「はい、お茶入ったよ」
今朝花瓶にさしたばかりのカサブランカの香りをかぎながら、ティーカップを乗せたお盆をローテーブルに置いた。無機質なベッドに背をつけて雑誌を読んでいた大和は顔を上げ、「おう」と短く応える。あまり広くない一人暮らしの部屋にハーブの香りが漂った。
数年前、東京に出て来た頃から大和が借り続けているこの部屋は、良くも悪くも生活感が薄い。まともな生活ができる最低限の家具が揃ったのも最近のことで、瑛二が足繁く通わなければ花瓶だって置かなかっただろう。
開け放した窓から風がふわりと舞い込んで、薄いカーテンが揺れる。クーラーがいらない季節になってきたといっても風は少し生温かった。
大和は片手でカップを掴み、香りを嗅いだ。
「これ、瑛二が育ててるやつか?」
「うん」
瑛二もカップを手に取り、隣に座る。白に銀で柄が入っているのが瑛二のカップ、黒が大和ものだ。本当は紫とピンクがしっくりくるのだけれど、大和が気に入ったので今のカップに落ち着いた。
カモミール、と一言付け加えると、大和は全くわからないと言いたそうに一口飲み込んで瑛二を見やる。そんなこと、大和は知らなくていい。時々庭の手入れを手伝ってくれる大和が踏み潰しかけたのがそれだなんて、言いにくいし。
わざとぬるく淹れたハーブティーをゆっくりと飲み込み、大和の肩に頬を寄せた。カップを片手に持ったまま、手を伸ばして大和が瑛二の頭を撫でる。甘い茶色の髪をするりと梳く指の感覚がたまらなくて、好きだなぁ、と思う。程よく筋肉のついた腕に絡み付いた。視線を上げると一瞬目が合って、すぐにそらされてしまう。一気に茶を飲み干した大和にぽんぽんと頭を叩かれた。
「風呂、先はいるか?」
「うん……じゃあ入ってこようかな」
「あ、湯はってねえぞ」
「知ってるよ」
腕を解いて立ち上がり、チェストから寝間着代わりのTシャツを取り出す。何かあれば三日くらいここで暮らせる程度の用意は整っていた。
ここに初めて来てから三ヵ月が経ち、少しずつ自分のものが増えていくのが嬉しい。歯ブラシは予備を含めて二本置いているし、食器やタオルも揃えた。瑛二のものだけ買えばいいのに、買い物に着いてきては二人分のコップやスリッパ(大和はほとんど履いていない)をカゴに入れていく姿が愛おしくて仕方なかった。
ぬるい空気をかき混ぜるように服を脱いでシャワーを浴びた。胸元で受け止める水が冷たくて温度を調節する。
鼻歌をなんとなくうたった。なんだかものすごく機嫌が良かった。ボディソープで泡まみれになった身体を洗い流す。排水溝に吸い込まれていく泡を見つめながら、瑛二はふふ、と小さく笑った。
瑛二が風呂からあがると、ティーカップはきれいに洗われてキッチンに整列していた。カサブランカの花びらを無意識にいじりながらスマホの画面を見つめていた大和が顔を上げ、交代で風呂場へ向かおうと立ち上がる。背伸びをして、柔らかい髪を指でくすぐってみれば、なんだよと不思議そうな顔で笑われた。
大和が戻ってくるまで暇なので、わざわざ玄関までスリッパを取りに行き、二つを並べてみる。突っかけるだけのスリッパはサイズの差がわかりにくいから好きだ。玄関に並べた靴やハンガーに引っ掛けた薄手のジャケットたちを見ながら、瑛二は時々思うのだ。同じ男なのに、と。
吹き込む風で白い花びらが揺れた。窓とカーテンを閉めて、冷房を入れる。タンクトップにハーフパンツで風呂からあがった大和が、冷えた部屋に小さく反応した。
「やっぱりまだクーラーいるな」
「そうだね。結構風も強かったから」
「……まぁ、窓あけっぱなしってわけにはいかねぇもんな」
大和に顎を捉えられ、唇が重なる。小さく肯定の返事をして、たくましい両肩を掴んだ。濡れた髪からぱたぱたと落ちる水滴が手の甲を濡らす。性急にもう一度くちづけられ、フローリングに押し倒される形になった。
「わりぃ……」
「ううん、大丈夫」
「なんか……部屋あつくねぇか……?」
