愛は死なず

maize

 巨大なトランポリンに乗せられていた。ちょっと待ってこんなんやったことないんやけど――地上で手を振り見守る瑛一に助けを求めると、頑張れと応援されてしまう。頑張れって何を? 身体は宙に跳ね上がり、着地に失敗してがくりと膝をつく。それでも沈んだ…

夢の羽ばたき

 HE★VENSのファーストライブは都内で行われた。 十分なメディア露出と、レイジング鳳のネームバリューもあり事前告知は万端、チケットは発売後五秒で完売となった。ネイビーに銀色のラインをあしらった三人揃いの衣装に身を包み、瑛一は今日の進行を…

ハーモニーブルー

「納得できないんだけど」 沈黙をはじめに破ったのはナギだった。不満を顔いっぱいに浮かべ、頬杖をつきながら指で机を小刻みに叩く。 六人が揃って半月ほどが経過したその日、瑛一に集められ、告げられたのは瑛一・綺羅・ナギ、三人でのグループデビューだ…

バックステージ

 ヘルメット片手に事務室へ向かうと、待ってましたとばかりに林檎が駆け寄ってくる。「ねえ龍也聞いた? レイジング鳳の息子がデビュー間近ってウワサ!」「ああ……鳳瑛一だろ。デビューも何も、深夜番組とか出てたし、雑誌のモデルで結構露出はあっただろ…

リフレイン

「こんばんはー!」 夜なのに朝の挨拶のような明るい声が聴こえ、瑛二はナギと同時に顔を上げた。「荷物重かったー! 綺羅ちゃんおる? ちょお手伝ってくれへんー?」「来て早々うるさすぎるんだけど~」「にぎやかになって楽しいね」「ナギはもっと落ち着…

アンビバレント

 初夏の緑が揺れて音を立てる。ざざ、ざざ、と心地よい。木の匂いに鼻をくすぐられ、縁側のつるりとした木目に頬を擦り付け体勢を変える。横になれりゃなんでもいいが、ずっと同じ向きで寝転がっているのは疲れてしまう。疲れることなんてなんもしてないだろ…

桜舞う

 散りかけの桜が、サイズの少し大きい制服の襟元から入り込んでくる。髪に花びらがくっ付いていると教えると、兄は楽しそうに微笑んだ。踵を上げ、それを取ってあげる。百八十センチを超えた兄とはこんな他愛のないやり取りも一苦労だ。「ありがとう兄さん、…

運命やから

 昔から、運命という言葉の響きには何かと弱い方だった。 気持ちをがっと掴まれるというか、そんなときめきに似た衝動が好きで、それに従うことがままあった。 それは所持品ひとつとっても言えることだ。例えば、出張用に使っている旅行鞄やだいぶ底がすり…

音の残響

 電車の扉が閉まるとき、寂しいような名残惜しいような、なんともいえない気持ちに襲われた。この土地で生まれ育った。次いつ帰るのか――果たしてそれは「帰る」と呼べるのか――わからない。心細さを覚えるのは当然だった。 東京行きの特急電車は、週末に…

純真と刹那

 自分はあまり感情が顔に出ないタイプだと思っていたが、その少年を前にして、綺羅は驚きを隠せなかった。「すまない。もっと早く話しておくべきだったな」 瑛一が眉尻を下げる。驚いているのは綺羅だけではない。向かい合った少年も大きな目をさらに見開い…

光に惹かれて

 東京に行きたいと切り出すと、両親は口をぽかんと開けたあと、顔を見合わせて、今度はナギがびっくりするくらい冷静に「東京で何をしたいの?」と問いかけた。「アイドルになりたいんだ」 瑛一に送ってもらった資料をガラステーブルに広げる。レイジングエ…

夢の息吹

 瑛一宛にナギから手紙が届いたのは、雪のちらつく一月だった。 事務所宛のファンレターに紛れていた封筒の「帝ナギ」という可愛らしい丸文字を見ても、すぐにはあの日出会った可憐な少年とは結び付かなかった。 ――こんにちは。十月二十四日にお台場のテ…