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 手のひらの中の小さな端末に、恋人の愛らしい笑顔が映し出される。溶けてなくなるんじゃないかと心配になるほどの、締まりのない笑顔。
 瑛二が四月から朝の情報番組の月曜レギュラーになって約二ヶ月。緊張もだいぶ解けて番組の雰囲気や共演者たちに馴染んできたらしい瑛二は、視聴者がペットの動画を投稿するコーナーの〆にアップで抜かれることがお決まりになっていた。仰向けに寝転がる仔猫、芸を覚えた鳥、珍しい爬虫類の決して動物園では見られない様子――などなど、飼い主ご自慢の動物たちの姿に見入って、自然な笑顔を思い切り見せているのが視聴者にも制作サイドにもウケがいい、らしい。
 わたあめみたいな白くて丸っこい仔犬が甘えてカメラに視線を寄越すだけの動画から、それを夢中で見つめている瑛二の姿に映像が切り替わる。最近は自分の姿が抜かれていると気付いた瑛二が恥ずかしそうに戸惑うところまでがセットで好評だという。番組のゆるキャラ枠といったところだろうか。共演者たちからも弟のように可愛がられているのが端々から伝わってくる。……まぁ実際かわいいからな。
 放送日の昼間には、そのコーナーと、コーナー明けの瑛二の表情をループで見られるようにした動画がYou Tubeにアップされる。便利な世の中だな、と思うと同時に、自分もテレビに出る側の立場として、こえーなとも思う。少なくとも大和が学生の頃は、みんなガラケーの小さいボタンを一生懸命ぱこぱこ打っていたし、携帯端末じゃ写真もきれいに撮れなかった。瑛二はガラケーを触ったこともないんだろうな――と思うと、自分たちの年齢差をありありと思い知らされる。

『それでは今日のペットのコーナーでーす』

 女子アナのゆるいフリで犬の映像に切り替わる。そういえばこの番組に出演するまで、瑛二が動物好きだなんて知らなかった。人前であんな無防備な笑顔を垂れ流せることも。自分の知らない顔を、自分のいない場所で見せていることが悔しい。

「……大和?」

 スマホから顔を上げる。と、声の主は本物の瑛二で、ソファに寝転がった大和を見下ろすかたちで立っていた。

「おう」
「おはよう。今日、オフ?」
「あぁ。ダンスの個人練するからスタジオとってるけどな」
「そうなんだ」

 手にしたマグカップをテーブルに置いて、瑛二が顔を寄せてくる。軽くキスをすると微笑んで、そして大和の手の中を見つめ「えっ」と驚いた声を出した。

「昨日の『モーニング・モーメント』?」
「おう」

 そんな番組名だったのか。

「動物と、おまえのリアクションばっか見れるようにしてあるやつ」
「そんなのあるんだ……恥ずかしいな」
「そうか? いいじゃねぇか、瑛二も犬っころみたいな顔して」
「最近みんなにもよく言われるんだ。スタジオにも小動物がいるみたいだねって……。褒め言葉、でいいんだよね?」

 みんなという単語に、突然苦みが口の中に広がるような感覚がした。みんなって誰だよ、とは訊かない。わかってる。大和が知らない瑛二の世界にイライラするなんておかしな話だ。そんな権利もない。わかっているのに、むしょうに腹が立ってしまった。
 大和、と名前を呼んで、瑛二がスマホの電源を切る。そっとくちづけられ、上唇を舐められた。大和が少し不機嫌になっているのを悟ったのだろう。

「俺、ここにいるよ」

 クリアに響く、澄んだ水みたいな声。易々と取り上げられたスマホがマグカップの隣に並ぶ。

「本物の俺がいるから、もう見ないで」
「……もう見てねぇだろ」

 甘い茶色の髪を梳く。瑛二は小さく頷いた。

「俺のこと見て、大和」
「だから、見てんじゃねぇか」
「もっと……もっとちゃんと見て」

 視線が交わる。もう一度唇を重ねて、ふと気になってスケジュールを書いたホワイトボードを横目で見やった。オフを示す赤いマグネットはふたつ。そして他は全員、夕方まで帰ってこない。
 L字ソファの書き始めの部分に預けた身体を起こし、隣に瑛二を座らせる。腰を抱き寄せ唇を触れ合わせた。キスは何回したっていい。動画の瑛二には触れられないのに、今こうして生身の瑛二に求められている。優越感がたっぷり満ちてきて、瑛二の手首を引いた。ひじ掛けに背中を預けて仰向けになった大和の上に、瑛二が覆い被さる。

「ごめん……っ」
「このままでいい」
「でも、重いでしょ?」
「わざとやってんだから、わかれよ」
「え?」

 ぽかんと口を開けるものだから、頭を掻き抱いて舌を使ったくちづけを食らわせてやる。十五歳ってこんな子どもだったろうか。おれがガキのころは? こういうことに関しては、もっと手慣れていた気がするけど。

「……んっ、んん……」

 キスの時に漏らす甘ったるい声は、一丁前に大人びているくせに。
 どこにやれば良いのかわからないと言いたそうにばたつかせた脚を、長さの違う脚で押さえ込む。絡ませるというのが正しいかもしれない。びくりと震えた身体は明らかにもっと深い行為を想像しているのだとわかった。
 心臓の音がどちらのものかはっきりしない。唇を離すと瑛二は「どきどき言ってる……」と顔を赤らめた。
 セックスを――瑛二としたことは、まだない。恋人になってから三ヵ月経過した。大和は、付き合い始めてこんなに経つのにセックスしてないなんておかしいと思う。しかし手を出せずにいるのは、やはり瑛二との間にある九つの歳の差が原因だ。