顔の上に水滴が降ってくる。肩から下げたタオルで頭をわしゃわしゃと拭き取っている最中にも、鼻に、額に、唇に、大和の愛撫が止むことはなかった。
「……暑いの?」
「あぁ……なんだこれ……?」
「大和」
心地よい温度の頬に手のひらを押し当てる。少し離れた唇と唇の間で、あのねと小さく囁いた。
「暑くて当然なんだ」
「は……?」
「そういう風に、俺がしたから」
「どういうことだ」
「……媚薬…………えっと、気持ちよくなる薬、みたいな……?」
「は!? おれに?」
「うん」
離れていく上体を引き留めることもせず頷いた。
大和の顔は微妙に火照っていて、どうやら効き目はあったらしい。信じていなかったわけではないけれど、実際にじわじわと効果を見せる恋人の姿を前にするとどうにもたまらなかった。
大和の好きにしてほしいのだ。一度くらい、何も考えずに大和のためだけに抱いてみてほしい。めいっぱい、素直に求められたい。
大和はふいとそっぽを向いて、花に語るように言った。
「瑛二、おまえ今日は帰れ」
「いやだ」
「いやだじゃねえよ」
「どうして?」
「んな薬にあてられて……それだけでやれるかよ」
「それだけ? 違う、大和がいつもちゃんとドキドキしてくれてるの、俺知ってるよ」
「じゃあなんでなんだよ」
「大和が俺に遠慮してるのも知ってるから」
「……遠慮じゃねえって」
「じゃあ……手加減?」
「んなの、しゃーねえだろ……」
床にあぐらをかいた大和が、困ったように頭を掻いた。ゆるく履いたハーフパンツの上からでも、熱を持った部分の主張がうっすらとわかる。瑛二も身体を起こし、引かれ合うように大和の膝の上に乗っかった。
「おい、おまえな……」
「……だって」
細い指先を布の上から性器に這わせ、つうっと根元から触れる。びくっと肩を揺らした大和に、しがみつくように抱きしめられた。
「えーじおまえほんと、死にてぇのか!」
「……死ぬほどなの?」
肩口に顔を埋めたまま問い返す。
だんだん荒っぽくなっていく呼吸にどきまぎする。大和が胸を上下させるのに合わせて、抱きしめられた身体も一緒に揺れた。
タオルの下に手を潜り込ませて濡れた髪を撫でる。やめろよと力なく大和が言った。
「……やめたくない」
音がよく聞こえるように耳たぶにキスをする。
ぎゅうぎゅう抱きしめられて、苦しいのと同じ分だけ興奮する。瑛二を求め始めた大和の象徴が下から押し当てられた。その大きさがわかるくらいの高ぶりに、早くほしい、と心がさわぐ。
「俺も……一緒に飲んだら良かったな」
首筋に軽くくちづけ、ひとりごちた。
ぎゅうと掴まれていた両手が解ける。見つめ合えるくらいに上体だけを離して、でも今にも触れそうな距離で大和が口を開いた。
「カモミール、だったか? 入れたの、あれか?」
「……そう」
「じゃ、のこってるかもしれねぇだろ」
そう言って上唇が軽く触れる。言葉の意図はすぐに汲み取れて、まさかと思ったけれどキスしながら舌を潜り込ませた。舌を絡ませ、それから歯列をなぞる。ふんわりと、ハーブの香りに包まれる。息が苦しくなって離れると、濡れた唇を大和の親指に拭われた。
「暑いね」
「あぁ……」
「俺、朝までここにいるよ」
「……覚悟は、しとけよ」
「わかってる」
耳の近くの髪を何度も梳かれ、瑛二も頭がぼうっと痺れてくる。
唾液を交わすようなキスをしても効き目が瑛二に表れるようには思えなかったけれど、大和がどれだけ切羽詰まっているのかはちゃんとわかる。あの媚薬を手に入れてしまった時、ちゃんと自分自身で試したから。
「……好き。好きだよ、大和」
薄い男の唇に自分のそれを軽く押し付け、グレーのハーフパンツのウエストに両手を潜り込ませる。下着ごと少し下ろそうとすると大和が自らそれを手伝った。早く楽になりたいんだろう。取り出された、身体の大きさに比例したサイズの性器を両手で包んだ。もう十分に勃起していて瑛二の両の手のひらでも足りないくらいだ。
