愛は死なず

蒼穹

 瞳の端に光る滴を、彼は急いで拭った。「ナギ」 声をかけると、何でもない風に笑ってみせる。強がりはいつものことだ。ナギは綺羅が差し出したハンカチを素直に受け取る。ありがとうと礼を言うと大きな瞳に新しい涙が浮かんだ。どんな言葉をかけて良いか分…

羅針盤

 集合時間の三十分前、人気のない共有スペースにエアコンを入れておく。九月の真昼間はまだまだ暑い。暑いのと同じくらい寒い場所も苦手なシオンのためにブランケットをソファの端に置き、瑛二はしばらくその場に座って空調の効きを確かめた。そうこうしてい…

Sing for you

 朝焼けの燃えるような色が湖畔に映り込んでいる。鳥が水面に着地すると波紋が広がった。予定より早く目が覚め、ジョギングのために外に出た瑛一は、岸辺に人影を見つけ立ち止まる。細く白い。それがシオンだとすぐ気が付いた。「瑛一」 後ろに目でもついて…

眩光

 自分は他人と比べて行動力がある方だと気付いたのは、小学生の頃だった。目に映る物事に果敢に飛び込んでいけるのが長所で、通信簿でも積極性をよく褒められた。いろんなことに興味があったから様々な委員会を経験したし、中学一年生の頃はありとあらゆる部…

朝陽と閃光

「あっ……かん、もう、限界、かも……」 正面の鏡の中でヴァンが唇を噛み、苦々しい顔をする。同じステップをもう何回繰り返しているだろう。ナギはなんとなく数えていたけれど、百を超えたあたりでカウントをやめてしまった。「ヴァン、笑顔をキープしろ。…

Wistaria Duo

 兄が七人目として連れて来たのは、天使のような少年だった。 肌もふわふわな髪も光を受ければ透き通りそうなほど白い。シャープな顔立ちに長い睫毛に縁取られた鮮やかな紫の瞳が際立ち、近寄りがたい印象を受ける。ゆるっとした衣服を着ているからか、身体…

幾千夜

 ――シオンくん、神様みたい! 浅い眠りの中で見る夢は、いつもその一言から始まる。 明らかに偶然だった。 足を怪我した友達の患部に触れた翌日、彼女は痛みが引いてきた気がすると言った。それはきっと治療によるもので、たまたまシオンが触れた日と回…

聖歌のエトランゼ

 あの日から、こうなる予感はあったのだ。 映し出された星の記号が回転しアルファベットのAに変化する演出が、あの日――うたプリアワードのノミネート中継のときから、まぶたの裏に焼き付いて離れない。 ST☆RISHに七人目が加わると発表された翌日…

Peerless Prince

「うん、そう。元気だよ」 母が電話をかけてくるなんて珍しい。たまたま部屋を出たタイミングだったから、ナギは廊下の長椅子に腰掛ける。 両親のどちらかとは月に一度話すけれど、電話をかけるのはだいたいナギだ。元気ならそれでいい、が口癖で、体調は本…

クロニクル

 幼い頃から感情表現は苦手だった。 だから、色とりどりのペンライトで埋め尽くされた広い会場で、うたプリアワードへのノミネートが決まったとサプライズ発表をされた瞬間も、喜びを分かりやすく示すことができなかった。 うたプリアワードとは、活躍が際…

超越への階梯

 HE★VENSメンバーが暮らす寮は全体的に洋風なつくりだが、一階の奥の方に広い和室と、庭を眺める縁側がある。和室の用途は不明で、メンバーが立ち入っているのを見たことがない。だから格好の昼寝場所だった。嗅ぎ慣れた畳の匂いが心地良い。 薄い座…

交錯

 テレビ番組の収録は、往々にして時間通りには進まない。十分程度の遅れは日常茶飯事で、三十分以上押したり待たされたりする場合もある。それ自体は仕方がなく、綺羅もいちいちストレスを感じないが、待ちが発生すると後悔が同時に押し寄せてくることが多か…