(ガキすぎるんだよな……)

 どうしたって埋まらない歳の差は、自制心を予想以上に働かせる。髪に指を通して頭を撫でる。されるがままになっている姿は、仔犬か仔猫みたいに愛くるしい。
 十五にしては大人びているし、理性的だし、一緒にいて瑛二の方が落ち着いてるなと思うことはままある。でもそういう意味じゃなくて――あっち方面の知識とか経験とかが、きれいにぽっかり欠落している感じがするのだ。生々しさがかけらもない。

「……な、瑛二」

 耳元でささやく。瑛二はそれに含んだ意味を全く理解せず、大和の声に名前を呼ばれる喜びを全身で示して「なに?」と嬉しそうに答えた。

「セックスしねぇか」

 軽薄な誘いではないことを表すようにゆっくりと――でも初めての相手に求めるような誠実さを演出するのは難しかった。重ね合わせた身体がわかりやすく熱を帯びる。瑛二はうろたえて目線をきょろきょろ泳がせる。正直居た堪れなかった。

「おい瑛二……、セックスって知ってるよな?」
「……知ってる」

 ぎこちなく受け答えをする。と、瑛二の語尾がゆるんでほっとした。

「いやならべつにいいけどよ」

 なかなか返事を寄越さない瑛二に、そして自分自身に逃げ道を作る。
 大和にとってセックスは、二人きりでキスして、密着して、服を脱がせればそれで勝手に始まるものだった。イエスもノーもない。好きだと言って付き合えばそれはつまりイエスということになると思っていた。
 だから瑛二にだって、そうすればいい。
 なのにこれ以上身体が動かない。ひとつひとつの挙動に、承諾がほしくなる。

「あ……あの、大和……」
「ん?」
「俺、ちゃんと知ってるし……いやじゃない」
「おう」
「でもね、その……水やり、して……汗かいてるから……シャワーしてきてもいい、ですか……?」
「なんで敬語なんだよ」
「なんか緊張しちゃって……ごめんね」
「あやまんなよ。じゃあ、部屋でまってていいか?」
「うん……待ってて」

 こくりと頷く。中途半端に絡み合った身体を起こし、顔を覗くと頬が赤い。緊張しているというのは嘘じゃない。瞬時にわかった。十五歳ってそんなもんか。もう覚えてないけど。
 キスをしてから瑛二を見送り、スタジオの予約をキャンセルする。部屋に戻るとシーツを雑に整え、ベッドサイドの引き出しを開けて中身を確認した。準備万端。ベッドにどっかり腰を下ろし、そのまま仰向けに寝転がるとつい癖で腹筋を始める。
 緊張らしい緊張を、大和はしていない。そんなの今さらすぎる。童貞じゃあるまいし。
 そういえばスマホ忘れてきたな、と思い出す。
 まぁいいか。電話がかかってきても出るつもりはない。
 いつものトレーニングの三セット目に突入した頃、部屋の扉をノックして「おじゃまします」と瑛二が姿を見せた。Tシャツに細身のパンツ。なんの変哲もない普段着だった。髪もすっかり乾いている。

「瑛二、となりすわれよ」
「うん」
「わり、おれのほうが汗かいちまった」
「気にしないよ」

 二人の間に少し空いた隙間を埋めるように近付くと、瑛二が肩を寄せてもたれかかってくる。それだけで緊張が伝わってきそうなほどぎこちない動き。

「そんな緊張すんなよ」
「でも、するよ……」
「いやなこと、なんもしねぇから」
「うん……わかってる」

 先に唇を求めてきたのも瑛二だった。大丈夫、と伝えるように触れてくる。合わせた唇から瑛二の心音まで聴こえてきそうだった。つむじからなぞるように頭を撫でる。

「なんか、いいにおいすんな」
「うん。兄さんのシャンプー借りたんだ。いい匂いだから」
「おまえな……」
「えっ?」

 たちまち不機嫌になってしまう表情を隠せない。ガキくさいとは自覚しているけど、その言葉を聞き流せなかった。瑛二は「なに?」と不思議そうに首を傾げるから、ますますムカついた。

「今からセックスしようってときに他の男のシャンプーつかってんじゃねぇよ」
「……そっか。ごめん、もう一回洗ってこようか……?」
「次からでいい。あやまる必要もねーけど……変なとこでぬけてんな、おまえ」
「そうかな」

 額を合わせて、そして唇を重ねる。意識しなくてもシャンプーのさわやかな香りが鼻腔をくすぐる。瑛二にしては背伸びしすぎのさっぱりとした匂いが逆にかわいらしい気すらした。シャワールームでわざわざ瑛一のシャンプーを選ぶ姿を想像すると、それはそれで悪くないというか。

「やんの、はじめてか?」

答えのわかりきっている問いを口にする。

「うん……」
「なにすることか知ってんのか?」
「多分、わかってるよ」
「そうか」
「……大和は?」
「男とははじめてだな。心配すんな、勉強したから」
「うん、俺も」
「そうなのか?」

