激しい雨が降り続いていた。雷の轟音にも一度も目を覚まさなかった大和は、部屋の蒸し暑さにふっと目を開けた。
「……停電、か?」
天井を見上げぽつりと呟く。エアコンは沈黙し、室内は湿気を含んだ静けさに包まれていた。隣で瑛二が動く気配がする。同じく目を覚ましたようだ。
「そうみたい……。雷、近かったもんね」
瑛二はベッドを抜け出しカーテンを開く。激しい雨がベランダの鉢を濡らしていた。差し込んだ月の光が淡く瑛二の輪郭を照らす。
「こんなに降るなんて珍しいね」
カーテンを開け放したまま瑛二が隣に戻ってくる。空が光った瞬間、華奢な肩が小さく震えた。雷鳴が届く前に思わず抱きしめる。
「ごめん、ちょっとびっくりしちゃった」
「いや……」
また激しく光り、今度は大和が目を瞬かせた。雷が怖いわけじゃないが、不意をつくように光るのはやめてほしい。大和のTシャツの裾を握りしめる瑛二の手に力が込められる。まるで、俺が守るとでも言うように。
「……暑いな」
ぴたりと胸元におさまった瑛二の身体がじんわりと汗ばんでいる。夜とはいえ真夏だ。エアコンが切れ、窓も開けられず、部屋じゅうがじわじわ蒸されていく。
「暑いね」
「水でも飲むか」
住み慣れた家は電気が切れていても問題なく歩ける。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。それから瑛二が充電式の小型扇風機を机に置く。ぬるい風が送られてくるばかりで、涼を得るには不十分だった。
「外で雨にうたれるほうがましかもな」
冗談っぽく言いながら大和はTシャツとハーフパンツを脱ぎ捨てる。冷えたペットボトルを首筋に押し当てる瑛二の腕を引いた。
「どうしたの? 雷怖い?」
「こわくねぇよ」
子どもに問いかけるような瑛二の声色にはっと笑う。Tシャツの中に手を差し入れると肌がしっとりと汗ばんでいた。
「ぬがねぇのか」
「……したくなっちゃうから」
窓の外が光る。今度は気にも留めず瑛二は「大和と、セックスしたくなっちゃう」と続けた。大和の指に触れられた薄い筋肉がぴくりと引きつる。誘うように、大和を見上げる紫色の瞳が艶めいた。
Tシャツの裾をたくし上げると瑛二は従順だった。自ら腕を抜き、上裸の大和の首に腕を絡める。
「俺、大和の汗、好きだな……」
唇がそっと鎖骨に触れる。そこに薄く浮いた汗を舐められ、劣情に駆られた。
月明かりを頼りに瑛二が探し当てる。瑛二が好きなところと、大和が感じるところと。
首筋を舌が這い上がり、耳の裏を舐られると、さすがに「ん」と短い声が出た。
「かわいい……」
耳もとで息を吹きかけるように囁かれ肌が震える。好きな男に好きに愛玩されるのはもちろんたまらなく興奮する。負けじと瑛二のハーフパンツに手を突っ込み、下着の上から後ろをくすぐった。布地が肌に貼り付き、そこも汗で湿っているのだと気付く。
「ん、ん……っ」
「おまえこそかわいい」
「仕返し?」
「ああ」
「やっぱり大和、かわい……あ、あっ」
布地の上からでも膨張は明らかだった。全長を揉みしだくように扱くと耳のそばで聴こえる嬌声が甘くなる。
「や、あ、あ……っ」
「きもちーだろ」
「ん、んっ、きもちく、ないっ」
「うそつくなって」
「直接、さわってくれたほうが、いい……」
「……おまえときどきほんとやべぇよ」
身に付けたものを乱雑に脱がせベッドの下に放る。細い身体を組み敷き二つの性器を束ね扱き上げた。唇で乳首を弄ると汗をまとった身体が跳ねる。
「や、あっ、やまと……っ」
ねだる声色。吸い付くように重なる肌。ぴんと尖った乳首をくりくりこね回すと素直にさらに赤く熟れて求める。瑛二の手がシーツを乱し、その上で悶え身体をくねらせながら大和に懇願した。
「ね……、もういれて……はやくぎゅってして」
「……ばか、まだむりだろ」
