※リバです。大和が瑛二にいれたり瑛二が大和にいれたりしてます。
※普段やまえじを書いてる人間が書いてます。
つけっぱなしの廊下の明かり、脱ぎ散らかした二人分の衣服。瑛二が作った夕食は、ラップもかけずに机に並んでいた。
今日ばかりは大和は悪くない。子猫のようにじゃれついてきて、少し構ってやると調子に乗る瑛二のせいだ。最後にエプロンを剥ぎ取った時の満足そうな笑みが脳裏に焼き付いている。
瑛二は大和とのセックスが好きだ。
隙あらば誘うような視線を寄越したり、キスをねだって背伸びしてみせたり。大和はそれに渋々応じてやっている――といえば語弊があるのだが。
「えーじ……腹、へった……」
「んっ……俺も……」
それでも絡み付いた両脚は離れてくれず、それどころか中をぎゅっと締められる。ああもう。小さく舌打ちをして、口元を軽く覆っていた瑛二の手のひらを掴む。そっちがその気なら、と体を揺すり、腰を打ち付けた。
「あっ、ああ……っ」
細い体は衝動から逃れようと乱れたシーツの上で後ずさる。決して逃がさないよう腰を掴み、抽挿を激しくすると瑛二はすぐに降参して快楽を享受することを決め込んだようだ。どうすることもできない様子で喘ぎながら閉じた瞳が、時々鮮やかな紫を覗かせて蕩けるのが色っぽい。六つも年下でまだ子どものはずなのに、妙な色香が大和を誘ってはおかしくさせる。
「は、ぁ、あ、あっ」
「ここだろ、えーじ……、すきだろ……?」
「ん、あ、ぁ、だめ、そこ……だめぇ……」
奥の方にある、瑛二が一番感じるところのすぐそばを執拗に攻めてやる。ここをたっぷり弄られた瑛二がどうなるか大和はもちろん知っていた。
「だめなのか? もうやめるか?」
「あ、ちが……ちがうの……」
形の良い頭がふるふると横に揺れる。熱っぽい瞳がじぃっと大和を見上げ、懇願されているような気がした。言葉にはされないが、今日はそこで気持ち良くしてほしいと言われているみたいで。膨らんだ前は触らず、愛おしい名前を呼んで腰をさらに深く進めた。
「やっ、あぁっ……!」
「奥でイこうな、えいじ」
「あ、あん、あ、ぁ、あ、ん、あっ、あッ!」
濡れた菫の瞳からぽろぽろと涙が零れて頬を伝う。舌でそれを掬いながら動くと、助けを求めるみたいに両腕にしがみつかれた。おまえをこんなにしてるのはおれだぞ、と口にはしないけれどそれを刻み込むように存在を示す。こまかく体を震わせて大和を受け入れる姿が、男なのに可愛いと思ってしまうのはなぜだろう。
「ぁ、や、やまと、ぁん、あ、あ――……」
しっかりしがみつかれていた腕の力が抜けてシーツの上にぱたりと落ちる。頬に、首筋に、荒い息をする胸にくちづけをして、一人で達してしまった瑛二の中から自身をずるりと引き抜く動きをした。ひどく敏感になっている内側にきゅうっと求められ、切なげな声が瑛二の唇からこぼれる。イったばかりで可哀想だけれど、大和も瑛二の中で気持ち良くなりたい。ぎりぎりまで抜け出した自身をゆっくり埋め込むと、瑛二の体はびくびくと可愛らしい反応を見せるからたまらない。
「ひぁ、ぁん……ッ」
「えーじ、おれもイきてえ」
子どもみたいに欲望を言葉にして、律動を繰り返す。瑛二はのろのろと両手を広げた後、全てを委ねるようにそれをまた大和の首にまわして体を預けた。
「俺で……ちゃんと、きもちよくなって……」
瑛二が目を閉じる。重たい前髪を指で梳きながら、大和は言った。
「おれと、の間違いだろ」
瑛二の中は大和をぴったり吸い尽くすようで心地が良く、一度知ってしまうと離れられない。しがみつく腕と同じように後ろも締め付けられて、瑛二にも自分の体のことを隅々まで知り尽くされているのだと分かった。
「すげえな……おまえ」
同じ男に、こんな風に体を許して。おれにはできねえ、と思いながら、でもこうやって瑛二を変えてしまったのは間違いなく大和だ。
切に求められるように締め付けをきつくされ、動きを止めて瑛二の中で大和も果てる。今度こそと瑛二の中から自身を引き抜いた時にも甘い声が聴こえた。
「……っはぁ……ごはん……冷めちゃったかも……」
組み敷かれ、セックスの余韻をしっかり残しながら瑛二が心配そうに言った。目と鼻の先のテーブルの上に並んだハンバーグは確かにもう冷えてしまっていそうだ。上半身を起こそうとした瑛二の肩をそっと押すと、「どうしたの?」と瑛二は不思議そうな顔をした。
「わかんねえけど」
一回り以上小さな体を抱きしめる。髪を梳いて、鼻の頭にしてから唇にキスをした。
理由はわからない。けれど求められて、瑛二を抱いて、終わって、そのまま飯にするのも情緒に欠けているとなんとなく思うのだ。
「お腹空いたんじゃないの?」
「すいてるけどよ」
「後で温め直して食べようね」
軽い口付けを瑛二からも仕掛けてくる。こいつのことが好きだ、と身に染みてわかる。散々触れ合った後なのに、まだ満たされたいと思ってしまう。
賢者モードと呼ばれる状態のスイッチが入りにくくなったのはいつからだろう。
一通りの行為が終わったら二人して何も言わずに眠ったり、それぞれ風呂に入ってやはり無言で眠ったり。女と違って事後のあれこれを求められない男同士の関係は楽だった。瑛二もそれを不満に思ってはいなかったようで、終わった後に一緒に風呂に入ることを初めて提案したのは大和だった。