意外だった。すっかり乾いた髪に指を通しながら、瑛二の「勉強」をちょっと想像してしまう。

「AVで?」
「……そう、だけど」
「子どもは見ちゃいけねぇのに」
「検索したら見れちゃうんだもん」

やっぱりスマホって便利だ。フィルターとかかけとけよ、と思うものの、瑛二にスマホを持たせているこいつの親父はそんなこと気にしそうにない。

「じゃあ、大人じゃない俺と……しようとしてる大和はどうなの? 大和は十八まで見なかったの?」
「おこんなよ」

冗談っぽく言って頬を撫でる。と、やけに熱くて思わず指を離した。

「熱でもあんのか?」
「緊張してるから……」
「緊張だけでこんなになるんだな」
「こういう話、人としたのもはじめてだし……」
「あー……下ネタとかも無理そうだもんな、瑛二」

 別に大和だってめちゃくちゃ好きというわけじゃないけど。付き合ってるから多少はいいと思う。というか、多少の確認は必要だと思うだけで。
 顔を覗き込むと瑛二は真っ赤になって俯くから、突然十五歳という年齢を重く感じた。エロサイト見てるのを咎めていい立場じゃない。本当は大人になるまで待つべきかもしれない。でもそんなの大和には無理だ。待てない。もう一秒も。

「十五ってもう子どもじゃねぇよな、瑛二」
「わかんないけど……大和は、はじめて、いつだった?」
「…………中三」
「俺より年下!」
「ほんとだな……わすれてた」
「相手はどんな人?」
「いわねぇよ」
「なんで?」
「そのかわり、いいこと教えてやる」

 肩をそっと撫で、腰を抱く。指先で筋肉の薄い腹を擦るようにしながら耳元に唇を寄せた。

「セックスしたら、男同士でも子どもできんだぜ」
「へっ……!?」

 びくり、と華奢な身体が大げさに揺れる。すみれの色をした丸い瞳に見上げられ、冗談だと笑いたくなるのを我慢した。すぐに種付けされると思っているのか、怯えているのを誤魔化すみたいに瞬きの回数が増える。
 半信半疑の顔色が愛くるしい。まさか信じているんだろうか。罪悪感が生まれたが、このかわいらしい反応をもっと見たい好奇心の前では無力だ。

「うそ、だよね?」
「うそじゃねぇよ。しらなかっただろ」
「でも、そんな風に保健の授業で習ってないよ」
「学校じゃおしえねぇからな。男女でやるやつのほうが多いし」
「でも…………ほんとにほんとにほんと?」

 大和の腕を握りながら問いかける。純真な瞳が健気で愛おしい。真顔で「あぁ」と答えると、瑛二は目を閉じて深い呼吸を繰り返した。

「ゴムつけてりゃ大丈夫だからな」
「うん……ね、大和」
「ん?」
「俺がもっと大人になるまで、待っててくれる?」
「あー……くそ、いちいちかわいいなおまえ……」

 こらえきれずにぎゅっと抱きしめ息を吐く。
 おれが知らないだけで本当に男同士でもできたりしないのか、ありもしないことを真剣に願ってしまう。だってもう本当に、瑛二とどうにかなりたいのだ。まだ若くて未熟で責任の取りようもない今はただこうして、互いを確かめ合うために交わりたい。でも将来は瑛二と――そんなことを考えてもどうにもならないけど、言葉にしたらむしろ大和の方がもどかしくなってしまった。保健の授業中はずっと机に突っ伏して居眠りしていた大和にだってわかる。おれたちのセックスに生産性はまるでない。

「大和、なんかもう俺、落ち着かないよ」

 身体を密着させてくる。初めてのくせに、誘うのが上手い。
 電気を消して、ベッドサイドの小さな灯りだけを点しておく。カーテンもぴっちり閉めたから、まだ午前中とは思えないくらい部屋は薄暗くなった。なんとなく、初めての瑛二を相手に電気を点けっ放しにするのは良くない気がした。
 額に軽くキスをして、生成りのTシャツの裾に手を差し入れる。

「あの、大和……? 俺、自分でできるよ」
「んなことわかってるけどよ。おれがやりたい……だめか?」
「だめ、じゃない……」
「ならそのままな」

 指と素肌が触れ合うのを邪魔した肌着を引き出し、まとめてたくし上げる。当然その下には何も身に着けていなくて、胸の膨らみもない。男の体だ、と思い知るとほんの一瞬だけ、ためらいのようななにかが波紋をつくる。瑛二も大和のTシャツを引っ張るので、されるがままに上裸になった。腹筋に注がれた熱い視線は男として正直誇らしい。

「……あ、」

 パンツのボタンに手をかける。それを外すまでは大人しくしていた瑛二が、親指を引っかけると素早く手のひらを重ねてきた。

「いやか? 自分でするか?」
「あの……いやじゃなくて、恥ずかしい……」
「ときどき風呂いっしょになんだろ」

 寮の大浴場の脱衣所で、素っ裸だってお互い見たことがあるのに。

「そういうのとは全然違うよ」
「……じゃあおれが先に脱ぐな」

 ためらいらしいためらいもなく、部屋着のスウェットを脱いで下着だけになる。瑛二だってちっとも恥ずかしい身体なんてしていないはずなのに不思議だ。大和がもともと恥じらいという感情に興奮を覚えないたちというのもある。めんどくせぇ早く脱いじまえ、と言うつもりもないけど。
 両脇を掬うように手を差し入れ、細い身体を持ち上げる。何にも守られていない素肌に触れられると瑛二はまたかわいげのある反応を見せたが、すぐに身体を硬くした。

