誕2024

 瑛二、と耳元で名前を囁かれて抱きしめられると、すぐに何もかも忘れてしまいそうになる。
 もう数えきれないほど重ねてきた行為なのに、大和に触れられるとどこも初めてみたいに瑞々しい快楽を兆すから不思議だ。スムーズな手付きで服を脱がされベッドに横になった俺は、はっと思い出して上半身を起こした。

「今日は俺がしたい」
「したいって……何をだよ」

 まだ服を着たままベッドに座った大和が目を眇める。

「全部だよ。大和は何もしないで」

 日付を超えて三月三十日になるまであと一時間。誕生日だから特別に――ともったいぶるわけじゃなくて、誕生日を口実に、本当は普段からしたいのにできないことをしているだけかもしれない。
 大和は俺の言葉に従って、そのまま動かなかった。俺が服を脱がせようとすると手伝ってくれて、唇を合わせるとやりやすいように少し顔を傾けてくれる。キスの合間に唇に触れた大和の吐息が熱くてドキドキする。唇を首筋へ、鎖骨へ、胸元へ、ゆっくりスライドさせていく。立派な腹筋はどれだけ触っていても飽きない。手のひらで撫で、唇で感じる隆起に惚れ惚れした。

「大和、痕つけたらだめ?」

 奉仕のつもりでいたのに、ついわがままを言ってしまう。

「別にいいぜ。脱ぐ仕事もたぶんしばらくねぇし」

 それはそれで残念でもある。二人きりの部屋で大和の肉体美を感じながら楽しみたいという気持ちと、写真集や雑誌を通してきれいに撮られたこの筋肉を見たいという気持ちは相反していて両立しない。
 見事に割れた腹筋に唇を寄せ、強く吸い付いて痕をつける。俺だけのもの。大和を好きになってから、独占欲や征服欲が自分にもあるのだと気付かされた。誰にも見せないでほしい。でも、俺にはいろんなかたちで見せてほしい。
 たくましい上半身をたっぷり堪能したあと、性器の先端にくちづける。身体の大きさに比例したサイズ感とこの熱の塊に犯される期待とで、俺の下腹部もみるみるうちに反応を始めてしまう。突き出した舌で亀頭をちろちろ舐めると、大和の大きな手のひらが俺の頭をそっと撫でた。自分が主導権を握れないときの、大和のなんともいえない居心地の悪そうな感じが好きだ。悪いことなんてしてないのに、全部任せて申し訳ないみたいな顔をする。
 唾液にまみれた亀頭を口に含んで舐め回すと、口と根元を支える手の中で硬度を増すのがわかる。身体って正直だ。

「……えーじ」

 仰向けに横たわり、大和が俺のされるがままになっている。それだけで興奮する。ぐっと視線を上げて大和の顔を見つめた。口淫しているときの俺の表情を見るのが大和は好きなのだと知っている。

「こすってくれ」
「……ん」

 求められて、大和の性器を扱いた。俺よりうんと大きくて力の強い相手が、俺の一挙一動に翻弄されている姿を見るのはたまらない。先走りがあふれ出して、大和が感じているのが伝わる。俺の拙い行為で大和が高まっている。もどかしそうに腰が動いて、俺の身体も奥の方から疼いた。俺も大和に気持ち良くされたい。
 いく、と大和が口にしても、俺はやめなかった。
 清々しいほどの放出があり、俺はそれを咥内に受け止める。
 全部大和のものだと思えば愛おしくて仕方がない。顔を近付けて嚥下するさまを見せつけると、肩で息をしながら大和が「エロすぎだろ」と笑った。俺はこうすることで自分がいやらしいなんて自覚はなくて、そんな俺の行為で喜ぶ大和が結局いやらしいと思う。全部全部、大和が喜んでくれるからしているに過ぎない。

