※綺羅とナギもナチュラルに付き合ってます。
※「大和の自宅」という場所が出てきますが、寮とは別に大和が借りてる部屋がある設定です。いつも出てくる場所なので説明省きました、すみません。
※台詞にハートマークが舞ってます。苦手な方はお気を付けください。
虫も鳴かない都会の夜はひどく静かだ。彼らの暮らす寮は大きな道路に面しているけれど、日付が変わる頃には交通量がぐっと減って車の音もほとんど聴こえない。
七人が横に広がっても余りそうな広い廊下を歩いていた大和が、突然ぴたりと足を止めた。隣に並んだ瑛二は、何事かと彼を見上げる。
しんと静まり返った廊下に、音が――高い声が、瑛二にもかすかに聴こえた。可愛らしく艶めかしい、明らかに情事を思わせる声。メンバーのうち三人は泊りがけの仕事で出かけてしまっていて、それが誰のものなのかは考えずとも分かる。まだ十三歳と幼い彼の甘えた声色は、男と分かっていてもクるものがあって思わず耳を傾けてしまう。決まりが悪そうに「なにサカってんだあいつは」と早口で言った大和に手を引かれ、二人は足早に廊下を通り過ぎた。
綺羅とナギが恋仲ということは、メンバーの中で大和と瑛二だけが知っている。綺羅と大和が特別仲が良いからということもあるが、同じように大和と瑛二がそういう関係だからというのが多分大きな理由だった。
声の聞こえなくなった階段の踊り場で、当たり前みたいに二人の手はほどける。
おやすみ、と交わし合い、大和は自室のある二階に消えていく。早起きして一緒にランニングをして、瑛二の日課の花の水やりをするから、二人の朝はいつも早い。部屋の扉を閉めて瑛二は大きなため息をついた。
(……いいなぁ)
のろのろとベッドに体を投げ、枕に突っ伏しながら生々しい声を思い出す。普段は綺羅の発言を促したり随分尻に敷いているようだが、夜はやはり違うらしい。今頃ナギはどんな風に綺羅に抱かれているのだろう。彼らの下世話な妄想をするつもりはない。考えるのはいつも大和のことばかりだ。
瑛二が想いを告げて、どういうわけか大和も同じ気持ちを抱いてくれて、もう四ヶ月と少しになる。プラトニックな関係かというとそれだけではないが、もともとノンケである大和はあまりセックスには乗り気でないというか、瑛二が満足できればそれですぐに終わらせてしまう。してほしいことを聞いて全部叶えてくれるけれど、大和がどうしたいか瑛二は聞いたことがない。好きだと言ってくれた言葉を疑うつもりはなくても、本当に愛されている自信が瑛二には足りなかった。
(俺……わがままだなぁ……)
望めば何でもしてくれて、満たされているはずなのに瑛二は飢えている。
寝返りをうって天井を見上げる。もう寝てしまおうとシーツを手繰り寄せるけれど、目を閉じても耳が敏感になってしまったのか小さな音をいちいち拾って寝付けない。寝間着の上から胸元を撫でて、大和の手のひらの感触を思い出すと体が震えた。今すぐどうにかしてほしい。大和に抱いてもらいたい。
(……こんなの、だめだ)
布をめくって直接肌に触れる寸前に手を離した。欲求不満だなんて大和に申し訳ないし、自分で触って凌ごうなんて体がいやらしくなってしまった証拠だ。いけないことだ。
喉の渇きに気付いて体を起こす。部屋から出てキッチンに向かうにはまた綺羅の部屋の近くを通るけれど、瑛二はむしろあの声が聴きたかった。
ひたひたと、音を消して廊下を進むと、小さく聴こえていた声がはっきりしてくる。無口だからか、それとも低いからか綺羅の声はしなくて、高くて甘ったるい声が脳を刺激する。
「ぁ、あ♡ ぁん、やだぁ♡ あっ、あ……っ♡♡」
同じ男でも、ナギの声を聴いているとこれはたまらないだろうと瑛二も思う。どんな風にナギは抱いてもらっているのか、とろとろと甘えた声を聴いているとやっぱり羨ましくて仕方がない。