「ごめんね、慣れてなくて……」

 膝に乗せて見つめ合う。先に唇を求めたのは瑛二だった。
 キスは、初めて交わした頃よりずいぶん上手くなった。セックスもそれなりに回数を重ねれば慣れるだろう。正直なところ、初心な反応よりも手練れて自分を翻弄してくるような行為の方が好きだ。開発するとかおれ色に染めるとか、処女性にはあまり興味がない。でも瑛二の初めてが自分ということに優越感を得た実感は確かにあって――理解できない。難しすぎて。
 瑛二の腕が首に絡められ、抱き合うとほっそりとした男の身体を直に感じる。自分と同じだからわかっていたのに、改めて、男の身体ってやわらかくねぇんだなと自身の肌が知る。でもそれでよかった。女の身体がくっついていなくたって瑛二のことが好きだ。

「……今、ちょっとほっとした顔、した」
「よく見てんな」
「どうして?」
「男とか女とか、もうどうでもいいと思えたから」

 後頭部のカーブを撫で、もう一度キスをする。ゆっくりしようなと呟いた。慈しみという気持ちは、こういうときに生まれてくるものだと知る。

「大和は、今まで何回くらいした?」
「そんなに気になんのかよ。相手とか年とか」
「気になるよ」

 当然、という顔で瑛二は言う。

「これからはずっと、俺だけとしてほしいから」
「ずっと?」
「一生」
「重いな、おまえ」
「じゃあ、大和はいつまでって思ってるの?」
「そういう意味じゃねぇけど」
「重くないのがいいって言うなら、努力するけど……。でも俺、軽いのも重いのもよくわからないや」
「いい、重いほうが瑛二っぽいだろ」
「そうかな」
「そうだ」

 頷き断定して、そしてまたくちづける。
 キスもセックスも、初めては中三の夏だった。近所の高校に通う二個上に誘われ、興味もあったしもはやなし崩しに童貞を捨てた。もともとクラスで一番後ろだった身長がさらに伸びた頃で、山を登りまくっていたせいか筋肉もつき体格は申し分なかったのだろう。それから誰と何回そういった行為を重ねたのかは覚えてない。瑛二に知られたら不誠実だと引かれてしまいそうで言えなかった。あの頃のような軽薄な人付き合いを今後繰り返すつもりはない。
 音を立てて体液を交換しながら、今度こそパンツを下ろしていく。

「こっちもいいか?」

 下着のふちに親指を引っかけると、瑛二は小さく頷いた。
 太腿の中途半端なところまでずり下ろし、その下はこの体勢のままだとどうにもできない。下着に大人しく収まっていた瑛二の性器はさすがにまだ勃起していない。思ったより小さいわけじゃないな、と失礼極まりない感想を抱いた。子どもみたいな(実際大和に比べれば子どもだけど)未熟さを煮詰めたみたいな甘ったるい色。使い込まれていないことは一目瞭然だった。
 次は何をするのかと、瑛二の視線は大和の顔や手や足をいったりきたりして忙しない。初めてのとき、おれはどうだったろう。もう十年前だ。よく思い出せない。

「…………っん」

 変わったことをする必要はない。右手で性器を握り込む。

「…………って、ほんと?」
「ん?」
「女の子としか、したことないってほんと……?」
「そうだけど……なんでだよ」
「慣れてる、かんじするから」
「まだちょっとさわっただけだろ。男なら、自分ので何回もやってるしな」

 指の腹で性器の裏側を刺激するように、ゆっくり擦り上げる。自慰の要領で同じ動きを繰り返す。瑛二は大和の頭を抱え込んで、感じたときにわかりやすい声を漏らした。

「ぁ……んん…………」
「えーじ、ひとりであんまりしねぇのか」
「するけど……だって、ちがうよ……」
「おれも自分以外の男にすんのははじめてだ」

 裏側をくすぐるように指を遊ばせ、先っぽの細やかな段差を親指の腹でひっかいてやる。男同士だと挿入より前の段取りの方がずっと大変なのかもしれない。
 硬直と膨張を促すように扱くと、自分のものではない身体でもだんだんそれに従ってくる。でかくなってきた、と教えてやると恥ずかしいのか髪をかき抱く手の力が強くなった。

「瑛二、顔みせろよ」

 くびれに指を引っかけるように擦り上げながら、じゃれつく動物みたいなポーズをとった瑛二に言う。強制力のないただのお願いなのに、瑛二は林檎より真っ赤になった顔を上げて頷いた。
 大和の膝の上に腰を下ろし座り込む。行き場をなくした手は両肩を掴み「これでいい?」と訊いてくるので命令でもした気分だ。

「なんか、ジェットコースターのってるみてぇなかんじだな」
「そうなんだ。俺、あんまり行ったことないからわかんないや」
「今度行くか? 瑛二の地元、なんかすげぇのあんだろ、おれも行ったことねぇけど」
「うん……行きたい。ふふ、おかしいね……こんなときにする話じゃない気がする」
「いいんだよ。ぜんぶ、おれと瑛二の自由だろ」
「そうだね……ぁ、あっ……」

 しばらく手をゆるめていても萎えなかった性器を、改めて一段とかわいがる。先走りがこぼれて大和の手や下着を濡らすのを見ていられないのか、さっき向かい合ったばかりなのに瑛二はすぐに大和の肩に顔を押し付けてしまった。初々しさを愛おしく思うより先に、ガキだなと思う。同じ男として。覚えていないだけで自分にもこんな頃があったのだろうか。