「大和、ごめんね。わがまま言って」
「なんの話だ?」
「だって、先にご飯食べたかったでしょ?」
「んなこと気にすんな」
ぽんぽんと頭を撫でて、腕の上に乗せる。いわゆる腕枕をしてやれば瑛二は喜ぶだろうと経験則で思っていたが、「硬くて寝にくい」と言われてしまい今ではこういう時にだけするようにしていた。ちゃんと眠る時にはふかふかの普通の枕がいい。それは、大和も同意だ。
きっと大和が『突っ込む側』でしているからというのが大きいんだろうけれど――瑛二と過ごす中で、男同士なんだと改めて気付かされることは多い。女性経験のほとんどない瑛二に、かえって大和が女の子みたいになってしまうこともままあって、情事の後に触れ合っていたいだとか思い行動してしまうのもきっとその一つだ。
女はこうしてやった方が喜ぶのだと偉そうに教えるつもりはない。どうせ瑛二は大和としかこういうことをする気はないと断るだろうから。
「瑛二、おまえ体はへいきか?」
「平気だよ。……もう、触っちゃだめ……」
背中をさすっていた手を下肢に伸ばし、後孔に触れると瑛二が身を捩る。そこは大和の放ったものでどろどろに濡れてしまっていて、くちゅくちゅと淫靡な音を立てた。
「……ぁ、あ、ぁあ、もう……大和ったら」
中指で掻き出す動きをすると、腕の中で体が震える。感じているのがわかって嬉しい。この可愛くて、いやらしい体は大和の好きにされるのが好きなのだ。
上顎を上げた瑛二にキスを求められ、応じてやると舌を使って奥の方までこじ開けられる。
おとなしそうな顔をして、そして実際あまり前に出る方ではない控えめな性格なくせに、やる時はやる、という言葉がよく似合う。ステージの上でもそうだ。
大和は瑛二が、瑛二は大和のことが好きだとお互いに分かっているから、大胆になれる時もある。
指を引き抜き、瑛二の緊張が解けても荒い呼吸はすぐに落ち着かなかった。キスを終えて大和の胸元に頭を預けると、瑛二はそのまま上目遣いで視線を合わせてくる。
「やまと、」
熱に浮かされた紫の瞳。まだ感情が高ぶっているからか、もう一度自由を奪って瑛二のことを好きにしたくなる。
「こんな時に言うことじゃ、ないかもしれないけど」
「ん?」
「あの、俺……」
甘えるみたいに、両手が大和の逞しい胸元に触れた。
「一回でいいから、大和のこと抱きたいんだ」
…………抱きたい?
瑛二が発した言葉の意味がしばらく分からず、大和は石のように固まった。「やっぱりだめかな」と穏やかな声が追い打ちをかけてくる。
考えるより先に行動しがちと言われる大和だが、手も足も口もすぐには動かなかった。前向きな返事を期待した瑛二に見上げられ、十数秒遅れてやっと、理解が追いついてくる。
「…………は?」
「だめ?」
「だめ……っつーか……まじで言ってんのか」
「うん」
「普通いやだろ」
「嫌じゃないよ。それに……大和は俺のことだって、嫌々抱いてるんじゃないでしょ?」
念押しするようなまっすぐな視線に、「いやじゃねえよ」と即答する。そうじゃない。大和が言っているのはそんな簡単な話ではないのだ。
「おまえは……まあ顔もかわいいし、背もそんなだし、体もほせーし……」
「だから俺が抱かれるべき?」
「や、そうじゃねえけど……おれのこと、おまえ本当に抱きてえか?」
「うん」
「うそだろ」
「大和だって俺にはすごく可愛いし」
「かわいくねえよ」
かわいい、かわいくねえ、と一通りの押し問答の後、瑛二は眉をハの字にして唇を尖らせた。そういう顔をされると大和は弱いのだ。けれどそれくらいで引き下がれる話ではなかった。
「おまえ、いま不満があるのか?」
「そんなことないけど……」
「じゃあいいじゃねえか」
「だって俺……童貞なんだもん」
「あー……そのへんで捨ててくるか?」
「……怒るよ、大和」
「わりぃ」
割と本気で言った――とはさすがに言えない。
童貞だから、と理由を付けられてしまうと、気持ちは分からなくないと大和も思う。一生一緒にいようとかそんな話をしているわけでなくても、しばらくは他に恋人を作る必要はないだろうし、そうしているうちに瑛二も大和も歳を取る。今はまだ十代とはいえ瑛二の年頃で女性との初経験を済ませる男子は多いし、大和もそれくらいの歳には適当な彼女がいたから分かる。瑛二の言い分は、正当で当然な欲求なのだ。相手が大和のような男であることを除けば、だが。
「好きな人と……大和としたいって思うの、変なことじゃないでしょ?」
「……したじゃねえか、さっき」
「大和」
しょんぼりとした声色に、それなりに申し訳なくなる。やめろよと言いたいけれど原因が自分なだけにどうすることもできなかった。
「どうしてもだめ?」
「だめとかじゃねえ……むしろおまえが考えなおせよ。おれみてえな男、本当に抱きてえか?」
「さっきからそう言ってるよ。俺、ちゃんと考えてから話してる」
こくりと瑛二は頷いて、はっきりと言い切る。融通が利かないわけではないけれど、こういう頑固なところがあるのは知っていた。そしてそれが発動されてしまえば、瑛二は簡単に意見を曲げようとしないのだ。