一度は部屋の前をそそくさと通り過ぎて水を飲み、帰りはわざと歩幅を狭めて歩いた。違う、いやらしい気持ちなんてないんだと自分に言い聞かせて、けれど扉の目の前で、綺羅の声が聴こえた瞬間足が止まった。
「……っ、ナギ……!」
「ひああ♡♡ きらぁっ♡」
大和と瑛二に聴かれているかもしれないのに。そんなことどうだっていいと思えるくらい互いに夢中なんだろうか。
ナギ、ナギ、と何度も愛おしい相手の名前を繰り返すはっきりした声に、体が動かなくなった。
「きら♡♡ きもちい、きもちいよぉ……」
綺羅の手はナギの幼い小さな体を這って、撫でて、彼の望むようにしているんだろうか。キスをして、とびきり甘そうな舌に誘惑されて。
仲間だと思っている彼らのこんな声、本当ならば聴きたくないはずなのに。ここから立ち去れない。
「ぁん♡ まだだめ……♡♡ ぁ、あ、もう♡」
羨ましい。俺だって、大和に――。
足が震えて、控えめな照明が眩しく目がくらんだ。
「――瑛二?」
考えすぎて、幻聴かと思った。
そこが綺羅の部屋だと分かっているはずの大和は何も気にしていないような顔で近付いてきて、瑛二の顔を覗き込むと「どうした?」と聞いた。いつから見られていたかわからない。目の前の部屋の中からは相変わらずナギの嬌声が聴こえてくるが、大和はまるでそれが聴こえてないみたいに瑛二の紫の瞳を見つめるだけだ。
「あの…………お、おやすみなさいっ」
どうしたらいいのか、何がしたいのか瑛二にもわからなかった。
小走りに廊下を駆け抜けて部屋の扉を閉める。大和が追いかけてくるかもしれないと思ったけれどそんなことはなくて、静かな部屋に迎えられると急に空しくなってしまった。
大和のことが好きなのに、今すぐに触れてほしかったのに、いざ見つめられると不安になった。
うつ伏せにベッドに寝転がる。シーツもかけずに目を閉じると眠りに落ちるのは一瞬だった。
翌朝、瑛二は大和とのランニングをサボった。
花の水やりだけ一人でいつも通りに済ませてキッチンに立ち、卵を溶いている最中に綺羅とナギがやってくる。二人の顔を見ていると昨晩の声がよみがえってきて恥ずかしいような照れ臭いような心地がしたけれど、手伝うと隣に並んだ綺羅と話しているうちに深く考えることはなくなった。
手ずからケチャップをかけてやったオムレツを綺羅がナギに差し出す。栄養バランスや食べ方にも口うるさい綺羅だが、可愛い恋人には甘くなってしまうものなのだろう。
サラダを盛り付けているとシャワーを浴び終えた大和が姿を見せ、彼も何事もなかったようにナギと話し始めた。
まさか声を聴かれていたなんて、二人は思っていないのかもしれない。聴かれてもいいと思っていたのかもしれない。同じように瑛二は大和と少しぎくしゃくしてしまったことは気付かれていないと思っていたから、ナギに声をかけられて驚いた。
「ねえ、大和と何かあったの?」
大和と綺羅は仕事があるからと支度に動き回り、瑛二はナギと後片付けをしていた。泡をつけたボウルをシンクにごとりと落としてしまい、台拭きを片手にナギが「図星かぁ」と不安そうな顔をする。
「何か……っていうか……」
「っていうか?」
「昨日、ナギの声……聴こえてきたんだけど……」
「え!? あ、あれは綺羅が……!」
「聞いちゃってごめんね」
「……ナギの方こそ、ごめん」
よっぽど恥ずかしかったのか、ナギはテーブルを拭きながら俯いてしまった。立場がほとんど同じだから瑛二にも気持ちは分かる。数秒の沈黙の後、台拭きを洗いにきたナギは思い出したように言った。
「そういう話じゃなくて! ナギの話と瑛二が落ち込んでる理由にどんな関係があるの?」
「俺、落ち込んでるように見える……?」
「うん。違った?」
「うーん……そう、かもしれない」
ナギのふきんを洗ってやりながら、瑛二は話をするべきか少し迷った。というよりも、このもやもやを言葉にできるかわからない。
「大和に何かされたの?」
「違うよ」