「えーじ、せめて声きかせてくれよ」

 かたちの良い頭がふるふると横に振れる。せいいっぱい優しく甘く、耳元に訴えた。

「おれしかきいてねぇだろ?」
「でも……変な声に、なっちゃう」
「おれはそれがききてぇんだ。だめか?」
「……だめかって聞くの、ずるいよ」

 ぼそぼそと呟く声が、少しずつ空気に触れてクリアになる。

「だめ、じゃない……」
「よかった」

 さらされた首筋にキスをする。あ、とかすかな声が聴こえた。そろそろいかせてやりたくて、扱き上げる速度を上げた。

「ぁ、あ……っ、んん……っ」
「きつくねーか」
「ん……へーき……」

 訊いたことにちゃんと返事をする、律義さが瑛二らしい。

「あ――っ、ん、だめ、でちゃう……」
「だせよ、えーじ」
「ぁ、ぁあっ……ん!」

 白濁がどろどろと手の中に零れる。肩を上下させて荒い息をする瑛二を片手で抱きしめ、頭を撫でる。
 なるべく優しく瑛二の身体をベッドに横たえ、大和も隣にごろりと寝転がった。次のステップにすぐに進まずベッドの上でただ触れ合う――正直、あまり得意な過程じゃない。
 一枚のシーツを二人で被ると、瑛二は中途半端に引っかかっていた衣服を全て脱いでベッドの下に追いやった。すっかり落ち着いた様子の頬を撫でると、びくりと猫が毛を逆立てるような反応を見せたので意外だった。

「どうかしたか?」
「ごめん、あの、するんだなって思ったら、またどきどきしちゃって」
「まだやらねぇよ」
「そうなの?」
「瑛二がすぐしてぇなら、そうするけど」

 瞼を指でかすめる。瑛二はうーんと唸った。勢いでやっちゃった方がいいのかも? とか考えていそうだ。答えが出るまでの戯れに上体だけ覆い被さってキスをする。唇と唇を合わせる行為には慣れきっているから、瑛二は見るからに喜んでもっともっととねだってすぐに溺れた。セックスもそのうちこんな風になればいい。だから最初だけは、大和が苦しいほど我慢してでも瑛二のいいように進めてやりたいのだ。
 大和の腰に腕を絡めて甘えていた瑛二が、突然「あっ」と怒ったような声を出した。

「大和、まだ脱いでない」

 下着のゴムに両手の指をひっかけ、唇を尖らせる。

「まだ使わねぇし」
「……使いたい?」
「めちゃくちゃ使いてぇよ」
「ごめんね、やっぱりもうちょっと待って」

 聞いといてそれかよ、と思うけど言わない。
 もう一度キスをする。誰もいない寮、大和の部屋で、ベッドで裸になってシーツに包まって。今から初めてセックスする――という最高のオプション付きのキスはたまらない。頭の奥にじんじん痺れた感覚を覚えるのは大和だけじゃなくて、繰り返すうちに瑛二の性器がまたゆるりと勃ち上がっているのがわかった。男の身体ってわかりやすい。
 大和、と呼ぶ声にキスが途切れる。ほとんど唇を触れ合わせたまま見つめ合った。

「キスしてるとね、大和のこと、大好きだなって思うんだ」
「……おう、サンキュ」
「そろそろ大丈夫だよ。待たせちゃったよね、ごめんね」
「あやまんなよ」

 おれだってキスしたかった。おれだって瑛二が好きだ。
 なんとなく伝えるタイミングを逃してしまった言葉を、まぁもう伝わっているだろうと諦める。
 ベッドに瑛二を転がしたまま引き出しを探り、目当てのものを探し当てる。新品のローションに、コンドーム。ラベルを剥いで箱を開封する手際の良さに、瑛二が引いたりしないといいけど。見下ろすと、おろおろした顔でその様子を眺めていて微笑ましい。

「びびんなよ、瑛二」
「いや……びびるよ」
「マジでびびってんのかよ」
「その、初めましてのものばっかりだから」
「これからしょっちゅう世話になんだから、あいさつしとけ?」
「え、えーと……こんにちは?」
「マジですんのかよ!」
「大和がしろって……!」

 今までとは別の意味で顔を真っ赤にして瑛二が身体を起こす。わるいわるいと謝ってもむくれた表情はすぐに元に戻らなかった。だって本当に挨拶するなんて思わなかったのだ。からかっただけなのに、天然というか真面目というか。本当に「ちゃんとしている」。そんなところが好きなんだけど。

「びびったり怒ったりいそがしいな、おまえ」

 前髪をそっとかき上げる。シーツすら纏わない無抵抗な姿になってまでふいっと顔をそらせてしまうのがかわいくて仕方ない――と言えばまた怒らせてしまいそうで、真顔で近付いた。

「おれはおまえのそういうとこ、いいと思ってんだからな」
「ほんとに?」
「うそなんてつかねぇよ。瑛二みてると、なんつーか、なごむんだよな」

 ふと、例の動物コーナー明けの表情を思い出してしまう。いかにも人畜無害な笑顔。人様にお見せできないようなことは何もありませんと言わんばかりのあどけない姿を、これから自分がどうにかできるのだと思うとたまらなかった。