「どうせおまえも勃ってんだろ」
「だめ」

 上半身を起こし、俺の下腹部に伸ばした手をそっと制した。

「今日は俺のことはいいんだ」
「おれがしたいって言っても?」
「……したいの?」
「したい」

 大きな瞳をすこし細めて、いじわるな顔をして大和が頷く。この顔が好きだ。大和がこういう顔をしたあとは、俺が好きなことをしてもらえるとわかっているから。

「じゃあ……いいよ」

 承諾するふりをして、心の中ではしてほしいと強く願っていた。大和にちょっと触られただけで俺はおかしくなってしまう。他の誰が触れたって何も感じないのに、大和にされたときだけどうしようもなく気持ちいい。
 体勢を変えず、二人で向き合ってベッドに座ったまま、大和が俺の脚の間に手を伸ばす。先走りのせいでもう十分濡れて上向いていた性器を軽くこすられただけで身体の奥まで貫かれるような快感が走った。弱い電気を流されたみたいに身体が甘く痺れる。自らねだるように足を開いた。

「あっ……ん、いく……っ」

 後ろ手をついて背をそらし、腰を少し浮かせて、俺は大和の手の中で射精した。一人でするときには絶対に得られない幸福感。大和は手を後ろに移動させて、指の腹を孔に宛がう。そこを気持ちよくしてもらえる期待はすぐに叶えられず、大和はもったいぶって後孔のふちを優しく撫でるだけだった。

「大和、はやくして……っ」

 わがままだとわかっていながらねだってしまう。

「今日はおまえがするんだったよな」
「でも……」

 もうあと少し、というところで焦らされるのは違う。反論したかったのに、喉の奥がつかえて言葉がちゃんと出てこない。

「ここ、自分でいじんねぇのか」

 精液にまみれた指の先を少しだけ含ませて大和が訊いた。首を横に振って答える。

「一人でするとき、絶対ここも使った方がいいぜ。えーじ、もうここの方が感じんだろ」
「あ――」

 もっと、と求めるように腰が揺れる。大和はそれに応えてゆっくりと指を深く差し入れた。大きな空気のかたまりを飲まされたみたいに息が苦しい。

「おまえも指いれてみろよ」

 命令されているわけじゃないのに俺は逆らえない。大和の言う通りにすれば、もっと気持ち良くなれると知っているから。手を伸ばして大和の中指が埋まっているところに、俺も指の腹を押し当てた。いつももっと質量のあるものを受け入れている場所は、指二本を受け入れることに抵抗はないようだった。

「あ、あぁ……!」
「いいだろ?」
「ぁあっ、いい……っ、いい……」

 片方は自分のものなのに、内壁を押し上げる感覚に肌が粟立った。性器が再び硬さを取り戻す。自分の内側で大和と指を絡めた。
 性行為で感じる愉悦はいつも少し恐ろしい感覚が付きまとう。これ以上したら身体も頭もおかしくなってしまうような恐怖。それを超えることで絶頂に至るのだと知っていても、自分で自分をそこに導くのは怖い。
 自分の指を引き抜くと、見かねたように大和の指が二本増やされて俺を中から犯した。

「や、あぁ、あっ、あ」
「ちゃんと覚えといたほうがいいぜ」

 中指が繊細な動きで、発火点をはっきりとこすりたてる。

「あ、ああ……!」
「えーじが好きなとこ、ここな」
「や――いや、あぁ、っん」

 自分でも知らない自分の弱点を教えられて、快楽に弱い俺の身体はわかりやすく発情した。

「あっ……ん、また、いっちゃ、う……っ!」
「さわってねぇのにいくなよ」

 呆れたように大和が笑って、指が順に引き抜かれた。絶頂を直前にしていた身体が突然の喪失感に震え、わけもわからず本能的に俺は自分の性器に手を伸ばす。それを大和の手に止められた。

「やだ、いきたい……」
「おまえがするって言ったんだろ」

 そう言うと大和はベッドに仰向けに寝転がった。意図はすぐにわかって、俺は大和の腰を跨ぐ。身体のどこでも、大和の意思で触れられたらすぐに達してしまいそうだった。
 勃起しきっていない大和の性器を擦りながら、健やかな胸筋の中心に尖った乳首を口に含む。俺の性器からはずっととろとろと先走りがこぼれ続けて大和の太もものあたりを汚した。
 大和の性器をしっかりみなぎらせ、後ろに宛がう。きれいに割れた腹筋に手をついて見下ろすと、自分でもかわいそうになってしまうくらい反り返った性器が視界に入った。