「……大和がしてくれなかった?」
「ちょっと、近い……かな」
キュ、と水をとめる。座って話そうとナギに誘われソファに腰を下ろした。グラスに氷とアイスコーヒーを注いで、ナギがそれにストローをさしながら問う。
「瑛二と大和ってエッチしないの?」
瑛二の悩みと、昨日の情事を聞かれていたことと。二つをきちんと結び付けて考えたのだろう。まだ幼い声色に事の琴線に触れられ、瑛二は間を持たせるようにコーヒーを一口飲んでから答える。
「するよ。でも…………」
「うん」
「俺……わがままになっちゃってる気がして……いつも大和は、俺にどうしてほしいか聞いてくれて、優しくて……でも、俺、満たされてるはずなのに、大和は本当はどうしたいんだろうって、もっと大和の好きなようにしてほしいんだって思っちゃって……だめなんだ……」
「……そっか」
ごめん、と思わず瑛二が謝ると、何がとも問わずナギも静かにううんと言った。カランと氷の音が鳴って、綺羅が「行ってくる」と挨拶をして大和と出て行くまで瑛二もナギも何も言わなかった。
無糖のコーヒーを啜った後、ようやく口を開いたのはナギだ。
「大和には何も言ってないの? 出かける前に挨拶も無しなんて、いつもの大和らしくないと思うけど?」
「昨日、大和にも様子がおかしいって気付かれて……どうしたのかって聞かれたけど、何も答えられなかったんだ」
「あー……」
なるほど、とナギは頷いた。
「とにかくちゃんと大和に言わなきゃ、瑛二の気持ち」
「わがまま言って、困らせちゃったらって思って……」
「瑛二のそれはわがままじゃないじゃん。ナギなんかもーっと綺羅にわがまま言ってるんだから。瑛二はもっと甘えていいんじゃない?」
ね、と念を押すように見つめられると思わず小さく頷かずにいられなかった。こういうのは時間置いたら言いづらくなるから、とナギに促され、今夜大和の自宅に行ってもいいかとメールを打つ。
コーヒーを飲み終えた頃に届いた短い返信に、ナギがよかったねと笑ってくれた。
昼過ぎにナギと現場に出かけて、途中で別れて瑛二が大和のマンションに向かったのは結局日付が変わる少し前だった。
もらった合鍵を使って部屋を開けると、大和はもう帰っているようだ。靴を揃えリビングに入る。「おつかれさん」と瑛二を迎えた大和は見慣れないソファに座っていた。
「いいだろ、これ。おまえも来いよ」
「わ、ほんとだ。いいね」
上着を脱ぐのも後回しにして大和の隣に腰掛ける。幅は大和と瑛二でちょうどくらいだが、奥行きがかなり広い。ふかふかの座り心地を確かめるように上下に跳ねると「な、いいだろ」と得意げに大和がもう一度言った。
「おまえも来るようになったし、いつまでも床にすわらせんのもな」
「それは良かったのに」
「つくえも、高さ変えられるやつにしようとおもってんだ」
スマホしか置かれていないローテーブルを指して大和が語る。確かに食事する時にこれだと大変そうだ、と瑛二も思った。
広くてがらんとした大和の部屋が、時々二人で過ごすようになって変わっていく。瑛二にとってそれは嬉しいことで、大和がそうすると言うならもちろん反対するつもりもない。
「……で、瑛二」
ソファに浅く腰掛けていた瑛二の腕を大和が引いた。つい反射的に離れてしまいそうになったけれど、もっと甘えればいいと言ったナギの言葉を思い出し、「うん」と返事をして大和の肩口に顔を埋める。どくどくうるさい心音が聴こえてしまわないか心配だった。
大きな手のひらが頭を撫でる。この大きさ、感触、温度。そのすべてが自分と違うものだと伝えてくる。それなのにそばにいて、腕の中にいて、安心できる。劣情さえ抱かなければ――何も心配せず寄りかかれるのに。
でも瑛二は大和が好きだ。
触れたいし、同じだけ、いや、それ以上に触れてほしい。
「瑛二」
耳元で名前を呼ばれ、体がびくっと揺れる。それが返事になった。