「……でも瑛二のえろいとこ、今から見せてくれんだろ」
「頑張るよ」
「がんばんなよ。そのままがいい」

 そっと鼻先にくちづける。やっと目を合わせてくれた。と思ったのに、両脚を抱え上げるとまたシーツに頬をつけてそっぽを向いてしまう。

「ごめん大和、やっぱり恥ずかしくて……。ちゃんと慣れるから、今日は許して……?」
「いいけどよ……おれとやんの、いやとかじゃねぇよな?」
「心配しないで。俺だって大和としたいって思ってたんだから」

 抱え込んだ両脚の間から覗く顔が、ぼんやりと赤色に染まっていく。ベッドサイドの灯りひとつでも、身体の輪郭ははっきり捉えられた。繋がる場所も。すでに興奮して勃ち上がる性器も。

「えーじ……おれの、入るようにしていくな」
「うん……」

 こぷ、と音を立ててローションを手のひらに垂らす。あたためるために両手で弄びながら太腿の裏側にキスをした。

「んんっ……」

 中指の先端を閉ざされたところへ触れさせる。今からここに挿る。ここでセックスするのが信じられないくらい埋もれたその場所は、当然するりと指を受け付けてくれるわけではない。ローションでぬめった指の腹を擦り入れる。あ、と短く瑛二が啼いた。そりゃそうだろう。こんなとこ弄られて、おれだってきっと無理だ、と思った。

「んんっ……」
「わ、おもったより、やらかいな……」

 第一関節くらいまでを埋めると、沈んだ先が意外にも柔らかくて驚いた。きゅうきゅうと吸い付いてくる感触がかなりいい。ここに性器を突っ込んだら一瞬で達してしまうんじゃないかと思えるほどに。
 ローションを足し、指の根元までを慎重に埋めていく。ふと顔を上げると、目を瞑って口をぱくぱくさせている瑛二が魚みたいだった。それはそれで、もちろんかわいい。

「あ――っ、あっ……」
「いたいか、えーじ」
「ちが、痛くないっ、けど……変なの、奥の方、きゅって……あぁっ」
「一回、とまるからな――こうしてると、どうだ?」
「ん、やまとが、はいってるのわかるけど、痛くないよ……うごかさなかったら、平気……」
「そうか。――でもうごきてぇんだけど」

 そうだよね、とぎこちなく瑛二が笑う。
 異物感に慣らしたくて動きを止めた。長くて関節の張り出した指の全てを飲み込ませたわけじゃない。まだもう少し進めるところがあって、きっとそこが瑛二の感じる場所なのだろう。

「大丈夫だよ。優しくしてくれてありがとう、大和」

 見つめられて視線が絡まる。ローションを塗りこめた指をもう一本足すと、瑛二の両手はシーツを抱きしめるように引き寄せた。眉間にしわを寄せて堪える姿に劣情を掻き立てられる。

「……あ、今」
「んんっ……」
「ちょっとしまったよな……? ここか?」
「ぁあっ、あ――」
「すげえ……」

 身体をくねらせて逃げるような動きをするから、そこが感じる場所だとすぐにわかった。そしてそこを指の腹で擦ると、きゅっと指を食まれるように締め付けられる。

「大和、そこやだっ……」
「ん……? それってきもちよすぎて無理ってことか、まじでやめろっつってんのかどっちだ?」
「んっ、ぁあ……っ、どっちも……っ」
「どっちもはねぇだろ」

 つまり前者だ、と勝手に解釈する。
 でも指で瑛二とセックスすることが目的じゃない。ぱたぱたと落ち着かない脚をぐっと押さえ込んで抜き挿しを繰り返す。慣らし始めて萎えたはずの性器が、好きなところに触れたからかちょっとずつ上向きかけてきた。

「な、えーじ」

 ローションを足しながら顔を覗く。

「このままオナニーできるか?」
「へっ……?」
「ナカいじられながらイって、からだにきもちいいことだって覚えさすんだと」
「俺が、自分でするの?」
「しゃーねぇだろ。手がたりねぇ」

 飲み込ませた二本の指で内部を拡げる。そこにローションを送り込むように一番短い三本目を突き入れた。

「あぁっ、ん、ぁあっ……!」
「ほら、えーじ、してみろって」
「んぅ、あっ」

 言われるがまま、瑛二の両手はシーツを離れて性器を扱き始める。

「ひとりでやってるときみてぇに、してみろって……」
「やっ……ぁ、あ、ん……見ないで……っ」
「ん、なるべく見ねぇようにするから」

 な、と念を押す。けれどはなからそんなつもりは微塵もなくて、自慰に耽る瑛二の姿をじっと見下ろした。幸いシーツに頬を擦り付け、唇をむにゃむにゃ動かし目を瞑っている瑛二には気付かれない。

「あっ、ぁあっ……ん……指、うごかしちゃいや……っ、いやぁっ」
「むり、だっての……」
「ぁぁあっ」

 三本飲み込ませた指で中を拡げる。飲み込んで離さないように指を啜る内側の粘膜に、どう考えてももう指を使って瑛二とセックスしているとしか思えなかった。ふと瑛二が目を開けてこちらを見上げる。視線がばっちり合って、「いじわる」と小さく叫ぶ瑛二にぐっときた。