「大和は、俺と……してる時、なに考えてる? どんな気持ちになってるの?」
「どういう……とか、考えたことねえ……。でもおれはおれなりに、男とヤったことねえけど、おまえとなら、とはおもってんじゃねえのか」
自分のことなのについ問いかける形になって、「いや、おもってる」と断定する。瑛二はきれいな目を細め、大和の胸に当てていた手を頬まで上げた。
「大和は……俺のことが好きだから?」
「そういうことだろ」
「俺も大和のことが大好きだから、同じ気持ちを知りたい。いつものしてもらってばかりじゃなくて、俺も……」
言葉が途切れその先は大和にも瑛二にもわからない。
瑛二がしてもらってばかりだと云うのは、つまりされてばかりだということでもある。大和にもその自覚はあって、体格差をいいことに好き勝手していることも分かっていた。
無理を強いたことはない。瑛二がいいよと言うことしかしたことはない。けれどそれを実際にいつも受け止めているのは間違いなく瑛二で。恥ずかしいとか痛いとか言いながら、瑛二に拒まれたことは一度もなかった。
「…………わかった」
ぽつり、蚊の鳴くような声で呟くと、「本当!?」と瑛二が驚きを孕んだ笑顔を見せる。それを拒絶するはっきりとした理由は確かになかった。考えたことがなかっただけで。
「今日はむりだからな、ちょっとは時間くれよ」
「うん、わかってる」
「とりあえず飯くおうぜ」
両腕で瑛二の体を抱え、一緒に起き上がる。タオルを取って来ると言い残して洗面所に向かった。
大きな鏡に映った立派な体躯を眺め、やはりこんな体を抱きたいなんてどうかしてるとしか大和には思えない。けれど、約束は約束だ。果たしてやるしかない。
次に二人で夜を共にできるのはいつだったかと考えながら、つけっぱなしの廊下の電気をぱちりと消した。
「なんか準備とかしとくことあるか?」
あの夜、大和が聞くと瑛二は微笑み何もないと返した。恋人なのだから多少は協力的でありたい。本当か、と問い直すと瑛二は少し考える仕草を見せたが、やはり何もないと言うので結局普段通り過ごしてきてしまった。
「俺にも大和が全部してくれたから、俺も大和のこと、全部してあげたいんだ」
ハンバーグを口に運びながら瑛二が選んだ言葉はやや意味深だった。大和は、瑛二に大したことをした覚えはない。むしろ男相手は経験がないからどうすればいいか分からず、初めては上手くいかなかったのに。
ケチャップソースのたっぷりかかったハンバーグは、瑛二とセックスする前は――いや、瑛二に抱かれると決まるまではすごく美味しそうに見えたのに、味がよくわからなかった。
(……まじでおれ、あいつに……抱かれるのか……?)
自宅のベッドに体を放り投げ、天井を見つめながら自分の置かれた状況について考えるとありえないとすら思えた。
瑛二の気持ちはわかる。そう、痛いほどわかるのだ。なのにどうしても潔く抱かれてやろうと思えないのは、もし自分が瑛二なら絶対にこんな筋肉野郎とセックスしたくないだろうと思うからだ。実際瑛二が『挿れられる方』としては何回もしているので、その時点で大和としては理解できないのだけれど。
(萎えるよなぁ……おれだったらむりだ、ぜってぇ勃たねえだろ……)
重苦しいため息の後、扉に鍵が差し込まれる音が玄関から聴こえる。作ってやった合鍵で、瑛二が帰って来たのだ。
「おじゃまします」
もう「ただいま」でいいだろうに、こういう部分で瑛二は頑なだ。
靴を揃えて、ベッドに横たわる大和を横目にコートを脱ぐ。律儀に手洗いうがいを洗面所で済ませてきてから挨拶みたいにキスをしてきた瑛二の腕をぐっと引いて抱き寄せた。
「どうしたの、大和」
「したくなったからしただけだ」
「そっか。俺も」
柔和に微笑むと瑛二は頬に口付けをくれる。大和の胸元に抱き寄せられたまま、シャワーはどちらが先に浴びるかと瑛二が聞いた。
「たまにはいっしょでもいいだろ」
「え?」
「はじめての時も、ふたりで入ったじゃねえか。いやか?」
「ううん、全然嫌じゃない」
上半身を起こしながら瑛二が素直な笑みを見せる。それにつられて大和も笑ってベッドから下りた。チェストから二人分の寝間着を取り出して洗面所へ向かう。瑛二は先に服を脱いでいて、「入ってるね」と浴室へと消えた。
もともと一人暮らしだったこの部屋の浴室は狭くて、二人で入るのは久しぶりだ。追ってドアを開けると両手でボディソープを泡立てながら瑛二が浴槽のふちに腰掛けていた。
「ね、俺が洗ってもいい?」
「いいぜ。まってろ、ちょっと流してからな」
胸元でシャワーの湯を受け止めて、一通り浴びてから浴槽に湯を張り始める。
好きにしろと言わんばかりに瑛二の目の前に立つと、泡にまみれた両手が嬉しそうに体を這う。ゴツゴツしたこんな体でも瑛二は好きなんだよなと、分かっていたはずなのに再認識すると照れ臭い。
背中を洗うのに後ろを向こうとすると「だめ」と瑛二に止められた。前から抱きしめるかたちでぴったりくっついてきて、両の手のひらが一生懸命背中を擦る。ボディソープを塗りたくられたまま動かれるとぬるぬると肌と肌が擦れて変な気持ちになってくる。
大和もワンプッシュ手にしてさっと泡を立て、きれいな背中と尻にかけて洗ってやった。