「おれなりにおまえの考えてること、考えてるつもりだ。でも綺羅やナギみてえにおまえのこと察してやれねえ」
上着に袖を通したままの右手をぎゅっと握られ、甲に大和の唇が触れる。彼らしくない行動に胸が掴まれる思いがして頬が赤らんだ。ちゅ、と軽く触れた後も唇で愛撫され、そのまま瞳を見つめられると目が反らせない。
「おまえの考えてること、ちゃんと教えてくれよ」
「…………うん」
両手に右手を包まれたまま首を縦に振る。わがままでも、そうでなくても大和に気持ちを全部話そうと決めた。「俺ね」と耳打ちするように伝えると律儀に大和が「おう」と応える。
「俺……大和とっ……セックス、する時に……大和が俺に色々聞いてくれて、優しくしてくれるのが好きで……だけど、そればっかりだと大和がどうしたいのか分からなくて、もっと、ほんとはもっと……俺ばっかりじゃなくて……」
目をそらさないように。必死に言葉を紡いでいると、途中大和が目を丸くした。そんなの考えたこともなかったとでも言いたそうに。握られた右手の指で瑛二も大和の手を握りしめて、半ば勢いで言葉を続ける。
「俺、大和の好きにされたい。なんだって大和のしたいことなら俺には嬉しいよ。大和……女の子が好きで、俺にそんなこと言われたって……困っちゃうかもしれないけど……」
「そんなことねえよ」
言葉の途中で即座に否定され、そのままソファに押し倒される。降ってくるくちづけに応えるのが精一杯で、唇が離れても呼吸している間にまた塞がれて話をする場合ではなくなった。
「瑛二、すきだ、好きだ……ッ、すきだ……」
ちゅくちゅくとキスの艶めかしい音と、心地よい大和の声に耳の奥を支配されてしまったみたいだ。脳が、手足が溶けてしまいそうなほど感じている。
「ばか、おれはおまえが好きだっつってんだろうが……」
「だって……」
「だってもなにもねえんだよ」
ぬるりと舌が入ってきて、応えて絡ませるともう離れられない。愛おしい気持ちが全身に溢れてきて体の全部で大和と触れあいたくて仕方がなかった。
額と頭を撫でられ、唇の端を舌に突かれる。濡れた唇を拭いたりしてしまいたくはない。舌を出して誘うと何度も相手をしてくれて、一生分のキスをしているみたいな錯覚に陥ってしまう。
「やまと、」
「……ん」
「大好き。だいすきだから、何でもいい。もうこんなこと考えなくていいように、俺のことめちゃくちゃにして。大和のことしか考えられないようにして。いっぱいにして。全部、いっぱいに愛して」
うわ言みたいに、考えたことが唇からこぼれていく。瑛二のことしか見つめていないのに眩しそうに大和は目を細め、愛おしそうに額にそっとキスをした。
「……もう、言葉になんてできねえな」
「ふふ、俺も。大好き」
「好きだ……これしかねえよ」
額に、鼻先に、両頬に、まぶたに、睫毛に、顎に、唇に、やわらかく落とされるキスにも感じ入ってしまい目を閉じる。仰向けに寝転がされたまま、少し背を浮かせてダッフルコートを脱がせてくれる。軽くなった腕を大和の背中にまわして抱きしめるとコートを着ている時よりずっとあたたかい。
気持ちを言葉にして伝えればいい。簡単そうで、瑛二には難しいことだった。でももう怖くない。何をしても大和が受け止めてくれると分かったから。
瑛二のカーディガンのボタンを外すのを見上げていると、また唇をふさがれる。全部取れるまでの長いキスで箍がすっかり外れてしまった。その下のシャツのボタンは瑛二が自分で外して、肌を見せつけるみたいに肌蹴る。唇と唇の間にできた銀の糸がぷつりと切れ、大和の薄い唇は瑛二の胸の先端へ向かう。ここにも大和に触れてほしかった。でもキスをしてもらえなくなるのは寂しい。
舌先でちろちろ舐められ、ぷくりと存在感を増す。両手で大和の頭を撫でるとそこに歯を立てられた。
「ぁ、あ……っ♡ やまと、そっちばっかり……逆も、きもちよくして……?」