「あ、ああ……!」

 腰を下ろして、後孔に大和の性器を咥えさせる。何度二人で繋がってもこの大きさにはすぐに慣れない。先端をほんの少し含んだだけで俺の性器から白濁が飛び散った。

「やっ、ああ――!」
「一人でいくなよ」
「あ、ん、ぁあ……っ」

 大和の両手に腰を掴まれ、ゆっくりと下ろされる。挿入はスムーズだった。まっすぐ深く大和の熱を飲み込む。吐精によって一度萎えかけた性器がすぐにぐんと硬度を取り戻して、自分の身体の浅ましさを思い知らされた。

「や――いや、あぁ、っん」
「おまえの身体、ばかみてぇにかわいい」
「ん、あ、ああっ、あっ」

 うんと突き上げられて、下の口が悦んでみせる。内側の肉がうねるように収縮を繰り返して大和を誘い、大和はそれに応えて腰を上下に振った。指で教えられた場所を性器で的確に突いてくれる。

「んん、あ、ああっ、あっ」
「えーじ、やっぱ、おれがやる」

 大和が上半身を起こしたと思うと、そのまま押し倒されて正常位に移る。片足を高く持ち上げられ、大和が腰を入れると結合はさらに深くなった。

「大和……やまと、っ」
「えーじ、好きだ……」
「俺も、俺もすき……っ」

 両手を伸ばして分厚い身体にしがみつく。

「きもちいいか?」
「あっ……んっ、いいっ、気持ちいい――好き……っ」

 特に感じるところばかりを何度も責められ、重なった身体の間で何度も精を吐き出した。

「やまとも、いい……?」
「あぁ、すげー……気持ちいい」

 大和が目を閉じる。駆け上がってくる情欲に耐えるときの表情。そしてそのあと眉根を寄せて、苦しそうに息を吐く。

「えーじ、出すぞ……」
「あ、あ……っ!」
「ん――ッ!」

 激しい抽挿が止まって、深いところで大和の放出を感じる。大和の重みを受け止め、身体の内側で感じる大和の熱に、たまらず俺も射精してしまった。互いにうっすら疲労した身体で抱き合い、大和が俺の肩を掬って抱き上げる。繋がったまま、大和がベッドに座り、その太ももに俺が乗っかる格好になった。大和の肩に顎を乗せて目を開ける。部屋の時計が目に入った。

「あ……」
「ん?」
「大和、誕生日おめでとう」
「このタイミングでかよ」
「いつの間に日付超えてたんだ」

 首筋にそっとキスをする。ここは痕にならないように。
 大和の指が結合部を撫でて、断続的かつ弱い刺激があった。唇と唇を合わせて、俺は大和の舌を受け入れる。いろんなもので大和に内腑をまさぐられることは俺にとってはもう快感でしかない。舌で歯列をなぞられ、性器で感じやすい内壁をこすられ、大好きな身体にしがみつきながら喘いだ。

「好き、大好き……」
「おまえほんとに好きだな、セックス」
「大和とじゃないと、好きじゃない……」
「……変なこと言うなって」

 中で大和が大きくなったのがわかる。かわいい。ぴったり密着して、抱き合えることが幸せだった。

「大和は?」

 汗で濡れた金髪をかき上げながら訊いた。普段はあんまり見ることができないおでこに唇を寄せる。

「好きだ。瑛二も、瑛二とするセックスも」
「一緒だね」
「あぁ……えーじ……」

 乳首を食まれてびくりと上半身を反らした。両手で腰をがっちりとホールドされて逃げられない。自分じゃ見えないのに、乳首が赤く腫れて勃起しているのがわかる。

「一回抜くぞ」
「え……」

 腰を持ち上げられ、ずるりと大和の性器が引き抜かれる。大きなものが出ていく感覚に孔のふちが震えた。

「や……っ」
「あとでまたいれてやるから」

 と、大和は二つの性器を重ねて扱き出す。

「いっしょにいきてぇ」
「あっ……!」

 腰が揺れているのはどちらのせいなのかもうわからない。下の口に感じる妙な喪失感を、大和は他の方法ですぐに埋めてくれる。尖った胸の先端を器用に舌で転がされる。優しく吸われたと思うと甘噛みされ、ここで射精できるのではないかと思った。
 大和が精を放って、それにつられて俺も達する。抱き合ったまま、大和の指が後ろに含まされる。