瑛二は耳が案外弱い。指先で耳の裏を撫でると「ひゃっ」と可愛らしい声をあげて肩をすくめた。こういう触り合いには瑛二の方がとことん堪え性がないのだ。胸の先端を弄ると立っていられなくなるのが分かっていたので椅子に座らせ、二本の指で捏ねるとあえかな声を零した。
「すきだなおまえ、ここ……」
「やだ、ぁ、あ……っ、くすぐっ、たぁ……」
体が勝手に動くのはくすぐったいからだけじゃないだろう。ここがすごく気持ちいいんだろうと分かるから触りたくなる。それで大和がどうなるわけでもないのに。ただ瑛二が自分に触られておかしくなる、そんな痴態を眺めると大和も興奮してしまうようになったからだ。男同士で、ありえないと思っていたのに。
「ゃ、う……だめ……ぁ、ん……」
「かたくなってきたな」
「それ、は……大和が、さわるからッ」
抵抗しようと手首を掴まれるも、泡で滑って瑛二の思惑は失敗した。胸だけで感じたり、それだけじゃなく瑛二の体は開いてみるととことんいやらしく大和を夢中にさせる。もっと触って、いじめて、蕩けてだめになる可愛らしい姿が見たい気持ちはあったけれど、今夜の趣旨を思い出して大和の手はぴたりと止まった。今日は大和の好きに瑛二を愛せる夜ではないのだ。
「……ほら、しゃんとしろよな?」
触れるだけのキスをして、両手をするりと滑らせる。あとはさっと擦るだけに留めシャワーで互いの体を洗い流した。
先に風呂を出て、さっと体を拭いてTシャツとハーフパンツを身に着け冷蔵庫へ向かう。ミネラルウォーターをペットボトルからそのまま飲み、大きく息を吐き出した。
「大和」
追いかけるように風呂から出てきた瑛二が、頭にタオルを被ったまま横に並ぶ。常温のまま置いておいた水をグラスにうつしながら、瑛二は大和を見上げて言った。
「もしかして緊張してる?」
「……緊張っつーか……覚悟きめてるっつーか……」
「俺はちょっと緊張しちゃってる」
「そうなのか」
水を飲みながら、瑛二が小さく頷く。
童貞を捨てた時のことを大和はもうよく覚えていない。けれど、緊張よりも男としての喜びや誇りと言うか、そういうまだ子どもっぽい感情に近かったような気がする。
ペットボトルのキャップをしめると、服のすそをくいっと掴まれ、「大和」と名前を呼ばれた。
グラスを手に持ったまま、背伸びをした瑛二が目をつむってキスをねだる。頬に片手を添えて応えてやると、かすかな笑い声が唇の端から漏れた。これから抱こうって相手にキスさせるやつがあるかよ、と思ったけれど、これはこれで瑛二らしく可愛いので何も言わなかった。
「大和、ベット行こ?」
丁寧に指を絡められ、きれいに微笑まれると従うしかない。期待をいっぱいに浮かべた瞳が実家で飼っていた犬によく似ている。兄が拾ってきて兄が名前をつけたそいつが大和はあまり得意ではなかったのに、ちぎれんばかりに振っているしっぽまで見える気がする。
もともと一人暮らしの狭い部屋だから、キッチンとベッドは目と鼻の先だ。
水の入ったペットボトルを二本、テーブルに置いてからベッドに腰を下ろす。背も座高も低い瑛二の唇が顎のあたりにくっついて、それから高さを合わせてキスをする。いつものくせで、先に舌を突っ込んだのは大和だった。けれどそれも嬉しそうに瑛二は応えてくれる。
(あー……抱きてえ……おれが挿れてえ……)
甘い音をたてながら夢中でキスしていると、体の大きな大和の方がどうしても迫るような格好になってしまう。そして目の前の細い体をどうにかしてしまいたくなるのだ。
だめだと分かっているとさらにしたくなるもので、瑛二のパンツのふちに親指をひっかけてはだめだと手を離した。
(こんなんはじめてだ……)
いつもいつも瑛二にねだられるがままにやっているから。本当はこんなにも瑛二のことが欲しくて仕方がない。
大和のもどかしさに気付いたのか、唇を離した瑛二が両肩を力強く押した。一瞬力を入れて堪えてしまったが、そうじゃない。体の力を抜いてゆっくりと仰向けに倒れた。
「ごめん、力足りなくて」
「おれがこんなだからなぁ……瑛二も、もうちょっと筋トレしねえとな」
申し訳なさそうな声色とは裏腹に、瑛二の唇が何度も何度も重ねられる。触れるだけのキスが逆に瑛二らしくて、手を伸ばして頭を撫でた。
すげえな、と思っていたことがたまらず口からこぼれて、瑛二が目を丸くする。
瑛二に抱かれることが、この期に及んでまだ信じられないのだ。いつも大和がしていることだから『男に抱かれる』というのがどういうことかはわかっている。それにいつも甘んじているどころか、満足そうに身を預けて受け入れてくれる瑛二はなんて出来た奴なんだろうと、ある種尊敬の念すら浮かんできた。
「ねえ、大和」
額に軽くくちづけた後で、瑛二が顔を覗き込んだまま大和の名前を呼んだ。
ほんの少し眉を下げて不安そうな色を浮かべているのに気付き、思わず頬を撫でる。
瑛二はひどく恥ずかしそうに顔を赤らめながら続けた。
「あの……俺、してもらってる時、一瞬に感じてて……大和が俺をどうしてくれるかよく覚えてなくて……気付いたら服は脱げてるし、気付いたら気持ちいいし、大和が俺に、入ってきてて……手順が決まってるなら、教えてほしいな……」