二人分の唾液に濡れた唇でねだっても、大和は聞いてくれない。でも両方に刺激がほしい。気持ち良くなりたい。自慰みたいに左手で自分の乳首をきゅっとつまんでみる。普段は自分でやったってすぐに好くならない部分でも、片方を大和のいいようにされている今はまた別だ。
「は、あ、ぁ……♡」
「……えーじ」
逞しい腕が伸びてきて、瑛二の手に重なる。細い瑛二の指が捏ねていた敏感なそこを一緒にぎゅうっと摘ままれ、電流が走ったみたいに感じてしまう。
「はぅ……っ♡♡♡」
二人にぴったりのサイズのソファの上で、足の指をぴんと伸ばして下半身に熱が集まるのを瑛二は感じた。こんなところで――と思うけれど、このまま愛してほしい。冷静になってほしくない。瑛二はとっくに熱に浮かされてしまっているから。
「やっ、やまとぉ……、そこにも、くちびるにも、キスしてほしい……おねがい……」
「ん? どうしろってんだ」
呆れたような口調で、でも語尾がたっぷりと甘い。大和は胸元から唇を離すと、代わりにふたつの先端を両手で弄り始めた。唇には唇で構ってくれて、子どもみたいに唇を突き出して求めると素直に応えてくれる。
「ぁ、はぅ……あ♡ や、まと……」
小雨みたいにぱらぱら降ってくるくちづけの最中に声を漏らすとぴたりとくっついて離れなくなる。ちょっと乱暴でも、大和のキスはすごく上手くて――と瑛二が感じているだけかもしれないけれど、とにかく愛おしくて全身が痺れる。とどめみたいに両方の乳首をきゅうっとつねられ、思わず背が仰け反った。
「ひ、ぁぅっ♡♡♡♡」
「……いまので、イったのか?」
「ぁ、だって……きもちよくて……ちょっとだけ、だよ」
「あいかわらず、エロい体だな、おまえ」
「……う、でも大和、すきでしょ……?」
「そりゃすきにきまってんだろ」
ちゅ、と唇が重なる。溶けるほど甘やかされてもう体が自分で動かせない。上体を持ち上げられ、ソファに座った大和の上に正面から乗っかるような体勢になった。
角度を変えながらキスをしている間に、器用にスラックスを脱がされ手伝って足を抜く。下着の上から性器に触れられ瑛二は大和の肩を弱々しく押した。
「ソファ……汚れちゃう」
「おまえがおとなしくしてりゃ汚れねえよ」
「でも……ぁ、ぁん、ゃっ……♡」
布の上からでも恋人に触れられると感じてしまうものだ。二本の指で形をはっきりさせるように上下に擦られ、拒むのに使っていたはずの両手で大和のニットにしがみつく。
「やっ♡ あぁ、あ、ひぁ……♡♡」
「瑛二……よごれるから、したくねえか……?」
「いやっ、やめちゃ、だめぇ……♡」
「でもおれが手、はなしたら……なぁんもよごれねえよな?」
「やっ、ぃやぁ」
服の上からでも分かる、しっかりと鍛え上げられた胸板に額を擦り付けていやいやと頭を振る。これくらいしか抵抗する術はなかった。
「いじわる……」
頬を擦りつけたままじっと顔を見上げる。瑛二が善がるのを楽しそうに見ていた大和は、ふいっと目をそらしてしまった。
「おまえ、だからそういうエロい顔で見んな……」
「しっ、しらない……っ」
「やめねえからな」
「ぁ、あっ♡ んっ……♡」
恥ずかしがるほど瑛二も小さいわけではないけれど、大和の大きな手に扱かれるとサイズを錯覚してしまいそうで、子どもにしているみたいな手つきに羞恥を抱いてしまう。我慢できなくて先走りを零し、下着を変色させてしまうのを大和が「やらしいな」とわざと思い知らせてくる。それが恥ずかしくて目を開けていられない。
「ぁん、あ、ひぁ、んっ♡」
「おまえがすきなの、下だけじゃねえよな」
すっと脇の下に両手を入れられ、体が持ち上がる。舌の先に硬くなった乳首を舐められて、それでも行き場をなくした両手は大和の肩にしがみつくしかない。
「ふ、ぅあ……っ♡」
まるで快楽の中心に溺れているような。どこを攻められているのか分からず、ただ息を吸って吐いて、甘ったるい声を零してばかりだ。