「すげーえろ……。初めてってほんとかよ」
「ほんとに、きまってる……っ」
「うたがってねぇよ。えーじ、イけそうか?」
「ぁ、あ……っ、キス、して」
「ん」

 三本の指で内壁を柔らかく抉りながら身体を倒す。嬌声の合間に口で呼吸をする瑛二に怯んで上唇を舐めて眺めていると、舌を突き出して求められた。舌で舌を包むようにちゅう、と吸い付く。熱された板の上みたいに、触れれば焼ける音がする。何も考えず、ただ抱きたいと願うのを見透かされているようで、夢中で唇を貪った。

「あッ……は、ぁ、ぁぁあっ……!」

 瑛二の声と太腿の辺りに感じた温度で、イったのだとわかる。舐めるように唇に、ゆるやかな曲線を描く顎のラインにキスをして、そっと頭を撫でた。

「大和……いっちゃった…………」
「ん、きもちよかったか?」

 こくりと頷く。そして今も内側を犯し続ける指の感覚を思い出したように眉根を寄せて「こわい」と呟いた。

「こんなにしたら、もうひとりでいけなくなっちゃうよ……」
「抜きたくなったらおれんとこ来たらいいだろ?」
「……そっか」

 そうだね、と微笑んでみせる。細い両腕が首に絡み付いて、求められるがままにくちづけた。後ろを慣らしていた指をゆっくり引き抜き、華奢な身体を抱きすくめる。おれとはちがう、と強く思った。小さくて、まだ少し幼く未熟だから、大切に大切に扱いたい。
 覆い被さってキスをしながら腰を上げ、身に着けていた下着を脱ぐ。くちづけに夢中な恋人はきっと気付いていない。中心で硬度を増した昂ぶりを荒々しく扱き始める。早く瑛二の中に入りたい。
 唇をそっと離すと、目も合わないうちにもう一回と求められ身体を引き寄せられる。単にキスが好きなのか、これからすることが怖くてそうしているのかはわからない。でもどちらにしても可愛くて仕方がなかった。

「えーじ」
「うん……」
「いれて、いいか?」
「……うん、いいよ」

 枕を瑛二の頭と腰の下に仕込ませ、コンドームのパッケージを破る。本心か緊張からか「実験みたい……」と呟いた瑛二に、それでいいのかよと突っ込みたいのを我慢した。薄暗い部屋は、確かにそんな雰囲気を醸し出しているけれど。両脚の間に腰を下ろし、コンドームを装着していると実験台の瑛二は「わ……」と最小ボリュームで悲鳴をあげる。

「そんなおっきいの……入る……?」
「実験、してみねぇとわかんねぇな」
「ほんとにこわくなってきた、かも」
「むりやりつっこんだりしねぇって」

 膝にキスして、両脚を広げる。そのまま膝の裏を抱えると、瑛二の両手は頼りなくシーツに縋った。

「なるべく力ぬいとけよ。まだいれねぇから」

 両膝に体重をかけてゆるやかに前に倒れると、ベッドが軋んだ。念入りにローションを足して後孔を二本の指で拡げる。ひくひくと啼いているのがわかった。きっと、もっと深いところへの交合を求めて。

「あ、瑛二。今さらだけどよ」
「なに……?」
「うしろからじゃなくていいか?」
「今聞くの?」
「今思いだしたんだよ。うしろの方が、瑛二、楽かもしんねぇ」
「いいよ、大和の顔見てたいし……」
「ん、わかった」

 ふふ、と瑛二が笑う。顔を見ていたいのは大和も同じだった。
 後ろの浅いところを指でくすぐると、鼻にかかった甘い声で喘ぐ。拒絶じゃなくて、どう考えてもそれは愉悦を表す声だった。いろんなことにすぐ馴染めるのはまだまだ子どもだからだろうか。

「いれるな、えーじ」
「ん、んんっ……うんっ……」

 くちに性器を押し当て、腰を進めていく。

「えーじ、今あたってんの、わかるか……?」
「ん……っ、あ、うんっ」
「いれてくからな」

 ものを迎え入れたことのない後孔は、さすがにぬるりと大和の性器を飲み込んでくれはしない。指で懸命にそこを開き、先端を引っかけると瑛二の身体がびくびく痙攣するのがわかった。

「あ、ぁっ……!」
「わかるか、えーじ。おれのちんこ、入ってんの」
「ぁあ、ぁっ、あっ、ぜんぶ、はいった……?」
「まだ先っぽしかいれてねぇよ」
「うそ、ぁあ、ぁっ」

 腰を突き入れ、くびれの辺りまでを埋め込む。やはり女のそれとは全然違う。意識せずともぎゅうぎゅう収縮して締め付けられる感覚に、出そうになるのを我慢した。

「ぁ、あっ……ぜんぶ……?」
「まだ……」
「ゃああ、ん、そんな、おっきいの……」

 がちがちに緊張した細い身体の真ん中で、瑛二の性器が萎えていくのがわかる。けれど今はどうにかしてやる余裕がない。

「あつくてやべぇな、えーじのなか……おれもういきそうだ」

 慎重に奥へ進めていきながらふちをなぞると抱えた両脚が震えて伝えてくる。これが気持ちいいのだと。初めてで、こんな生々しい経験をさせていいのだろうか。繋がりかけたところで泡立つローションの音に、それだけで耳から絶頂に連れて行かれるような感覚がしてもう我慢の限界が近かった。
 波のように押して引いて、最奥にとんと突き当たる。