じっと見上げる大和の視線に耐えかねたのか、瑛二は途中から咳ばらいをするふりをして口元を手で隠してしまった。
笑うのは悪いと思ったが堪えきれない。瑛二が可愛いのが悪いのだ。ばかにするつもりはなくて、おまえなぁと笑いながら頭を撫でると、細い体がさらに縮こまってしまう。
「俺、真剣に聞いてるのに……」
「んなのわかってるけどよ」
「俺が間違ったら痛いのは大和なんだからね?」
「そりゃそうだ。わりぃ、おまえがかわいくてついな」
まだ濡れた甘い茶色の髪をわしゃわしゃと撫でくり回し、瑛二を乗っけたまま上体を起こす。手順――なんて言われても決めていないし、解説なんてしてやるつもりはさらさら無いけれど、初心な言葉が胸を抉るくらい可愛く思えた。
背を曲げて一回キスをしてから、Tシャツから腕を抜く。それに倣って瑛二もTシャツを脱いで大和を見つめた。
ハーフパンツを下ろそうとウエストに手をかけた時、「待って」と瑛二が急いた声で手を重ねてくる。
「大和のは、俺がやるから……」
そうかよ、と口元に浮かべて手を離すと瑛二は大胆に下着ごと勢いよくずり下ろす。足を抜くのは手伝って、横たわる大和の体をうっとりと見つめる瑛二に「おまえはぬがねえのか」と促せば、そうだねと瑛二もすぐに裸になった。
瑛二の性器はすでに勃起していて、手を貸してやればすぐに達してしまいそうだ。
初めてその体を裸に剥いてじっくりと見た時から、同じ男のものと思えないほどきれいな体だと思った。それは性器についても同じで、白くて華奢な体に見合ったきれいな(と形容するのはおかしいと思ったが、大和にはそうとしか表せない)フォルムで驚いたのだ。
これからどうするのかと見つめていると、瑛二は洗ったばかりの薄いシーツを手繰り寄せ、二人の身を隠すように上から覆う。大和の頭の横に両手をついて、唇にキスをしてからゆっくりとそれを下へ下へと移動させた。
「やまと、きもちいとこある……?」
「んー……? そりゃおまえにフェラされんのが、いちばんきもちいいぜ」
「そういうことじゃなくて……」
つんと尖らせた唇が喉の上を通過して、右の胸元に触れる。乳首のまわりを舌に舐められ、そしてやわやわと甘噛みされる。瑛二はここが弱くてこうされるのが好きだから、大和にもしてくれているのだろう。残念ながら胸で感じたことは一度もないけれど、瑛二の行為が嬉しくて頭を撫でた。
「ここ、だめ……?」
「きらいじゃねえよ」
「感じない?」
「まぁ……ここだけじゃなぁ」
頭を少し上げて、胸元を懸命に舐めている瑛二を見ていると、視線に気が付いたのかしっかりと目が合う。欲情に濡れた菫色の瞳が恨めしさを込めているようにも思えた。こんなにも求められているのに大和の体はまだ平静を貫いてしまっているのが申し訳ないくらいだ。
「さわって、いい……?」
瑛二の手が下半身を這って、何を指しているのかはすぐにわかった。おう、と返事をすると手のひらに性器を握られ細い指が絡みつく。
ちゅうちゅうと幼い子どものように胸に吸い付きながら、手では必死に大和の性を擦る。この対比が一番いやらしく思えて、大和は釘づけにされた。
「おまえのそういうエロいとこがたまんねえんだよ……」
すぐにイけば瑛二も満足するだろうか。少なくとも男にとって多少は誇れることだろう。
けれど大和の体のサイズに比例した性器と、瑛二のあまり大きくない手のひらとでは釣り合いが取れない。もっと強くされてもいいくらいなのに瑛二にはもう限界だろうか。痺れを切らして自分の手のひらを瑛二に重ね、がしがし上下に動かす。
「大和、なんか……こんなの、変になっちゃう……」
「なんでおまえが……」
「だって……」
夢中で吸い付いていたはずの胸元から唇を離して、瑛二は大和の下半身をじっと見つめた。二人分の刺激に大和の性器は瑛二の手の中で膨らんで、硬くなっていく。確かに瑛二みたいにきれいなものではない。スピードを上げて二人で扱きながら「なんかすっごくいやらしいんだもん……」と瑛二は困惑したような声を絞り出した。
「ばか、いっつもしてることの方が、ずっとやらしい、だろうが……」
こうされて限界へ昇っていくのは生理現象で、荒い息を隠せない。「やまと、いきそう?」と改めて聞かれ、肯定の返事をした。瑛二にじっと見つめられたまま、二人の手の間を伝うように白濁が零れる。
「大和……」
あぁ、挿れたい。
うっとりと熱っぽい声に名前を呼ばれ、ぼーっとした頭にはもうそれしか浮かばない。瑛二の狭い穴をこの熱の塊でこじあげてメチャクチャにしたい。イッた時のだらりと蕩けた顔や追い詰められた喘ぎ声が聴きたい。瑛二の中に熱をぶちまけたい。こんなに強く求めたのは初めてかもしれない。
なぁ瑛二、と声をかけると、胸の筋肉に唇を寄せた瑛二が顔を上げた。
「挿れさせてくれねえか……。めちゃくちゃにきもちよくしてやるから」
く、と瑛二の喉が動いたのがわかった。
案外簡単に折れてくれるかもしれない。大和はそう思っていた。初めてしたからずっとそっち側で満足してきたならば、今日だってそっちで気持ち良くされたいだろうと。
しかし瑛二はほんの少し迷った様子を見せた後、首を横に振った。
「……だめ。そう言ってくれるのは嬉しいけど」
「えーじ……」