全部の指にぎゅうっと力を込めて擦り上げる。
痛くないのか心配になってしまうけれど、そもそもの作りが違う大和と瑛二じゃ基準が全く異なった。なるべく丁寧なだけにならないよう、早いスピードで扱いていると、大和の唇から暑い吐息と瑛二の名前が漏れ出た。視線を上げるとオレンジの瞳と目が合い、すぐにそらされてしまう。大和にも恥ずかしくてたまらないことがあるのかと思うとどうしようもなくかわいく思えた。
タンクトップの上から胸元に吸い付く。難しくて探せないかもしれないと思っていた先端が微妙に尖っていて驚いた。舐めながら視線を上げると大和の顔がぶわっと赤に染まる。
「っあぁ……やべ……」
たくましい両腕にゆるく抱きしめられる。瑛二、と何度も名前を呼ばれ、胸板に頬を寄せたまま見上げた。
「大和、先にいっていいよ……?」
「わりぃ……も、むりだ」
「ううん」
硬くなった性器を力いっぱい扱くとぎゅうとしがみつかれる。荒い呼吸の音が耳元で響いてどくんと心臓が跳ねる。苦しそうに声が裏返るのも気にせず手つきを速めた。
押し付けられた首筋をぺろりと舐めた。背を丸めた大和に耳たぶを噛まれる。両手に白濁が放たれ、受け止めきれない分だけ手首を伝って瑛二のスウェットの上にぽたぽた落ちる。
「えーじ……も、いれてもいいか……?」
しゅ、とティッシュを引き抜く音。甲斐甲斐しく瑛二の両手を拭きながら、大和が耳元で囁くように言った。
「ん……いいよ」
上目遣いぎみに大和を見つめ、反り返ったままの性器を片手で擦り続ける。汗が滲んだ黒いタンクトップの上から身体にキスをすると、「かまってやれなくてわりぃ」と大和が言った。
「ローション、いつものとこだ」
噛み付いた耳たぶに大和が指で触れる。瑛二は俯きがちに首を横に振った。
「なくって平気」
「ばか、んなわけねぇだろ」
「久しぶりじゃないし、大丈夫だよ」
頬に添えられ耳元を弄っていた大和の手にてのひらを重ねる。きゅっと握って動かすと、素直に瑛二の腰元へついてきた。かたい指先が腰の上を躍って、下半身にまとわりついていたスウェットを脱がせる。大和の首に両手を絡め、そうしやすいように腰を上げた。
「おまえは……ちゃんとしてねぇと、だめだろ……」
小さな口に熱の切っ先が触れる。ほんの少しだけ触れているそこはひくついて大和を求めた。
けれど、わかっているはずなのに、してくれる気配はない。瑛二が腰を落とそうとしても、しっかりと身体を支えた両腕はそれを許してくれなかった。
「やっ……なんで……」
「あんまうごくな、力……そんなはいんねえ」
「挿れて……大和、はやく」
「おれだっていれてぇけど」
瑛二を乗せていた膝をゆっくりと立て、細い身体を抱えたまま大和が腰を浮かせる。背中と頭を大きな手に支えられ、フローリングに寝かされた。ベッドに移動できる余裕はないらしい。両脚をぐっと開かれる。性器の先端に入り口を撫でられ、声にならない声が出た。
「は……ぁう、」
たっぷりと滑った後孔を大和の指先がかすめた。角度を変えて突き立てられ、ぐっと中を侵される。
「せまいじゃねえか」
「や、ちが……」
「よゆうねぇ。ふやすぞ」
「ぁあっ」
増やされたそれがどの指なのか、考える暇もない。背中を浮かせ、奥を擦られるのと同時に力を抜く。受け止めてくれるのは固いフローリングで、それを気にした大和に背を抱きとめられた。
長い指が好きなところで曲げられる。漏れてしまいそうな声をふさごうと手の甲を唇に押し当てると、「おい」と怒ったような声が降ってくる。
「おれがこんな時に、おまえだけはずかしがってんじゃねぇよ」
瑛二の中に潜り込んだ指と、背中を抱く手のひらと。ふたつじゃ足りないからか、口を塞いだ瑛二の右手に大和はがぶりと噛み付いた。奥へ埋められた指が中を深く抉る。
「あ、ぁ、やぁっ……!」
「ここだろ」