「ぁあっ……あっ!」

 指と違って細やかな動きができない性器が瑛二の何を刺激したのかわからない。けれど瑛二は手にしたシーツを思い切り引っ張りながら口元を覆って身悶えた。

「やっぱ奥、きもちいいか?」
「あっ、ゃあ、だめえ……っ!」
「すげぇなえーじ、もう感じるようになってんのか……才能あんな」

 少し動いただけで中の粘膜が絡み付いてくる。まるで中が自分の性器に合わせてかたちを変えてくれているみたいでたまらなかった。でもまずは、瑛二にこの快楽を教え込みたい。

「もっときもちよくしてやるからな」

 膝を抱えた片手で瑛二の性器を握り込む。ゆるやかな律動と同じテンポで擦り上げ、奥を抉っていく。

「あ、ぁああ、だめ、だめ、だってば……っ」
「だめじゃねーよ、きもちいいんだろ?」
「いいけど、だめ、あぁ、っあ、やっ、変になっちゃう、からぁ」
「ちんここんなにしてなに言ってんだよ」

 軽く扱いただけで赤く熟れて硬くなったものの先端を親指で引っかく。ここにも血が漲ってる、と触れたものの熱さでわかる。そして、瑛二に嵌めこんだ自分の性器の熱でも、同じように。

「ぁ、ぁあんっ、やっ……!」

 射精の瞬間、熱が流れ込んだみたいに顔を赤くして、瑛二が身体を跳ねさせる。繋がったところをぎゅうっと締め付けられ、危うく大和もイくところだった。
 さすがにすぐにもう一度動くような鬼畜な真似はできない。足を開かせたまま視線をまっすぐ下ろして繋がった部分を改めて眺めた。射精の余韻を味わう性器の下、大和の昂ぶりを全て飲み込めていない開かれた口がグロテスクに映る。指でなぞると瑛二は生まれたての仔猫みたいに頼りなく啼いた。

「……わり」
「ううん……もうちょっと、まって……」
「おう。いたいとことかねぇか」
「へんな感じは、ずっとしてるけど平気。でも、さっきはもう、記憶とんじゃうかもってくらい、なにも考えられなかった」
「そーか。すげーえろかったぜ」
「……覚えてないよ、もう」

 やまともいきたいよね、と覚えたての言葉のように瑛二が呟く。

「そりゃ、もちろん」
「じゃあ大和がいけるように、して」
「おう」

 わかった、と膝裏を抱え直す。
 この限りない密接を確かめるみたいに少しずつ律動する。加減が一番難しくて、でも間違えたくなかった。ゆるく腰を引いて、そして突き入れると瑛二の手が自分の腹をそっとさする。ちょうど、繋がっているあたりだった。

「赤ちゃんって、こうやってできるんだ……」
「…………ばか」
「あ……っ、なんか、なかでおっきくなっ……」
「えーじのせいだろ」

 ただでさえ吐き出したくて、初めて感じる瑛二の内側がよすぎて怒張しまくっているというのに。あんな冗談を信じてしまうくらいの子どもを相手におれはどうして。
 見下ろすと、紫の瞳は艶めかしく濡れて、世間一般に認知されている鳳瑛二の印象をぼやかすほどに色っぽい。シャンプーの香りが今になって立ち込めてくる。それはただ一心に、大和を誘って。

「責任とれよ、えーじ」
「ぁ、ぁっ、ん……俺が……っ?」
「そうだ」
「ぁああっ、奥……っぁ、あぁ……っ」

 互いに意識せずとも大和を求めて無自覚に吸い付いてくる後ろのくちが愛おしい。脱力したタイミングでぎゅっと絞られ、出したい気持ちに任せて射精した。薄い膜を通してでもわかる熱に瑛二が喘ぐ。結合が解けるのも構わず身を乗り出して抱きしめた。瑛二としたいことがありすぎて追い付かない。
 それでも今この瞬間はただ、抱きしめてキスして、好きだよの言葉を耳がなくても聴こえるくらい、近くで感じていたかった。

 

 

 

『それでは今日のペットのコーナーでーす』

 この動画の再生数、おれがひとりでまわしてんじゃないだろうな――ふと見る、とそんなことはありえない数字が並んでいて安堵した。
 今度からこの動画を見るだけで抜けそうだ。もちろん、間の抜けた女子アナの声や犬のあざとい様子にではなく、今夜の情事を目蓋の裏に思い描いて。
 もぞもぞと背後で瑛二が起き上がる気配がした。そして大和のスマホを覗き込んで一言。

「また見てる」

 呆れても怒ってもいない声。事後処理のときに下着は履かせておいたのに、それだけでは恥ずかしいのかシーツを連れて、ベッドを背にした大和の隣に腰を下ろす。

「おもしろい?」
「ん、なごむ」
「本物が隣にいるのに?」
「本物にはすぐ手だしたくなるからな」
「出していいのに」

 とスマホを持つ腕を引っ張るから、キスするついでにフローリングに押し倒す。

「腰いてぇってわんわん泣いてたのはだれだよ」
「泣いてないよ」
「泣きそうな顔してたじゃねぇか」
「大和がやめてくれないから!」
「なんだもっかいやるか?」
「だめ!」

 顔の正面で大きなばつを作る。ほら、やっぱりだめじゃねぇか。
 でもね、と二本の腕の交差の下から覗く唇が、大和を誘った。

「キスは、したいな」
「…………ガキだな、やっぱ」

 軽く触れて唇を塞ぐ。放り出した小さな端末の中では、「みんなが知ってる鳳瑛二」が困ったように肩をすくめて笑っていた。