「お――」
おはよう、と続けようとした言葉をとっさに引っ込める。なるべく静かにドアを閉め、キッチンに立つ初々しい二人を眺めながらヴァンは壁にもたれて腕を組んだ。
冷蔵庫から卵を取り出した大和が、ボウルを手にした瑛二の元にいそいそと戻り手渡す。空いた手でその細い腰にそっと触れるといたわるように上下に撫でた。瑛二は困り顔で大和を見上げ「もう、大丈夫だって」と肩をすくめる。
(うーん…………これはこれは……)
近い近い。思わずつっこんでしまう。大和が後ろから瑛二に覆いかぶさるように抱き着くと、背の低い(グループ比)瑛二の姿はほぼ見えなくなってしまう。
(いや~……朝からあっついなぁ……)
完全に二人の世界。少し離れたところで観察するヴァンに気付く気配もない。残る四人は泊まりの仕事で寮にいないからといって気を抜きすぎだ。諸々事情を知っているヴァンになら何を見られたっていいってことか。
大和がばかでかいせいで、ヴァンからはほとんど大和の姿しか見えない。衣擦れの音がして、大きな手のひらが瑛二のエプロンをもてあそんでいるんだろうと想像した。どこで出て行くか迷う。いろいろと許容範囲は広い方なので、もしおっぱじめても平気だが、たぶん本人らはいやがるだろうし後から「最初から出てこい」と理不尽に叱られるのが関の山だ。
「……もう一回ベッド行く?」
お誘いの言葉だけやけに鮮明に聴こえる。
大和が背を折ると、顔を上げてキスをねだる瑛二の顔も見えた。
(あーいいなー、ワイもチューしたいなー、久しく誰ともしてへんなー)
心を無にし、ただ見守る。出て行くタイミングを逃してしまった。
やがて長いキスを終えた瑛二がうっとりとした瞳で大和を見上げ、それから乾いた視線に気付いたのか、ヴァンを振り返ると「うわぁっ!?」と化け物でも見たような声をあげる。
「おはよーさん」
ひらひらと手を振る。気付かなくてごめんねと慌てながら謝る瑛二に対して、大和は顔を真っ赤にして「いるならいるって言え!」とやっぱり怒った。
「ヴァンも一緒に朝ご飯食べよう」
「ええの? 部屋戻るんと違ったん?」
「あんまからかうなよ」
大和の怒りは最高潮からすぐに下降したようで、大きなため息をついてフライパンを火にかける。瑛二は大和の手首を掴むと首を傾げて言った。
「俺は……部屋、行きたいな……」
うわ、かわいい。
と、心の中で言ったはずが声になった。
「……行くぞ、瑛二」
大和はさらに顔を真っ赤にして、火をかけたまま瑛二を連れ去る。途中、エプロンを脱ごうとした手を制した。
「仲良えなぁ」
ボウルで混ぜられた二人分の卵をざっと流し入れる。『三人で朝ご飯』まではきっと時間がかかるだろうから。