ぐるりとかき混ぜるような動きをしてから二本の指が出ていく。中が広げられる感覚も、存在感があるものが抜けていく感覚も気持ち良くて、何に対してなのかわからない喘ぎ声が漏れた。
「えーじ、いれるからな」
言い終わる頃にはもう先の方が潜り込んでいて、全身がびくびくと震えた。これが好きだ。大和がくれる、瑛二を許し、好きでいてくれることの証みたいで。
「あ、ぁあ……っん」
濡れた音といっしょに埋められると、瑛二の身体はなめらかに大和の熱を飲み込んでいく。いつもならこのまま、瑛二が大和のかたちに馴染むまで待つところだが、今日の大和にそんなことができるわけがない。たっぷりと大きな熱の塊は余裕なく抜き挿しを始める。
「は、ぁ、あぁ、ひあぁ!」
内壁を抉られ声が漏れる。恥ずかしくてまた声を抑えそうになった瑛二に大和が首を振る。応えるように小さく頷いてから大和の首に両手を絡めると、動きがさらに早くなった。
「あ、ぁ、あ、やぁ、っあ、ぁああ……っ」
ぎりぎりまで引き抜かれ、もったいぶるように動きを止めてから奥の方まで貫かれる。ぐちゃぐちゃに、という表現じゃ可愛すぎるかもしれない。肌と肌の間で鳴らされる水音はもっとねっとり濡らされてしまっていた。ピストンが繰り返される度に腰が跳ねる。
「っ、えーじ……っ」
「はぁ、あ、ぁん、んっ」
「きもち、いいか……?」
「ん……っうん、いい、よ……ッ」
大きくて太い熱にじくじく突かれ、どこを触られても感じる身体に作り変えられていく。大きく開いた両脚を腰に絡めた。
「えーじ、いっしょにいけるか」
「うん……っ」
熱に浮かされながら頷いた。大和の性器がずるりと引き抜かれ、瑛二のそれと重ねて扱かれる。唇が合わさり、舌が瑛二の唇をこじあける。じゅう、と吸われて頭が真っ白になった。
「ぁ、や……も、いっちゃ……」
強く擦られ、抵抗する間も与えられず熱を放つ。唇が重ねられた瞬間、大和も精を吐き出した。この行為を慈しむように背中を優しく抱くと大和の身体はびくんと揺れる。カサブランカの花びらがひらりと床に落ちるのが、視界の端の方に見えた。
「……せなか」
「ん……?」
「背中、いたくねぇか」
「ちょっとだけ」
「……ん」
絡み付いた瑛二の身体を支え、大和がぐっと持ち上げる。再び床に座った大和に正面から跨る体制になった。そのまま、当たり前みたいに大和の熱を咥え込んで、ゆっくりと腰を落とす。一度達してから萎え始めた瑛二の性器は、肌を密着させることで単純にまた天を仰いだ。
「うごくぞ」
「はや、ぁ、あ、もう――」
下から突き上げられ嬌声がこぼれた。大きな手のひらに腰を支えられる。胸を反らすように後ろに倒れて両手を床についた。大和は好きなように動きながら、限界だと思っていたのにもっと奥へと進めてくる。ある程度のところを超えてしまうと内側はどこも気持ちが良くて、軽く擦られるだけでも身体中が震えた。
「はぁ、ん」
ぐっと奥を突かれ、伸ばしていた腕ががくりと折れる。肘から下で体を支え、これじゃまた背中をついてしまうのも時間の問題だ。それに気付いた大和は易々と瑛二を抱え上げる。
「ぁあ、やまと、やだ……」
元の体勢に戻ったと思ったら、流れるように大和が床に背をつけて騎乗位になった。浅いつながりが途絶えてしまわないようにわざと深くを突かれ、足の指先がびくびく震える。
「えーじ」
頬を撫でられ目を閉じる。
「中にだすぞ」
「……ん、」
手のひらに唇を寄せる。中に熱い感覚が広がり、思わず眉をひそめる。触られてもいない性器から、瑛二も白濁を吐き出した。大和のタンクトップに染みができる。いったばかりでもお構いなしに大和はまた律動を始めた。
「ぁ、あ、あん、ん――、やっ」
「おまえもうごけよ」
子どもをあやすみたいに頬を撫でられる。その手をぎゅっと握り指を絡めた。二人が手をつなぐのはこうしているときくらいだ。もう思考はすっかり止まってしまって、大和に合わせて身体を上下に跳ねさせる。
「きもちいいだろ、えーじ」