全ての主導権を握っているのは大和のはずなのに、どうしてこんなにも振り回されるのか。そしてどうして、瑛二に振り回されることに興奮してしまうのか。
「おまえエロ、まじで……」
ローションを手に取る。視界が悪いせいか気持ちが逸るせいか、手のひらからいくらかこぼれてシーツに染みを作った。でもこれもそのうち汗と混ざってわからなくなってしまう。
「あ、あっ、ん」
片足を持ち上げ、指でそこを探る。閉じたくちを柔らかく潤ませ大和の形に変えていく。
「やっ、ああ、あっ」
「中も外も、もうぐちゃぐちゃだな……」
汗と欲求にまみれて。敏感になった瑛二の肌に汗が落ちるだけで、くぐもった声が漏れる。
「えーじ……」
二本、三本と指を増やしていく。この部屋で、このベッドで、もう何度交わってきたかわからない。それなのにこうして新鮮に興奮できることが不思議だ。
「いれるぞ」
繋がる頃には雨の音が弱まっていた。瑛二の甘い声ばかりが室内に響く。
「あ、ああ……ぁん……」
ぐっと奥を貫く。瑛二の恍惚と悶絶の中和した表情が月光に青白く照らされた。
ぴったり繋がり合い、大和は動きを止めた。脈打つように内側は震えて大和を求める。どこから発生しているのかわからないくらいの汗が流れ、重たい前髪をかき上げた。
「あっつ……」
「俺も……汗、止まんない……」
「えーじ、水」
絡み合ったまま水滴がびっしり貼り付いたペットボトルを手渡す。瑛二は仰向けで飲みにくそうに口に含んだ。
「大和も」
ふたの開いたペットボトルを受け取り、ごくごくと流し込む。
「熱中症とか、ならないように、ね……」
「瑛二のほうが心配だけどな」
「でも……いっぱい動くの、大和だから」
それは「いっぱいして」とねだるのと同義で。委ねられると燃えてしまう。ペットボトルをベッドに再び転がし、両脚を抱え直した。
それから思い切り、ベッドのスプリングを激しく軋ませるほど抜き挿しを繰り返す。
「あっ! あ、あっ、んゃあっ」
「ほら、いっぱいうごいてほしかったんだろ」
「んん、ぁんっ、いい……っ、きもちい、やまと……っ」
「……おれも」
でも、もっともっと。腰だけでなく全身を使って瑛二を貪っていると、汗が白い肌とシーツに散る。汗で濡れた瑛二の身体を愛撫し、安堵する。おれとおなじだ――と。
「えーじ」
「あ、あっ、ん、大和……っ」
奥を抉った先端が瑛二の特に感じるところを何度も擦ると、細い身体が痙攣する。瑛二が深くいき、それでもなお動きを止めずにいると反り返った性器の先端からびゅくびゅくと白濁が飛び散った。無自覚のうちにきつく締め上げられて、大和も中で達した。
はーっ、はーっと荒い息を整える瑛二に、水を含んでくちづける。
「んんっ……んー……」
少量ずつ飲ませて大和の口の中が空になると、瑛二は打ち上げられた魚みたく口をぱくぱくさせてさらに求めた。ぬるくなりかけている水を大和の温度でよりぬるくして、瑛二に分け与える。
「大和?」
「ん?」
「ずっとおっきい……」
自身の下腹部を撫でながら上目遣いで言う。
「さっきいったのに」
「もっかいしてぇから」
「うん……俺も」
両手を伸ばして求められる。汗にまみれた身体で抱き合い、熟れ切った瑛二の内側をまた犯す。
「あっ! あ、ぁん、あ――……っ」
嬌声と、汗と、精液と、いろんなものが瑛二から染み出る。大和の身体も同じように体液で熱と興奮を知らせた。互いに舌で汗を舐め取るよりはやく次の汗が生まれてきて、交わる激しさも相まってシーツは絡み合う二人の形に濡れた。
この行為が終わる頃には電気が復旧して、エアコンもシャワーも使えるようになっていてほしい。現実的にそう願う瞬間、じゃあずっと暑くて暗いままならば、ずっと瑛二とこうしていられるのか――と、ありえない妄想が頭をもたげた。
それでも朝はくる。一秒でもいいから長く続けと、祈りのようにまた汗ばむ身体を重ねた。