「ぁ、あ、ぁあ♡♡ すき……ぁ、あぁ♡」
ちゅうちゅうと吸われる生々しい音に耳の奥がふやける。触ってもらえなくなった性器は下着の中で先走りの蜜を零し続けていて、はやくはやくと大和を求めた。こんなわがままな体に、大和が一人しかいないなんて信じられない。
「ん……やまと、もう……や、そこばっかり……こっちにも、きてえ……」
手探り求めても大和は一人しかいなくて。腕は二本しかないし、指は十本しかない。子どもみたいに乳首に夢中で吸い付いていた大和は、言葉の意味を噛み砕いて伸ばしていた膝を立てた。
「んぅっ♡♡♡」
ぐりぐりと膝を性器に押し付けられ、荒っぽい刺激を与えられる。優しく丁寧にしてもらえなくてもこんなに気持ちいい。
「んはぅぅ……っ♡♡ やまとぉ……」
胸元に、瑛二の好きな赤い花が咲き乱れる。人には見せるなという牽制と、食欲に似た大和の衝動と。すべてが嬉しくて瑛二もその痕を親指でくるくるとなぞった。
じきに大和の両手は瑛二の腰を支え、また膝の上に座らされる。濡れそぼった下着から片足を抜いて、もう片方は手伝ってもらえなくて膝に引っかかる状態になった。
片手で性器を扱いてもらいながら、顎を上げてキスをねだった。瑛二のお願いは聞き入れられて、たっぷりと濡れたくちづけをもらう。
好きだ。頭が真っ白になりそうで、何回も、何回も刻み込むように好きだと言葉にする。夢にまで見たこの体に抱いてもらって、わがままを受け入れられて、体の隅々まで愛してもらえて、瑛二はたまらなく幸せだと思った。
「ぁ、あ、ぁん♡ きもちい……♡」
唇が触れ合ったまま、好きだと大和が呟いた。俺も、と、たった三文字なのに、キスに溺れて声にならない。
互いに息が苦しくなって離れた頃、大和がニットから腕を抜いた。鍛えられ隆々とした筋肉が露わになり、思わず瑛二の肌が粟立つ。スラックスも脱いでほしくてボタンを外すと、下着と一緒にずらされて性器が露わになった。
大和の大きな手のひらが、瑛二と自身の性器をまとめて上下に動かす。大和の性器もすぐに勃ち上がって、高鳴る期待に瑛二はごくりと唾を飲み込んだ。
「大和……舐めてもいい……?」
「今日はそういうのいいだろ。おれの好きにやる」
「今日とか明日とか……無しにして? 今日が特別じゃなくて、今日も明日も明後日も、おんなじにしてほしい」
「……ん。まぁ……そうだな」
やわく唇を重ね、軽々と体が持ち上がる。ベッドに瑛二を座らせると、大和は脱ぎかけのスラックスと下着を全て脱いでしまった。
「おまえのせいで……もうふつうのセックスできねえよ」
「俺にとってはこれが普通だもん」
啄むような口付けをして、背中を両腕に抱かれる。いつもみたく押し倒されるのだと思ったら大和が仰向けに倒れて、その上に覆い被さるかたちになった。訳がわからず腹の上に乗ったままきれいな顔を見下ろしていると、「逆だろ」と大和が自分の足の方を指差した。
反り返った凶器みたいな性を指していることは分かって、両手を添える。
「えーじ、シックスナインってしらねえか」
「……大和としたことないなら、知らない」
「んー……とりあえずおれの上にうつぶせになってフェラできるか?」
「上に……?」
瑛二は、特にベッドの上ではとことん大和に従順だ。経験が少なすぎるから教えてもらうしかない。膝はシーツにつけたまま、間に大和の体を挟むようにしてうつ伏せになり、亀頭にくちづける。
「……あってる?」
「あぁ……おまえはまちがってねえけど……」
大和の胸の上あたりで性を擦り上げられ、声が漏れる。「背のことわすれてたぜ」と残念そうな声色に、大和の考えが瑛二にも伝わった。もう少し瑛二の身長が高ければ大和にもフェラしてもらえていたのかと思うと、母親譲りの低身長を恨むしかない。というか、そんなことより。
「大和、あんまり見ないで……」