「ん、きもち、いい……っ」
「腰、にげんな」
「っぁ、ん……」
上体を大和と重なるように倒すとつながりが浅くなって、しっかりと腰を固定される。タンクトップの布をめくり上げて胸の先端に吸い付いた。唸り声に近い、大和の鼻にかかった声が耳元に心地良い。少しでも感じてくれることが嬉しくて、わざとくちゅくちゅと音をたてた。
「……えろいな、」
「きらい?」
「んなわけ、ねぇだろ」
えいじ、と名前を呼ばれて顔をあげると、唇にキスするよううながされた。濡れた大和の胸の先を指で弄りながら唇を合わせると満足そうに笑う。
くちづけながらゆっくりと上体が起き上がる。つながったまま、抱っこされた状態で大和が立ち上がり、思わずわっと声が漏れた。両足を腰にぎゅっと絡める。
「やまと、落ちちゃう……」
「おとすかよ」
「このまま……するの……?」
首に絡めた両手にぎゅっと力を入れ直し、見つめ合っていると大和が小さく笑った。軽々と、腑抜けかけた瑛二の身体を抱え上げたままベッドに向かい、してほしいのかと聞いた。
「大和は?」
口早に問い返すと、背中を柔らかいシーツに包まれる。固い大和の性器がずるりと引き抜かれ、甘ったるい声が出た。大和が上半身にまとわりついていた黒いタンクトップを脱ぎ捨てる。肩を掴まれたと思ったら、そのままうつ伏せになるよう半回転させられる。
耳元に、少し意地悪な声がした。
「なあ、さっきみたいに犯されてみてぇのか?」
瑛二はシーツに頬をつけたまま頷いた。
「……して、ほしい」
「こんどな。おれも今日は、そんなよゆうねぇ」
「……今度?」
「待てるか? おまえはちゃんと、がまんできるだろ」
聞き分けのない子どもをたしなめるみたいに問われ、またシーツの上で首を縦に振る。
「おまえほんとエロいな」
大和はひとりごとのように言うと、瑛二の背中に何度もくちづけた。背骨をなぞられ痺れが駆け上がる。触れられていない下半身の疼きに、思わず腰を持ち上げた。もう、媚薬を飲んだのはどちらかわからない。
「なあ、えーじ」
名前を呼ばれた瞬間、腰をさらに高く持ち上げられて返事ができなかった。四つん這いになった状態で、尻だけ突き出すような格好に、次はどうされるかすぐにわかった。両手でシーツを掴むとすぐに大和の熱が押し入ってくる。
「んっ……ぁ」
肩で息をすると全身が揺れる。律動はすぐに始まらず、すっぽりと瑛二の身体に覆い被さった大和が耳元で荒い息を吐いた。
「えーじ」
「……う、ん」
「おまえがすきだ」
「え……」
全身の、熱という熱が、いきなり押し寄せて突き上げてくる。音が鳴りそうなくらい顔が真っ赤に染まっていくのが、鏡のないこの部屋でもすぐにわかった。シーツを手繰り寄せて身体を支えていた腕の力が一気に抜けてくずおれる。バランスを崩した身体を大和に抱かれ、つながっていた場所はもっと深々と貫かれる。
「ゃあ、んっ!」
もっと、ほしくて、ほしくてたまらない。
恥ずかしい声を聴かせてしまいそうで、枕を引き寄せ顔をうずめた。腰が勝手に動くのは瑛二にも止められなくて、大和の性器を咥えたまま必死にそこを揺らす。
してほしい、と言葉にするのは簡単だけれど押し殺した。隣にいるだけでよかった、好きだと口にできて嬉しかった、はじめてのキスが幸せだった。あの感覚を、忘れてしまいたくないから。
「なぁ」
瑛二のリズムに逆らうように大和が腰を振る。
「不満があるわけじゃ、ねえんだろ」
すぐに大和のやり方に変えられてしまう。もっと深くに当たるように瑛二も腰を振る。
「終わったあと、いつも、おまえがよかったっていうの、うそじゃねえよな」
肌と肌がぶつかり合い音が鳴る。獣みたいなやり方に欲情しながら、瑛二は必死に首を縦に振った。
「……遠慮、したことねぇって言うと、やっぱりうそになる」
いつもより低い声で言った後、大和は動きを止めた。顔を上げて振り返ると、大和に枕を奪われる。狭い部屋の中で、大和に投げ飛ばされる枕が描く弧を見つめた。