「ほんとは、そっちもしてほしいけど……今日は俺がする」
そう言うと瑛二はむくりと起き上がる。纏っていたシーツを肩から落とし、ベッドサイドの引き出しに手を伸ばした。
そこに何があるかは大和もよく知っている。
迷ったように瑛二がじれったい動きをしているうちはひっくり返せるかもと期待した大和も、ついにきたかと覚悟を決めるしかなかった。
ローションとコンドームを取り出した瑛二は、荒い息をして大和を見下ろす。穏やかで柔らかくてまだまだ子どもだと思っていたのに、瑛二もただの男になってしまう。獣のように光る瞳に、大和は思わず笑みをこぼした。
「大和の処女がもらえて、俺嬉しいよ」
「男に処女とかいうんじゃねえ」
「大和だって、俺の処女奪ったじゃない。童貞も大和のものだし……幸せだよ、俺」
「……ならよかったな」
片手で頬を撫でると、手のひらに唇を擦りつけてくる。熱い舌に舐められ、いつもの瑛二じゃないみたいだ。
「大和は体柔らかいから、足広げるのも簡単そうだね」
ふふ、と笑って大和の両脚の間に膝をつく。膝裏を掬われ、瑛二がどうしたいのか分かっていたけれど力を入れて拒んでしまった。
「大和が力入れたら、俺どうにもできないよ」
「っつったって、このカッコはむりだ」
「いつも大和は俺のことこうするのに」
「おまえはかわいいからいいんだよ」
「またそんなこと言う……」
困ったように膝の裏から両手を抜く。こんなの子どもの駄々みたいで情けないのは分かっていたが、両脚を開いて男を受け入れるなんて大和にはハードルが高すぎた。太腿を掴んで開こうとする瑛二を頑なに拒むと、そのうち諦めたように瑛二はうーんと唸り始めた。
「……上、乗る?」
「んなことしたらおまえにいれちまうぞ」
「もー……」
呆れたように零す瑛二に、さすがに可哀想だろうと思ったけれど、はいどうぞと股を開く気にはやはりなれない。瑛二は正真正銘の可愛い恋人だから多少の言うことは聞いてやりたいけれど、どうしてもきついのだ。
「そうだ、横はどうかな」
「横、なぁ……」
「ね、横なら身長差あっても楽だし。いいよね」
ぎらぎら瞳を輝かせ、ね、ね、と後押ししてくるものだからもう断り切れない。仰向けになった体を壁に向かって倒すと、腰に軽くくちづけられる。
「えーじ、そこ、痕にすんなよ……」
「写真集の撮影、来週からだっけ」
言いながら、瑛二がローションの封を切る。
「それ、直接かけてもいいぞ」
「え? でも大和はいつも手につけてるよね?」
「そりゃつめてえから、ぬくくしてから……」
「じゃあ俺もそうする」
小さな水音が背後から聴こえる。
瑛二の提案したこの体勢は確かにそんなに足を開かなくていいし、辱めを受けるような感じもないけれど、どれだけ首をひねっても後ろがちゃんと見えないのが難点だ。自分がされるのも初めてで割とビビっているのに、何より瑛二が不慣れなのが恐ろしかった。
ぬるくなったローションが尻にかけられ、「まじか……」と間抜けな声が出る。
「大和、いつも、最初中指……?」
「おれはそうだけどよ……小指でもいいぜ」
「大和ってば……」
冗談だと思われたのか、くすくす笑って瑛二は聞き流した。いれるね、という四文字がこんなに怖いと思うことはもうないだろう。
瑛二にはそこがはっきり見えているらしく、的確に後孔に指先が触れる。
こんな日が来るとは思わなかった。当然これまで何も受け入れたことのないそこはすぐに瑛二を許そうとせず、しかし触れられているだけでむず痒い感じがしてもう大和は動きを止めるしかなかった。
「大和、入らないみたい……」
「もっと……むりやりこじあけねえと、はいんねえぞ」
「……無理やりって」
なんて瑛二に似合わない言葉だろうか。瑛二は意を決したようで、ごめんねと前置きしてからぐっと指を突き入れてくる。
「……ぐッ」
「ごめん、いたい?」
「ちげえ、そのままやれッ……」
入れられ慣れているからなのか、瑛二は嫌と言うほどローションを足してくれて、擦れて痛いようなことはなかった。細い瑛二の指とはいえ、違和感は拭えなくて低い呻き声が漏れる。パンパンに勃起していたはずの性器は萎え、瑛二の姿もまともに見えないのが地獄のようだった。
「大和、指増やす? それとも、もうちょっとこのまま?」
「ぅー……、すきに、しろよ……ッ」
「うん。あの、ちゃんと気持ち良くするから……待ってて」
ちゅ、と腰に唇が触れた後、指が二本に増やされる。先端を埋めた後で、押し戻そうとする粘膜の動きに逆らって入ってくるそれは、自分より小さくて弱い瑛二のものなのにもっと悍ましく強大なもののようにも思えた。
「痛ッ……」
入り口の辺りがぴりぴりする。くそ、くそ、くそ、と唇を噛むがそれが瑛二のものなのだと言い聞かせるとほんの少し気持ちが和らぐから不思議だ。
「中で動かすの……難しい……ごめんね大和」
まだ半分くらいしか埋まっていない指を狭いところで動かそうとするものだから、二つが自由でなくて難しいのだ。根元まで挿れたらいい。そういうつもりで「もっとふかく」と呟くと、ねだっているみたいで死ぬほど恥ずかしかった。
「じゃあ……いくよ?」
恐る恐る、といったように二つが奥まで埋められる。