身長が足りないあまり、大和と繋がる場所が曝け出されているのが気になった。これまで一度も見せたことがない場所ではもちろんないけれど、こんな距離で抵抗もできず見られるのは初めてで恥ずかしい。
「それはできねえな」
「やだ……ほんと恥ずかしい、そこ……」
「今さらだろ」
諭すように言われてしまうと仕方がない。目の前ではち切れんばかりに勃起した大和の性に舌を這わせ、舐め上げる。瑛二はこれが好きだ。大和とのセックスでは当たり前のことで、咥内で感じたこの大きさを突き入れてもらうのだと思うとたまらなくなる。
大和に何を見られているかなんて気にならなくなった頃、背後でキュ、と聞き慣れた音がした。
「ん……は、やまと……なに、」
粘着質な水音。それがローションを手のひらに零した時のものだと分かった時にはもう遅く、大和の人差し指に後孔を犯される。
「ひゃっ……♡」
「フェラがんばってくれよ、えーじ」
意地悪く言いながら、大和は指を浅い位置で何度か曲げて丹念に中を解していく。
もう集中力なんてどこにもなくて、弄られている後ろも、大和の胸に擦りつけた性器も、大和の性を可愛がりたいはずの咥内も、自分のそれとは思えない。
太くて長い大和の性を口の中に収めきることはできなくて、そっと歯をたてて出したり入れたりを繰り返すので精一杯だ。「すげえいい」と言うのと一緒に、大和は瑛二が中で感じる部分のすぐ近くを擦って焦らしてくる。
「んぅ……♡」
大和が気持ちいい時に、瑛二も好きなところを刺激してもらえる。咥内でのピストンのスピードを上げると、突き入れられた指が二本に増えた。
「ふっ、ぅ……んっ♡♡」
「えーじ……! はなせ、くちに……」
「んー…んっ♡」
いつもこれで叱られる。でもやめられないのだ。
容赦なく大和の精が咥内に吐き出される。すべて受け止めることはできなくて、途中で唇を離した。迷わず嚥下しながら、指を突き入れられた尻と腰を振った。大和の胸に擦り付けられた性器が筋肉の感触を覚えながら揺れて、達すると思った寸前――大和の大きな手に性器をぎゅっと握られてしまう。
「……ぁう、ん……ッ」
「ひとりでイくなよ」
「ひとりじゃ……ッ、ぁ、ひぁぁんっ♡♡」
乱暴に擦り上げられ、達したくてたまらない瑛二の性器は涙のように先走りを零す。いかせてもらえないのがもどかしくて、瑛二はくるりと振り返って大和を見下ろす。
「いれて、やまと……はやくいれて……」
こんな風にねだるのは初めてで、恥ずかしいはずなのにもうどうでもいい。いつも挿入という終わりに向かってセックスしてると言っても過言ではないやり方でしているのに、そのステップに大和はなかなか進んでくれない。焦らされてじくじく熱くなってくる体に瑛二は慣れていなかった。
大和の手に肩を掴まれ、甘い期待に胸をさらわれた次の瞬間にはころんと仰向けに転がされていた。覆い被さった大和の顔が近付いてきて、唇にふたをされる。上唇を食べられるみたいなキスに、性器から蜜がまた零れた。
「ぅ……♡ も、たえられ、な……」
こんな気持ちにされたことはない。
いつもよりずっと大和が欲しい。反り返って涙を流す性器をぐっと握り直され、まだ達せないのに声が抑えられなかった。
「ぁん、ひあぁっ♡♡♡」
「えーじ……いれるぞ」
片方の足首を掴まれ、膝を曲げて大和を迎えやすい格好を取らされる。自由なはずの方の足も同じように動いて、後孔を見せつけながらはやく、と大和を求めるみたいで恥ずかしい。けれど、羞恥を訴える暇なんて瑛二にはなかった。
「ちょうだい……挿れて……っ」
性器を握っていた大和の手が離れて、熱い塊が後孔に押し付けられる。その瞬間、瑛二の性器から白濁が散らされた。
「あぅっ♡♡ あん、あ、ぁ、あ――ッ♡♡♡♡」
指よりもずっと硬くて大きい熱が、中に押し進んでくる。
「ぁ、あ、ん♡♡♡」
気付けば両脚を自分で広げて大和を迎え入れていた。いつもなら大和がやってくれることだけれど、中に欲しくて、欲しくてたまらなかったから。