「声、ちゃんときかせろ。一人でやってんじゃねぇんだから」
「は、ぁ、だって……ぜんぶ、きもちいいから……」
「じゃあ、なおさらだろ」
「顔……ちゃんと、見たい……」
またわがままが口をついて出た。やっぱりこのままでいい、と言いかけたところで熱が引き抜かれる。大和にそうされる前に仰向けに体勢を変えると小さく笑われた。
片足を掴まれ、ぐっと挿入される最中に指を大和が舐める。それだけのことで、達してしまえるんじゃないかと思うくらいに気持ち良かった。
「ふ、ぅん……っくすぐった……ぁ」
「くすぐったくしてんだよ」
「や……も、おいしく、ないよ……?」
音を立てて舐められながら、結合も深くなる。さっきの言葉を思い出し、遠慮しないでとうわ言みたいに口にすると大和が難しい顔になった。
「それは……むりだ」
「どうして?」
「おれがどうしたいか、おまえだってぜんぶ知らないだろ」
答えに困っているうちに奥へぐっと貫かれる。入り口を擦られるのと、奥の好きなところをちゃんと突いてくれるのが気持ち良くて、喘ぎながらうっとり微笑んだ。これ以上のことなんてあるわけない。そう思うくらい、絶頂は近かった。
「は、ぁん、ン、んぅ、っあぁ――」
「おまえの声が枯れるまで、ずっと、やりてえ」
「あっ、あぅ、あ……ッ」
「明日も、あさっても、ここから動けねえくらいヤりまくりてえって思ったことも、ある」
「ぁ、おっきく……しちゃ……」
「いけよ、えーじ」
これ以上なんて、ないと思ったのに。
「いや、ぁ、あんっ」
激しい抽挿で瑛二を攻め立てる。本能的に、逃げないと、と思い引いた腰を大和に押し戻される。声が抑えられない。はしたなく大きな声をあげて、シーツの上でひどくよがった。
「あ、や、やまと……ッ、いっちゃう、いく……っ! いっちゃうよぉ……!」
愛してやまない大和の性器にずくずくと貫かれ、熱い涙が溢れた。激しく腰を揺らしながら大和がその涙を掬う。
「えーじ……好きだ」
「俺、も…………あぁっ――!」
細い身体が痙攣を始める。
達したのだろう。それがわかったから大和は動きを至極ゆるやかに変えた。しかし――。
「えーじ、おまえほんとに……いったのか?」
大きな手にそこを探られ、思わず声が出る。微量の蜜はこぼしているものの、吐精していないことは瑛二にもわかっていた。それに、独特の倦怠感が全く押し寄せてこないのだ。
まるで、女の子みたいで。自分が自分でなくなったような感覚に恐怖を覚えた。シーツを思い切り手繰り寄せ、ふいと顔をそむけて両腕で覆うと、大和にそっと髪を撫でられる。
「えーじ」
耳に軽く唇が触れる。穏やかな声色に安心した。
「へんな薬盛ったおまえのほうが、もりあがってんじゃねぇか」
「あ、ごめん……」
「あやまらせたかったんじゃねぇよ。まだ、できるだろ」
「ん……うん」
顔を覆っていた両腕をそっと剥がされ、見上げるとくしゃくしゃ髪を乱された。目を閉じると唇を重ねてくれる。触れているかいないか、ギリギリの距離で大和が笑って言った。
「一つだけ、おれもわがまま言っていいか」
「うん、何でも言って」
頬に触れてもう一度キスをする。
「明日でもあさってでもいい、瑛二のカレーが食いたい」
「……そんなことでいいの?」
「なんだよ。おまえはおれの胃袋にぎってんだから、よろこべよ」
「……嬉しいよ、もちろん」
まだ湿っている襟足を指先で撫でる。瑛二が纏ったシーツを大和がふわりと剥ぎ取った。その風でカサブランカの花が揺れる。
「やさしいね、大和」
効き目がなかった、わけではないけれど。
不思議そうな顔で見下ろす大和にもう一度くちづけをねだった。カレーの香りがする唇とも早くこうして触れあいたい。夢中で与え合いながら、再び大和に全てを委ね、目を閉じた。
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