「指じゃ、や……っ」
「わかってる」

 と答えながら、大和は中指の抜き差しを繰り返した。太さも長さも物足りないけれど、器用に動く分的確に俺のいいところを細かく刻むようにこすってくれる。さっきまでの行為で拡げられた内壁は、大和の指に合わせて収縮して絡みついた。

「や……っ、あ、ああっ……」
「指じゃいやなんじゃねえの」
「ん、あぁ――でも、きもちい……っ」
「じゃあもうこれだけにするか?」
「やだっ、あ、あ――」

 大和の誕生日だというのに、さっきからずっと俺がねだってばかりだ。

「や、指だけじゃ、や、あ、あっ!」
「どうしてほしい?」
「もっと、おっきいので、突いてほしい……っ」
「いいぜ」

 大和の言う通り、俺の身体は大和と交わることでいやらしくつくりかえられてしまったのかもしれない。
 腰を持ち上げられ、後孔に性器を押し当てられた瞬間、自分から腰を下ろして求めてしまった。半分くらいを飲み込み、そこからは前後を刺激するような動きで最奥まで深く。射精の衝動をこらえると唸るような声が出て、大和に笑われる。

「あ――、あっ……きもちいい……っ」

 ぎゅっと強く抱きついてゆるゆると腰を振った。大和も俺の背中に手を回し、頭を撫でてくれる。座った大和の太ももに乗り、大きな体躯にしがみつきながら足の裏をシーツについて身体を支えて俺が動いた。大和は俺の頭や肩を支えてくれる。目と目を合わせると、まぶたが熱くなって瞳が潤む。恥ずかしさとあまりの気持ち良さとで泣きそうになった。

「かわいいな、おまえ」

 互いの体液に濡れた肌がぶつかり合って音をたてる。口づけを求められて視界が奪われた。

「好きだ、瑛二」

 ほんのすこし離れた唇と唇の間で大和がささやく。

「俺も、好き……っ」

 涙があふれ頬をころがった。大和の指がそれを拭う。

「おれが動く」

 俺の両足を膝裏から抱え上げたまま大和が腰を揺すり始める。気持ち良すぎて泣いているのをこれ以上見られたくなくて抱き縋った。

「あ、あっ、ん、ぅ……あ!」
「あんま耳もとで喘ぐなよ。とまらなくなる」
「あっ、大和……っ」

 宣言通り大和の律動はしばらく止まらなかった。腹の間で俺が射精に至ったとわかっても、嬌声にどれだけ泣き声が混ざっても。

「ん――あっ、あ、あぁっ」

 気持ちいいところばかりを抉るほどに突かれる。ぴったりと嵌っているのがもう当たり前みたいな感じがして、ことが終わるのが怖かった。俺はちゃんと、一人の身体に戻れるのか。

「えーじ……ッ」
「あ、大和、そこ、もっと……っ」
「しらねぇぞ、もう――」
「は、あっ……ぁうう、あっ!」

 キスできる距離で、でも唇は重ねず、じっと見つめ合いながら俺たちは果てた。きつく抱き合い、射精の余韻みたいにゆったりと腰を擦りつけ合う。何度もいって、いかされて、いかせて、体力と精力の続く限り求めあう。これから二人で年を重ねていけば、いつかこうして何度も交われなくなるときが来るのかもしれない。そんなときまで一緒にいられたら嬉しいけど、でもちょっと寂しくもある。

「大和」

 オレンジ色の瞳がまっすぐ俺だけを見つめる。疲労とけだるげな気配が色っぽくもあった。

「俺たちずっと一緒にトレーニングしようね」
「なんだよそれ」
「この先体力が落ちて、できなくなったら寂しいなって思って」

 その言葉に、大和は腹筋をひくひくさせて笑った。俺は大真面目なのに。

「じいさんになっても抱いてやるよ」

 大和の答えがどれだけ本気だったのかはわからない。
 なにげない一言に喜んだりときめいたりしてしまう。今日も明日も俺は、いつでも新しい気持ちで大和のことが大好きだから。

 

 

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