純粋に痛いのと、腹に違和感を与えられすぎて声を殺すのはもう無理だ。
「え、え、えいじ……ッ、ばか、ッぐ……」
「頑張ってきもちいとこ、探すから……」
二本の指がばらばらと動き回って目の前に星が散った。両手でシーツを掴み、破れるかと一瞬心配したがもうどうだっていい。感じたことのない痛みに耐えられなかった。
しかし、激痛だけではなく確かに他の何かが波のように体を襲ってくる。それは、瑛二がそこを見つけた瞬間に花火みたいに弾けた。
「ッだ、っぁ!?」
目の前がちかちかする。
射精する時とは違う、もっと動物的な生々しい快楽だった。それは大和の体に寄せたり返したりを繰り返し、動きも思考もすべて止められてしまう。
「ここ? 大和、ここがきもちいい?」
執拗に擦られ動きを止めた大和を見下ろして、瑛二はそこが前立腺なのだと気付いたようだった。
このしつこさは大和のやり方そのもので、瑛二は大和からしかこんないやらしい行いを学んでいないのだと思うと興奮する。男には誰だってそれなりの独占欲があるものだ。
「大和……俺もここが大好き……大和しか触れない、一番気持ちいい部分だから」
「ぁ、あ、もう……おまえはッ……」
「一緒のところで感じられるの、俺すっごく嬉しい」
首を上げて瑛二を睨み付けると幸せそうにそこを見つめていて、怒りも羞恥もすっと失せてしまう。視線が絡むとなぜか瑛二が顔を赤くした。ゆっくりと指を引き抜かれながら、近付いてきた淡い唇とキスをする。後ろ以外の場所に瑛二を感じられるとほっとして、肩を抱いて舌を入れ、深く深く求めた。
前戯であるはずのここまででもうそこそこ体力を削られてしまった。瑛二はよく耐えられるものだと感心していると、唇が離れ言葉がつうっと伝った銀の糸を切る。
「大和、いれていい……?」
期待に満ちた声に心臓が跳ね、もうその気持ちに応えてやるしかないと思った。
上半身を起こし、瑛二の細い体を抱えて足の間に座らせる。今度は自ら足を開いてどっかりと座った。ぱちぱちと目を瞬かせた瑛二は「いいの?」と察した様子で問う。
「おまえの顔がみてえからな」
「俺も……同じこと思ってた」
「おまえはあんまじろじろ見んなよ」
「やだ、いつも大和はじっと俺のこと見てるもん」
「すきにしろ……。ほら、今度はちゃんと、おまえにしたがってやるよ」
瑛二の手首をつかんで膝のあたりに誘導する。ふわふわと笑っていた瑛二は柔和な表情を浮かべたまま、大和の両脚を開かせた。
「……あー、しんじらんねえ……」
「やっぱりいやだ……?」
「いやにきまってんだろ。でもおまえだからいい」
押し返せばいつでも足を閉じられた。それどころか、少し抵抗しただけで瑛二をベッドから突き落とすことだってできるほどの力の差だ。でももう、瑛二の好きにされてやると決めたから。
足が高々と持ち上がり、膝から下を曲げる。尻を上げるのは瑛二にはきついだろうと思って大和が自らそこを晒した。こんなの恥ずかしすぎると思っていたが、瑛二は案外他の部分が気になるようで、改めて大和の性器を見て驚いた声をあげた。
「萎えちゃってる……。先にこっち、どうにかしようか……?」
「いや、もう気にすんな……」
「あ! 俺ゴムつけるの忘れてた!」
「まじかよ……。人にこんなことさせといておまえは」
瑛二はベッドに転がったコンドームを掴んで、ごめんねとはにかんでみせる。ベッドの上では何もかも許してしまえるから大和もチョロい。自分の性器にコンドームを装着しながら、「そういえば自分のにつけるの初めてだ」と瑛二がしみじみ言った。
「あの、じゃあ……いれるね」
「おう……」
「あと……俺のこと足で挟まないでね」
「それはわかんねえ……先にあやまっとく」
瑛二が笑うのにつられて、大和も気持ちがゆるんだ。
後孔に瑛二の熱が触れる。その大きさが、彼の指二本よりどれくらい大きいかはよく知っていた。でも大和の性器をいつも受け入れている瑛二を思うと、そのサイズにいちいちビビるわけにはいかない。「こいよ」と強がって言うと、広がった入り口から肉を押しのけられ、瑛二の性器が貫いた。
「ッあ、ぁ!?」
「やまと、や、やまと……」
思わぬ衝撃に足が暴れそうになるのをぐっと堪える。それだけの理性はまだ残っていた。
こんな思いを――いつも瑛二はしてきたのか。
秘部を男にさらして、いいように体を触られて、物を入れられるはずでない場所から中をこんな風に性器に埋められて。それでも瑛二は好きだと言ってくれる。好きだからできるし、好きだから、痛くても幸せなんだと――。
「え、えーじ……ッ、ぁ」
ぐっと奥まで瑛二の性器が埋められ、それ以外の動きはなかった。荒い呼吸の音は大和だけのものではない。瑛二も同じように、胸を上下させてはあはあと呼吸を繰り返す。
目を開けると、望んだとおり瑛二の顔が見えた。
抱かれている時とはまた違う、艶っぽくて少し怒っているようにも見える険しい表情。大和の中で感じているのだ。ん、と鼻にかかった声を漏らして時々瞳を閉じるのが、まだ子どものような顔をしてたまらないほどいやらしい。
「ぁ、やまと……」
「えーじ……ほんと、おまえ……」
「やまと、すごいエッチな顔してる……」
「は!? おまえのが……っ」