「あ、ぁ、はぁ……♡♡」
「えーじ、もう……おまえ、エロ……」
「だ、って……」
大きい熱の塊は、時間をかけて瑛二の中を奥まで犯す。下半身に走る痛みも感じなくて、瑛二は胸を上下させて深い呼吸を繰り返した。
あまりに大きくて、大和の性器を全部飲み込むことはできない。いつもより深く挿れてくれているのが分かるだけで瑛二は嬉しかった。
「……えーじ、ぜんぶだ」
「ん……♡ 大和……」
片手を離して、大和が埋まっているあたりの腹を撫でる。少し抜け出す動きをされて、瑛二は小さな喘ぎ声を漏らした。
「わり……いじめたくなる、おまえ」
「いじわる、だめ……」
「そうだよな」
二人はそっとキスをする。
大和の右手が瑛二の手に重なって、同じように腹を撫でた。
「はいってる……大和……俺、に」
「ん……そうだな」
愛おしい橙の瞳を見上げて微笑むと、大和がもう一度くちづけをくれる。
「えーじ……すきだ」
ぬるり、と性器が抜けていく。
「おまえ、ほんとかわいいな……」
ギリギリのところで大和は動きを止める。
瑛二は動くこともしゃべることもできなくて、わけのわからない嬌声を零しながら大和を見上げた。
「すき、すきだ……」
またぬるりと性器が入ってくる。
穏やかな波が寄せたり返したりして、体がびくびく震える。広がってもキツい中を大和の性器が出たり入ったりするのを感じながら、瑛二は堪えきれずあえかな声を漏らす。
「ぁ、あ♡♡ ぁあん、う、ぁん♡」
「えーじ、きもちいいか?」
「ひゃ、う♡♡ ん、きもちい……♡♡ ぁ、あっ、ひぁっ♡♡♡」
抜き挿しを繰り返し、肌がぶつかる。ぱち、ぱち、と水が弾けるような音にも敏感に反応してしまう。キスしてもらいながら脚を開いて大和の性を受け入れていると、離れてしまうことなんて考えられなくなった。
「すき……っ、ん、ぅ……ん♡♡」
「えーじ、起こすぞ」
「んっ、ぅあ」
体を掬われ、突然上体が持ち上がる。気付けば繋がったまま大和の上に座って向かい合う姿勢になっていた。足を広げていた両手を大和の肩に添え、うっとり見つめると大和の瞳に自分の姿が見えた気がした。
「やまと、俺もう……うごけない……」
「別にうごけなんて言ってねえだろ」
「でも、俺が上だし……っあ、ん、ゃっ♡♡♡」
下から突き上げられ、腹から湧き上がるような快楽がのぼってくる。小刻みに体を揺らされ、思い切りピストンされる。
「ぁ♡ あ、ぁ♡♡ ぁう♡」
立派な大和の体に抱かれてしまうと、もう抵抗なんて一切できない。腰と腕の力でガンガン突き上げられ、無意識のうちにきゅうきゅうと中を締め付けてしまう。
「えーじ、出すぞ……」
「ぁ、あん、あ、ぁっ……! やまとっ、おれも、またいっちゃう……!」
足も、指先もゆらゆら揺れる髪の毛さえ動かせない。自分が自分でなくなって、全部大和のものになっているのだと感じてたまらない。
頬に涙が転がり、喘ぎはもう声にならなくなった。最奥を突き上げられ、瑛二は大和の頭を掻き抱いて果てた。息を整えようともがいた瞬間に腹に生暖かい感触が広がる。
(わ…………やまとの……)
たっぷりと注がれたそれが何なのか、冷静になって考えながら細い体はあまりの快楽にびくびくと痙攣する。
えーじ、と名前を呼ばれ、ぼんやりしていた唇をこじ開けられてベッドにまた沈む。甘いキスの途中でずるりと性器が抜かれ、ローションと大和の出したものが溢れてくるのがわかった。
本当は挿れたまま、もっともっとしてほしかったけれど、普通の恋人みたいなこんなキスもしてほしくて。両手を絡めて甘えてみたら大きな手のひらに頭を撫でられる。
「なぁ……きもちよかったか?」
大和はもっと瑛二をわがままにしてくれる。
それがなんだか嬉しくて、「すっごくよかったよ」とうっとり見上げた後、何回も何回もキスをねだって唇を蕩かせた。
