾残っていた自分のえびの天ぷらに塩を付け、また「あーん」とそれを差し出す。

「瑛二は?」
「じゃあお刺身」
「どれでもいいのか」
「うん」

 透き通った鯛を軽く醤油に浸し、口元に持って行く。相も変わらずにこにこ嬉しそうに笑うから、肩を抱いてもう一度キスをした。