言葉の途中でゆさ、と腰を揺すられ声が掠れる。すごいねとうっとりため息をつき、瑛二は再び動きを止めた。
「うそみたい……繋がってるね……」
「……あぁ」
「大和、俺にいれられてても、そうやって足開いてても、かっこいいから大丈夫だよ。俺、見惚れちゃうな」
「なぁにがだいじょうぶなんだよ……気にしてねえし」
ゆっくりと体を倒して近付いてくる瑛二の額に、一発デコピンを食らわせてやる。繋がった場所も動きに合わせて角度が変わってじわじわと違和感のような痛みが広がってきた。
おれだったらもう動きまくってるな、と思った頃、満足そうに大和の顔を見つめていた瑛二が口を開いた。
「ねえ、動くのってどうやったらいい?」
「んなの、おまえのいいようにすればいいだろ」
「いつも大和がしてくれてるみたいにするには?」
「……おまえが上のっかって動くときみたいにやればいいんじゃねえの?」
「だいたい大和が動いてくれてるから……でもわかった」
うん、と頷く瑛二に、「おまえが良けりゃそれがいい」ともう一度念を押す。
初めてで上手くできる男なんてそんなにいないだろう。自分がどうだったかは忘れてしまったけれど。
瑛二はセックスで、自分がどうなるのが一番気持ち良いかわかっているのだろうか。まだ後ろを触られないとイけない体にはしていないはずだけれど――。
絶頂への期待からか、中に入っている瑛二のものがずくんと脈動した。狭い中での小さな動きも大和には直接伝わってしまって声が出るのを我慢する。
やがて瑛二の体は大和の上で動き始める。
腰を掴まれ、抜け出すような動きの後に、ぐっと沈む。ゆるやかすぎる律動は、穏やかに大和への刺激をもどかしいスピードで与えた。瑛二の腰を支えて動かし方を教えてやろうかと一瞬考えたが、そんなことをしている場合ではない。
「や、まと、やまと、ごめん……へたで……」
「あやまんな、いいから……っ」
確かにお世辞にも上手いとは言えず、初めてらしいセックスで。けれど大和には少なくともそういう幼い懸命さがぐっときたりする。それに相手が大和のような男でさえなければ瑛二だってもっと――いや、そんなことは考えない。
丹念な瑛二の前戯によってぐちゃぐちゃに濡れた肌と肌がぶつかってたてる音が耳を刺激する。吐息を漏らしながら必死に大きな快楽に飲み込まれないようとする表情も、いつもと違った妖艶さがあった。何より、不慣れな動きだろうと可愛い恋人と抱き合って嬉しくない男などいないはずだ。
「えーじ……ッ! おまえ、きもちいいか?」
「んッ、きもちい……きもちいいよ……」
「……おれも」
両手を差し出し瑛二のそれと繋ぎ、指を絡める。体をぱたりと倒し浅い位置だけでぴくぴくと動く瑛二は、表情を蕩かせたまま大和の名前を呼んだ。
「やまと、やまと……出ちゃう……」
「ん……いいぞ」
繋いだ手をぎゅっと握って肯定すると、安堵した表情で瑛二が小さく頷いた。コンドーム越しでも、瑛二が達したのがその熱さでわかる。ぱたりと大和の体にうつぶせで倒れ、中から性器が抜けてしまった。
「童貞卒業だなぁ、瑛二」
「なんか……呆気なかった……」
まるで生気が抜けてしまったように、ぼーっとした表情で瑛二が呟く。形の良い頭を撫でてやり、額にキスをおくる。
「……おれ、そうとうおまえに惚れてるみてえだ」
なんで、と聞かれなくても、疲れ切った瞳に見上げられると瑛二の気持ちが分かった気がした。
「おまえもだろ。ふつう、めちゃくちゃ好きじゃねえやつにあんなことされてもいいなんて思わねえぞ?」
「……そっかぁ…………」
そっと抱きしめた腕の中で納得した様子の瑛二が、大和にはたまらなく愛らしく見えた。
普段はこんな男同士でのことだからとさっぱり割り切ってきたつもりだが、女でなくとも瑛二は可愛くて大切な恋人なのだ。瑛二にとって大和もそうなんだろう。
「うし、じゃあやるか」
ベッドに瑛二の体を転がし、逃がさないように両手で檻を作る。瑛二が逃げ出すなんてことまずありえないが、もう一回抱かれろなどと言われたら困るから。
「いいだろ? 瑛二」
「……うん」
唇にそっとキスをすると、両腕に背中を抱きしめられる。熱っぽい菫色はもう自分が抱かれることを分かっていて、はやくしてと大和を責め立てているようでもあった。
「えーじ、おまえまたおれのこと抱きてえなら、自分がなにされてるかちゃんとおぼえとけよ」
「……でも大和、いつもいろいろ早いんだもん」
「はやくねえよ」
「ほら、今だって話しながら俺の足……」
もうほとんど何も考えずに事に及んでしまっているのかもしれない。確かに無意識のうちに足首を掴んで開かせてしまっていた。
じゃあいちいち解説してやればいいのだろうか。恥ずかしがってもういいと痺れを切らす姿を想像するのは難しくない。
「でもやっぱり俺、大和にこうしてもらうのが好きだな」
俺は大和しか知らないから――と、瑛二が微笑む。
「これからもずっと、大和だけが俺に触れていいんだ。こうして愛してくれるのは大和だけ。大好きだよ」
「あぁ、そうだな……おれも瑛二が、瑛二だけがすきだ」
そっと呟くと、うれしい、と目を細くする。
二人はまた繋がり合う。瑛二の細い体はぴったりと大和の肌にくっついて、一つに溶けていく気がした。
